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画竜点睛〜龍に守られし国〜  作者:
〜天女降臨?〜
5/37

5.首都、龍居(ロンジュ)にて

再び、新婚さん甘々警報発令中。



 三人は、龍居(ロンジュ)の街に入ってから、馬を下り、歩いて章絢(ヂャンシュェン)の家へと向かっていた。


 (トン)国の首都である龍居(ロンジュ)には、多くの人々が集まって来ていて、商店や露店が所狭しと並び、大変な(にぎ)わいを見せている。


「ここが、龍居(ロンジュ)か。……スゴいね……」

 (フゥァン)は感嘆の()め息を吐き、キョロキョロと辺りを見回す。


「こらこら、そんなにキョロキョロしていると、ぶつかるぞ」

 麒煉(チーリィェン)が言ったそばから、(フゥァン)は前を歩いていた章絢(ヂャンシュェン)の背中にぶつかった。


「おっと、(フゥァン)。気をつけろよ。俺がいなかったらお前、あの馬車に()かれているぞ」

 章絢(ヂャンシュェン)に言われ、通り過ぎる馬車に目をやった(フゥァン)は、顔を青くする。


(フゥァン)。街にはいつでも来られるんだから、ちゃんと前を見て歩け」

「はい」

 (フゥァン)は肩を落として歩き出した。

 その落ち込んだ様子に少し言い過ぎたかと、麒煉(チーリィェン)章絢(ヂャンシュェン)は苦笑する。

 (フゥァン)の元気を取り戻そうと、二人は彼を(あめ)屋へ案内した。


 所狭しと並べられた色とりどりの(あめ)を眺め、(フゥァン)は目を輝かせる。

 章絢(ヂャンシュェン)はその中の一つを購入して(フゥァン)に手渡した。


「わぁー。いいの?」

「ああ。もちろん」

()めてみろ」


 (フゥァン)は、恐る恐る()める。


「美味しい!」

「そうか!」

「良かったな!」

「うん!」


 (フゥァン)に笑顔が戻り、二人はホッとした。





 宮城(きゅうじょう)の近くまで来ると、街の喧噪(けんそう)は遠くなり、立派な門構えの邸宅(ていたく)が建ち並んでいる。

 その中でも、一際門の高い一軒の前に来た章絢(ヂャンシュェン)は、警備の男達に声を掛けた。


「戻ったぞ。留守中、変わりはなかったか?」

「はっ! お帰りなさいなせ、章絢(ヂャンシュェン)先生()。異常ありません」

「そうか。ああ、先に紹介しておこう。今日からここで暮らすことになった、(フゥァン)だ。私の大切な弟のようなものだ。春風(チュンフォン)雷雨(レイユー)も仲良くしてやってくれ」


 紹介された(フゥァン)は、男達へ向かって、ぺこりと頭を下げた。

 それに男達も礼を返し、章絢(ヂャンシュェン)に、「(かしこ)まりました」と笑顔で言った。



「ただいまー」


 家の中へと声を掛け、ズンズンと奥へ入って行く章絢(ヂャンシュェン)の後を、麒煉(チーリィェン)(フゥァン)は追い掛ける。

 書房の前で止まり、部屋の中に愛しの妻の姿を認めた章絢(ヂャンシュェン)は、犬が尻尾(しっぽ)を振っているかのような喜色満面な様子で、彼女に声を掛けた。


子淡(ズーダン)! 戻ったよ!」


 愛しい夫を心配して、筆が進まず、ボーッとしていた子淡(ズーダン)は、呼びかけられた声にハッとする。


「まぁ! 章絢(ヂャンシュェン)! お帰りなさい」

 子淡(ズーダン)もパッと花が咲いたような笑顔になり、章絢(ヂャンシュェン)に走り寄った。


子淡(ズーダン)、会いたかったよ」

 章絢(ヂャンシュェン)はそう言って、愛しい妻を抱き締める。


章絢(ヂャンシュェン)、私もよ。寂しかったわ」

「ああ、子淡(ズーダン)!」


 二人の遣り取りを見ていた麒煉(チーリィェン)は、放っておくといつまでも続くことを知っていたため、(せき)払いをして、止めさせる。

「コホン。それくらいにしてもらえないかな。(フゥァン)も驚いているだろう?」

「ああ。子淡(ズーダン)、紹介するよ。この子は(フゥァン)。君の弟子として、面倒を見てもらいたいんだ。(フゥァン)、この天女が俺の妻で、君の師匠になる子淡(ズーダン)だ」

「まあまあ。私に弟子が出来るなんて! どうかよろしくね、(フゥァン)


 子淡(ズーダン)(フゥァン)を歓迎した。

 その様子に(フゥァン)安堵(あんど)する。


「はい、師匠! よろしくお願いします」


 頭を下げた(フゥァン)に、子淡(ズーダン)余所余所(よそよそ)しさを感じて、眉根を寄せた。


「うーん。なんだか師匠なんて堅苦しい呼び方だわ。子淡(ズーダン)大姐(姉さん)って読んでもらおうかしら?」

 子淡(ズーダン)の提案に、麒煉(チーリィェン)も賛同する。

「そうだな。その方が色々と都合がいい。(フゥァン)、これから子淡(ズーダン)のことは大姐(姉さん)章絢(ヂャンシュェン)のことは大哥(兄さん)と呼ぶように」

「分かった。あんたのことは?」

 (フゥァン)(うなず)き、麒煉(チーリィェン)に尋ねた。


「俺のことは、この場では麒煉(チーリィェン)大哥(兄さん)でも良いが、(かしこ)まった場では天子様、または皇帝陛下と呼ぶように」

「えっ!? えっ? えっ! ウソだろ?」


 驚いて挙動不審になった(フゥァン)に、「まあ、そう言うことだ」と、ニヤつきながら麒煉(チーリィェン)は言った。


「というか、天子様のことは知っていたんだな?」

 章絢(ヂャンシュェン)は不思議に思って尋ねた。


「そりゃあ、妈妈(母ちゃん)が天子様には絶対に逆らったら駄目だって、言っていたから……。俺、殺されるのか?」

 青い顔をした(フゥァン)が、(おび)えながらそんなことを言い出した。


 それに麒煉(チーリィェン)は、ショックを受ける。


「おいおい、俺はそんな暴君じゃないぞ」

(フゥァン)、大丈夫だよ。今のところ、逆らってないだろう?」

 そう言って、章絢(ヂャンシュェン)(フゥァン)を安心させた。


「そうか。良かった」と言って、(フゥァン)はホッと息を吐く。


「ふふ。(フゥァン)は素直な良い子ね。きっとご両親が素敵な方なのね」

「そうだな。なんせ母親は天女だからな」

 微笑(ほほえ)ましそうに見守っていた子淡(ズーダン)の言葉に、章絢(ヂャンシュェン)はそう返した。


「まぁ! そうなの?」

 子淡(ズーダン)は驚いて困惑する。


「そうだ、(フゥァン)。お前の力を見るのに、母親の絵を描いて、子淡(ズーダン)に見せてくれないか?」

 麒煉(チーリィェン)の提案に、章絢(ヂャンシュェン)も乗っかる。

「それは良いな。(フゥァン)、今から描けるか?」


 (フゥァン)は戸惑いながらも、「うん」と(うなず)いた。


(フゥァン)。ここにある道具を好きに使ってね」

「はい」


 子淡(ズーダン)からの好意に、(フゥァン)は目を輝かせて道具に見入る。

 

 (フゥァン)は恐る恐る筆を取り、近くにあった墨を付け、白い紙に描き始めた。


 三人は(フゥァン)が描く様子に感心して、()きることなく眺めていた。





 −−一時(いっとき)後。


「まぁ! 本当に天女のように綺麗ね……」

 子淡(ズーダン)は目を丸くし、章絢(ヂャンシュェン)は感嘆の声を上げる。

「おおー。本当に絵が上手いな。初めての道具でここまでの絵を描けるとは、大したものだ!」

「えへへ」

 二人の言葉に、(フゥァン)は照れた。


 (フゥァン)は、泥で顔を汚していた母親の姿ではなく、泥を落とした(フゥァン)だけに見せていた本当の姿を絵に描いた。


 その絵を見て、麒煉(チーリィェン)(うな)った。

「うーん」

「どうした? 麒煉(チーリィェン)

「改めてよく見ると、どこかで見たことがあるような気がするんだよな」

「えー? これほどの美人、お前なら早々忘れないだろ?」

 章絢(ヂャンシュェン)の言葉に、麒煉(チーリィェン)は思わず半目になる。

「お前、俺のことをなんだと思っているわけ?」

 

 その横で、子淡(ズーダン)も、「うーん」と(うな)り出した。

「でも、私も前にどこかで見たことがあるような気がする……」

 子淡(ズーダン)の言葉に、章絢(ヂャンシュェン)は驚く。

「えっ! 子淡(ズーダン)も見たことがあるの?」

「ええ。たぶん……」

「うーん。どこだったかなー?」

「本当にどこだったかしら?」

 麒煉(チーリィェン)子淡(ズーダン)の言葉に、(フゥァン)の目が輝く。

「二人共、妈妈(母ちゃん)に会ったことがあるの?」

「いやー、会ったと言うよりはどこかで見たって感じな気がする」

「そうねぇ」


 ずっと悩んでいる二人の様子に、(らち)が明かないと思った章絢(ヂャンシュェン)は、麒煉(チーリィェン)に帰宅を促す。

「まぁ、今はこれ以上考えても思い出せないようだし、そろそろ暗くなるから麒煉(チーリィェン)は帰った方が良いんじゃないか? 浩藍(ハオラン)が待っているだろ? それに、(シー)(シェン)も」


 章絢(ヂャンシュェン)(シー)(シェン)の名前を出すと、麒煉(チーリィェン)は苦笑した後、父親の顔になって、二人の姿を脳裏に思い浮かべた。


「そうだな。今日はこれで帰るとするよ。悪いが、明日は、子淡(ズーダン)(フゥァン)章絢(ヂャンシュェン)と一緒に龍居(ロンジュ)城に来てくれ」

 

 麒煉(チーリィェン)の言葉に、「分かったわ」と、子淡(ズーダン)(うなず)き、緊張した面持ちで、「龍居(ロンジュ)城?」と(つぶや)いた(フゥァン)に向かって微笑んだ。





 麒煉(チーリィェン)が帰った後、子淡(ズーダン)は夕食の準備に厨房(ちゅうぼう)へと向かった。

 章絢(ヂャンシュェン)は、(フゥァン)をこれから寝起きすることになる部屋へと案内した。


「今日からここが、(フゥァン)の部屋だ。好きに使ってくれて構わない」

「いいの?」

「ああ。もちろん。必要なものがあったら遠慮なく言うんだぞ」

「ありがとう」

「疲れただろう? 夕食になったら、呼びに来る。それまでここで、ゆっくり休んでいてくれ」

「うん」





 家宰(かさい)から留守中の報告を受けていた章絢(ヂャンシュェン)は、料理が食卓に並び、用意が出来たと子淡(ズーダン)に言われ、(フゥァン)を呼びに行った。


(フゥァン)、用意が出来た。食堂へ行こう」


 呼びかけに返事がなかったため、章絢(ヂャンシュェン)は、「(フゥァン)?」と声を掛けながら、扉を開けた。

 (フゥァン)は、椅子に座り寝入っていた。

 章絢(ヂャンシュェン)は寝台まで運んでそのまま寝かせてやるか悩んだが、やせ細っている(フゥァン)に少しでも食べて欲しくて、躊躇(ためら)った後、肩を揺すった。


(フゥァン)、ご飯が出来た。起きてくれ」

「うーん? あれ、俺……」

「目が覚めたか?」

章絢(ヂャンシュェン)大哥(兄さん)?」

「ご飯が出来たんだが、食べられるか?」

「えっ!? ごめん。俺、眠ってしまったみたいで……」

「謝る必要はないぞ。さあ、食堂に行こう」

「うん!」



「うわー! スゴい!」

 食堂に入り、食卓に所狭しと並べられた多彩な料理に、(フゥァン)は目を輝かせ、ごくりと(つば)を飲み込んだ。

 章絢(ヂャンシュェン)は、(フゥァン)を席に案内し、自分も席に着くと、子淡(ズーダン)が着席するのを待って、「さあ、いただこうか」と、二人に声を掛けた。


「はい。(フゥァン)、沢山食べてね」

「うん」


 子淡(ズーダン)(フゥァン)に、とりあえず作法は気にせず、好きなものを好きなだけ皿に取って食べるように言った。

 その様子を横で見守っていた章絢(ヂャンシュェン)は、早速、目の前にあった鶏肉に(はし)をつけ、口一杯に頬張(ほおば)る。


「うーん。久しぶりの子淡(ズーダン)の手料理は格別だな」

「もう。大袈裟(おおげさ)ね。私一人じゃなくて、花梨(ファリー)老娘(母さん)と一緒に作ったのだから、美味しいのは当たり前だわ」


 花梨(ファリー)老娘(母さん)は、章絢(ヂャンシュェン)乳母(うば)の女性だ。

 子淡(ズーダン)と結婚してからも、章絢(ヂャンシュェン)の世話をするため、この屋敷の使用人の宿舎で、家族と一緒に暮らしている。

 ちなみに、乳母(うば)の夫と、章絢(ヂャンシュェン)と同い年で乳兄弟の息子は、屋敷の管理や内向きのこと全てを取り仕切る家宰(かさい)をしていて、息子の嫁は子育てで忙しくしていた。


 夫婦二人の会話を聞きながら、(フゥァン)は黙々と初めて食べる御馳走(ごちそう)舌鼓(したつづみ)を打っていた。

 

(フゥァン)、どう?」

「もぐもぐもふほふ」

「ああ、ごめんなさい。飲み込んでからでいいのよ」

「すっごく美味しいよ! こんなに美味しいものは初めて食べたよ!」

 それを聞いて、子淡(ズーダン)はホッとし、笑顔になった。


 満腹になるまで食べた(フゥァン)は、「苦しい。こんなに苦しくなるまで食べたのは初めてだ」と言い、嬉しそうに笑った。

 そんな(フゥァン)に、章絢(ヂャンシュェン)子淡(ズーダン)も、「良かった」と涙を流した。

 (フゥァン)は困まった顔で、泣いている二人を見る。

 章絢(ヂャンシュェン)は、「目に(ごみ)が入っただけだ。気にするな」と言って、(フゥァン)の頭を()でた。


(フゥァン)。今日はもう部屋に行って休むといい」

 章絢(ヂャンシュェン)の言葉に、(フゥァン)(うなず)き、「おやすみなさい」と言って、食堂を出て行った。



 (フゥァン)が居なくなった後、夫婦二人だけになった章絢(ヂャンシュェン)子淡(ズーダン)は、再び会えた喜びを噛み締め、抱擁(ほうよう)していた。

 そうして、暫くしてから章絢(ヂャンシュェン)は言った。


子淡(ズーダン)。笛を」

「はい。少しお待ち下さい」


 子淡(ズーダン)は席を立ち、奥の部屋から笛を持って来て、章絢(ヂャンシュェン)に手渡した。


「やっと奏でることが出来る」

「ええ」

「まるでこの笛は、子淡(ズーダン)のようだね」

「どうして?」

「だって、私がいないと綺麗な音を奏でられないだろう?」

「まぁ!」

「この笛は私と言う奏者がいて、初めて綺麗な音色を奏でると思わないかい? 俺達夫婦もそう。子淡(ズーダン)と俺、二人で一つだ」

「それで、置いて行かれたのですか?」

「ああ、大切なモノを危険に巻き込みたくはないからね」

章絢(ヂャンシュェン)……。でも、きっと、この笛も私と一緒で寂しかったのではないかしら?」

「うーん? そうか?」

「ええ。だから、二つが揃った今、とっても素敵な演奏を聴かせてもらえるわね!」

「ああ、もちろんさ」


 章絢(ヂャンシュェン)は、笛を口元にやり、息を吹き込んだ。

 その音色に、子淡(ズーダン)はうっとりと聞き入る。





 少し離れた部屋では、布団に入った(フゥァン)が、眠れずに寝返りを打っていた。


「はぁ。眠れない……。こんな、立派なところ落ち着かないよ……」


 そんな(フゥァン)の耳にも笛の音色が届いて来た。


「綺麗な音……」


 その音を聞いているうちに、(フゥァン)はいつの間にか深い眠りに落ちていた。 







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