表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
画竜点睛〜龍に守られし国〜  作者:
〜天女降臨?〜
1/37

1.青天の霹靂(せいてんのへきれき)

新婚さん甘々警報発令中。



子淡(ズーダン)

章絢(ヂャンシュェン)、おはよう」


 章絢(ヂャンシュェン)よりも先に目を覚まし、書房で絵を描いていた子淡(ズーダン)は、愛しい夫の声にふわりと微笑み、朝の挨拶をする。

 それに応えるように、彼は愛しい妻の頬に口付けて、彼女の描いていた絵を(のぞ)き込んだ。


「何を描いているんだ?」

麒煉(チーリィェン)大哥(兄さん)の絵よ」

「あいつはまた!」

「ふふ。許してあげて。天子様にもお休みは必要よ?」

子淡(ズーダン)。あいつを甘やかさないでくれ。あいつがサボった分のしわ寄せは俺達にくるんだ。子淡(ズーダン)は俺との時間が減っても寂しくはないのか?」

章絢(ヂャンシュェン)。そう言われると辛いわ。どうすればいい?」

「それなら、俺の絵も描いてもらおうか? あいつの絵よりもより正確に描けるんじゃないか? 毎日、隅々まで見ているんだから」

「もう! 章絢(ヂャンシュェン)ってば!」


「朝から止めてくれません? 甘ったるくて吐きそうなんですけど……」


 書房で戯れていた新婚夫婦の激甘、激熱な空気に水を差す、第三者の声がした。

 子淡(ズーダン)の頬が赤く染まる。


浩藍(ハオラン)……」

 章絢(ヂャンシュェン)は、苦虫を噛み潰したような顔をした。


「……朝から新婚家庭に来るお前が悪い」


「はいはい。(ウー)待詔(たいしょう)。絵の進み具合はどうですか?」

 そんな章絢(ヂャンシュェン)浩藍(ハオラン)は適当にあしらった。


「ごめんなさい。やっと輪郭(りんかく)が描けたところです」

「そうですか。申し訳ないのですが、明日までには仕上げて下さい」

 浩藍(ハオラン)は、言外に「邪魔するなよ」と(ほの)めかし、章絢(ヂャンシュェン)を半目で(にら)んだ。

 章絢(ヂャンシュェン)は肩を(すく)めて、「はぁ」と息を吐いた。


「随分、急いでいるんだな」

「ええ。ちょっと厄介な案件がありまして……」

「俺が知らないってことは、ここ一週間以内に持ち込まれたものか?」

「まぁ、そうですね」

「そうか。なら面倒に巻き込まれるのは勘弁だから、聞かないことにする」

「そう言うと思っていましたけど、結婚して一週間経つんですからそろそろ休暇は終わりですよ。今日からでも出仕して下さい」

「まさかお前、それを言う為にわざわざ来たのか?」

 

 章絢(ヂャンシュェン)は顔を(しか)めた。


「ええ」

 章絢(ヂャンシュェン)の強面に、全く(ひる)むことなく、浩藍(ハオラン)は首肯した。

 そんな浩藍(ハオラン)の態度に、章絢(ヂャンシュェン)は口を尖らせる。


「はぁ。勘弁してくれよ。ずっと休まず働いて来たんだ、せめて一ヶ月くらい休ませてくれ……」


 子供っぽい章絢(ヂャンシュェン)に、浩藍(ハオラン)は呆れ、溜め息を零す。


「はぁ。止めて下さいよ。(いか)つい顔をした、いい大人がそんなことしても、気持ち悪いだけですから」

浩藍(ハオラン)。流石にそれは(ひど)くないか?」


「くす」

 二人の遣り取りを見ていた、子淡(ズーダン)が笑う。


子淡(ズーダン)。何で笑うんだ?」

「ごめんなさい」

 子淡(ズーダン)は悪びれることなく、軽い調子で謝った。


「……一週間でも破格だと思いますけどね……」

 浩藍(ハオラン)は、ぽつりと言って、遠い目をした。

 

「まぁ、な」


 そう言えば、彼の時は一日しか休みがなかったと思い出し、章絢(ヂャンシュェン)はそれ以上の文句が言えなくなった。


 章絢(ヂャンシュェン)子淡(ズーダン)へと目を向ける。


「仕方がない。子淡(ズーダン)も絵に集中したいだろうから、出仕するか」


 章絢(ヂャンシュェン)は、ガシガシと頭を掻きむしり、準備のために奥の部屋へと消えた。


 

(ヂャオ)中書令(ちゅうしょれい)。どうぞこちらにお掛け下さい。今、お茶をご用意いたします」

 子淡(ズーダン)浩藍(ハオラン)に微笑み席を勧めた。


 浩藍(ハオラン)は彼女に微笑み返し、「(ウー)待詔(たいしょう)。それには及びませんよ。私は先に宮城(きゅうじょう)に戻ります」と言って、書房を出る。

 

(ヂャオ)中書令(ちゅうしょれい)。あの絵は陛下がお休みする為に、その間の代理が必要だからとお伺いしていたのですが、違うのですか?」

 子淡(ズーダン)浩藍(ハオラン)の後に付いて行き、尋ねた。


「ええ。今は詳しいことはお話し出来ませんが、決して悪用はいたしませんのでご安心下さい」

 そう言った浩藍(ハオラン)に、子淡(ズーダン)はそれ以上訊くことが出来ず、「分かりました。いつか、お話し下さいね」とだけ言った。


「はい、もちろんです。それでは、明日また伺いますので、よろしくお願いします」

「はい。明日までに仕上げますので、御心配なく」


 浩藍(ハオラン)が去ると、子淡(ズーダン)は書房に戻り絵の方へ意識を向けた。

 章絢(ヂャンシュェン)が準備を終え、子淡(ズーダン)に出立の挨拶をしたが、彼女が気付くことはなかった。

 章絢(ヂャンシュェン)は、「いつものことだ」と、少し寂しそうにしながらも微笑を浮かべる。

 絵に集中している彼女から名残惜し気に視線を外した章絢(ヂャンシュェン)は、宮城(きゅうじょう)へと意識を向け、歩き出した。





  *    *    *   





「で? 一体何があったんだ?」


 章絢(ヂャンシュェン)が出仕して、主である麒煉(チーリィェン)に真っ先に言った言葉がこれである。


章絢(ヂャンシュェン)。相変わらずだな。久しぶりに会った主君にまず先に言うことがあるんじゃないか?」


 麒煉(チーリィェン)は筆を置いて、章絢(ヂャンシュェン)(さと)すように(にら)んだ。

 それに対し、章絢(ヂャンシュェン)は鼻を鳴らして、「何かあるか?」と言った。


「はぁ。結婚祝いに対する返礼もないとは、無礼なヤツだ。何で子淡(ズーダン)程の良い女がこんなヤツを選ぶかなぁ。全くもって報われないよ」

「ふん。分かっているさ。結婚祝いとそれから、彼女の想いを叶えてくれて本当に感謝している。ありがとな」

 顔を背け、そう言った章絢(ヂャンシュェン)の耳が赤くなっているのを見て、麒煉(チーリィェン)は、やれやれと溜め息を零す。


「最初からそう言え。全く」


「ゴホン。それで、厄介ごとは何だ?」

 章絢(ヂャンシュェン)は、咳払いをしてから真面目な顔になり、尋ねた。


「西の国境に天女が現れたそうだ」

「はっ?」

 麒煉(チーリィェン)の言葉に、章絢(ヂャンシュェン)の真面目な顔が一気に崩れ、鳩が豆鉄砲を食らったように口をぽかんと開けた。


「えーっと。天から舞い降りたのか? それとも、飛燦(フェイツァン)国から来た新手の使者か何か、か?」

「そう考えるのは分かるが……」

「はっ! まさか!? その天女を後宮に迎えるつもりか?」


 麒煉(チーリィェン)はジト目で章絢(ヂャンシュェン)(にら)む。


「何でそうなる?」

「だって……」


 章絢(ヂャンシュェン)はもじもじと言い淀む。

 大の男のそんな様子に、麒煉(チーリィェン)はドン引きし、話を()()切ることにした。


「その続きは言わなくていい」


 章絢(ヂャンシュェン)が不満そうな顔をする。


「……まあ、聞け。その天女を隣国の奴らが連れ去ろうとしたところ、消えてしまったらしい」


 (あご)に手を当て、少し考えてから、麒煉(チーリィェン)の顔を伺うようにして、「それはもしや……」と、章絢(ヂャンシュェン)が言った。

 それに、「我が意を得たり」とでも言うように、麒煉(チーリィェン)が口角を上げる。

「ああ。その天女は造士(ザオシー)が描いたものと思われる」

「だが、それほどの技術を持った造士(ザオシー)子淡(ズーダン)師君(シージュン)以外報告されていないよな?」

「ああ。どうやら新たに現れたようだ。隣国が造士(ザオシー)に気付いて連れ去る前に、早急に保護しなければならない」

「そうだな。それで急いでいたのか」

「ああ。このことは国の機密だからな。俺が自ら動かなければならない。子淡(ズーダン)が俺の(イン)を描き上げ次第、出発する。章絢(ヂャンシュェン)も随行するように。浩藍(ハオラン)(イン)の補佐を頼む」

「はっ!」


「それにしても、なぜ『天女』なんだ?」

 章絢(ヂャンシュェン)はそう言って、首を傾げる。

 

「さあな」

 そう言いながらも、麒煉(チーリィェン)は思案するように瞑目する。


「寂しい男が(なぐさ)めに描いたのか?」

「はぁ。お前な……」

 章絢(ヂャンシュェン)の真面目なのか巫山戯(ふざけ)ているのかよくわからない問いに、麒煉(チーリィェン)は半目になる。


「それは考えづらいですよ。それだけの腕がある者は、必ず画院に入るように、通告しているのですから。そんなことは、この国の者ならば、誰でも知っていますよ」

 浩藍(ハオラン)は真面目な顔でそう言った。


「入りたくなくて、隠していたんじゃないか?」と言いながらも、きっとそんなことはないだろうなと章絢(ヂャンシュェン)は思った。


 皇帝の御抱えでもある画院に入ることは大変名誉なことであり、手厚く遇され、生活に困ることもない。

 超一流の道具や講師が揃い、高度な技術を習得し、最先端を発信することが出来る。

 入りたくないと言う変人に、今まで出会ったことはなかった。


「そうだとしたら、罰さなければいけなくなるな」

 麒煉(チーリィェン)が嫌そうに言う。

 貴重な力を持つ画家に罰を与えるのは、決して本意ではない。


「新たな力に目覚めた、無知な子供だと考えるのが妥当だと思いますが……。もしかしたら、他国の者の可能性も有りますね。場所も国境ですし……」

 浩藍(ハオラン)の言うように、他国の者であった場合、更に面倒なことになると、麒煉(チーリィェン)の顔が益々渋面になる。


「どちらにしても、意図的に『天女』を描いたのだとしたら、一気にきな臭くなるな」

「そうですね。それこそ、ただ自分の慰めだけに描いていたのなら、隠匿(いんとく)していた罪だけで済むのですが……」

飛燦(フェイツァン)国の企みか、はたまた飛燦(フェイツァン)国と我が国が争って得をする第三の国か、俺に反発している国内の者か」

 そう言って、麒煉(チーリィェン)は溜め息を零した。


「ただの金儲けのため、または宗教的に利用しようとしたということも考えられるが?」

 章絢(ヂャンシュェン)の言葉に、更なる憶測ばかりが広がっていく。

 

「何にせよ、十分に警戒して事に当たらなければいけないな」

 一度頭を休めようと、麒煉(チーリィェン)は話を終わらせた。


「そうだな」


 三人は改めて気を引き締め、(うなず)き合った。







李章絢リーヂャンシュェン……侍中(門下省の長官)。子淡の夫。

呉子淡ウーズーダン……待詔(画院の優秀な画家)。「ザオ」の力を持つ。章絢の妻。

李麒煉リーチーリィェン……トン国皇帝。

趙浩藍ヂャオハオラン……中書令(中書省の長官)。

師君シージュン……「ザオ」の力を持つ。子淡達の師。「師君」は、子淡達が呼んでいる通称で、本名ではない。

イン……造士が描いて実体化した絵の人物や物のこと。

ゴウ……麒煉が天子の力で操る狗の姿をした影。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
官職などの参考資料をご覧になりたい方は、こちらまでどうぞ。 「自作に関する雑記&イラストなど」
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ