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十人X色

作者: 不二、

 朝、目が覚めた。少し蒸し暑かった。「そうか、もうすぐ夏なのか。」とほとんど音のない声で呟いた。するとこの雑音に気づき妻が起きてきた。まだ目は半分しか開いておらず、フワァっと大きなあくびをしていた。「おはよう。」と少し声はかすれ気味。「うん、おはよう。よく眠れたかい?」「ううん、あんまり。」「そうかい。ならもう少し寝たらどう?」「いや起きるよ、ありがとう。」とまるで絶好調であるかのように飛び起きた。「今日は少し空気がムッとしてるね。夏が近いのかな・・・」

「そうだね。ほんのり寝苦しかった。」少し間が空き、

「ほんのりって、言葉まちがってるよ、たぶん」微笑みながらそう言った。「そうかなぁ、僕も起きたてだから」と微笑み返した。

このような何気ない話をしていると二人のお腹が同時にぐぐうぅと鳴った。「ふふっ、お揃いだね。」と明かるげに言う妻。

「昨日から鳴りっぱなしだもの」と僕。そう僕と妻(実際は二人だけでなくて、娘と猫もいるのだが・・)は一昨日から何も口にしていない。(何か、食べ物を探してこないといけないな)と地面に敷いてある段ボールのほつれた繋ぎ目をぼーっと眺めながら。

 ―××××年、都会でも田舎でもない中途半端な街にたどり着き、何とか食いつなごうと必死で足掻くホームレス家族の物語である。―

 「よし、僕はパン屋でパンの耳もらえないか聞いてくるとするよ。」「あれ、今日はずいぶんやる気やねぇ。」「さすがに、ね。」そう、再び言うが一昨日から水以外何も口にしていないのだ。正直、少し歩くのも億劫になるほどで、体がうまく機能していないのがわかる。

「私はいつも通り、駅前でお金をくれる、いい人を探してくるね。」

「皮肉だね」「でも、危ない男には気を付けなよ、前みたいな。」

「うん、気を付けるよ。」「これからはどんどん蒸し暑くなるから、女を襲う気力なんて出ないんじゃない?」

「まあ、そうだろうね」

「あなたも?」

「なっ・・・・」と言葉を詰まらせる。すると妻が、

「ふふっ、ほんのりからかっただけだよ。」

「それは、言葉間違ってるよ、確実に。」と少しスネ気味に言った。

このようなやり取りをしていると・・・娘が目を覚ました。言い忘れていたが、われわれ家族は川の字で寝ている。娘が真ん中で、左が妻、右が僕である。

「おお、うるさかったかい?ごめんよ。」

娘は首を横に振る。「もう少し寝てていいんだよ?」と妻。

再び娘は首を横に振る。

そしてゆっくりと口を開け、「あーしも、いく。」とまだおぼつかない日本語でそう言った。しゃべった内容はともかく、僕と妻は顔を見合わせ、ほとんど寡黙な娘がしゃべったことに対して、驚いた。そして間もなく妻が「朝から言葉を発するなんて珍しい、えらいえらい。」と笑顔で頭をわしゃわしゃと撫でる。娘もうれしそうだ。その光景を見て俺もなんだかちょっぴりうれしくなった。


「ところで、稼ぎに行くって、どうするんだい?」と僕。すると娘が、んっ。と指を指した。そこには半透明のプラスチック製の小箱があった。なるほど、そういうことか。


駅前でお金をせびる人はいろいろいる。ギター弾き語りや大道芸、ただ前に小箱を置いて土下座しているホームレス。この場合、われわれ一家は3つ目の選択肢を選ばざるを得ない。そうなるとやはり子供の方が圧倒的にお金を得ることができる。本当に圧倒的である。それに気づいている娘に私は複雑な気持ちになった。俺に一つでも芸が出来れば。

「時間帯はやっぱり夕方が一番かな」と妻。

それに対し娘は首を縦に振った。

「ありがとうね。」「結局、子供と動物が一番同情を煽れるから。」とはっきりと妻は言った。「なら、この猫も連れて行ったらどうだい?」と僕。この猫は我々がどこに行こうともついてくる不思議な猫だ。毛はボロボロ、ノミまみれで、尻尾も根元からちぎれている。猫の世界ではこいつは負け犬、いや、負け猫なのだろう。そしてなぜか僕に懐いている。ある意味、俺と同類だからかもしれない。

「猫助、手伝ってくれる?」と妻(猫助というのは妻が勝手に呼んでいる)。

しかし、猫助(仮)は全く反応しない。

「今日もだめかー」と妻。そうこの猫助、妻はおろか、娘にも全く懐いていない。触ることができるのは俺だけだ。普通は逆じゃないか。

そこで僕が「一緒に来るか?」と言った。それに対し猫助は無反応。毛繕いをしている。

「まったく・・・まぁ、僕にはついてくるだろうから、こっちの用が終わったら、娘、の方に行くことにするよ。」と。妻は「ちょっと、自分の娘に対して娘って。ちゃんと名前があるんだから。」と怒り気味。僕は、口を詰まらせた。忘れていた。娘の名を。思い出せない。とっさに「×××ちゃんだよ。」と妻。ああ、そうだった、×××だった。なぜ忘れていたんだろう。「ごめんごめん、寝ぼけてたよ。」と噓。

「もう、顔洗ってきな。」妻は怒り口調だった。すぐさま僕は水飲み場へ向かった。


下を向いている蛇口を半回転させ上向きにし、取っ手をひねり、顔を洗った。少しぬるかった。

洗い終わり、ふと足元を見ると猫助がいた。僕はぼそっと「なんで忘れていたんだろう。自分の娘なのに。」猫助に向かって。

そんなこんなで顔をぼろぼろの服の裏地で拭き、戻ろうとすると・・・ゴツン。

後頭部に強く何かが当たった。  小石だった。


イテェな。なんだ、これは。後頭部をさする。血は出てない様だ。しかし、鈍い痛みが残る。(誰だ、殺してやる。)ゆっくり振り返る。

 そこには、小学校低学年くらいの子供が3人、こちらを見ていた。一人はやや大きめの石を左手に持っていた。おそらく、どっちの石を投げるか迷った挙句、気色の悪い善意が、血を見ることを躊躇ったのだろう。  こう考察していたら、少年の一人が口を開いた。

「ブツブツブツブツ呟いて、気持ちわりぃんだよ、どっかいけよ。」  あぁ、またか。まぁ、おそらく彼がこの中でリーダーなのだろう。子供は単純だからこそ残酷だよな、自分は正義で俺は悪ってか。ただこっちには家族がいるのだ、引くわけにはいかない。それとどっかにいけって、そんなどっかがあればこんなところに居やしない。

((この男は、このような場面に数えきれないほど出会ってきている。そして、対処法も知っている。なにせ、こちらには正しさはないのだから。))


俺は、そのリーダー格の少年の目をジッと見た。瞬きも、睨むこともなく、ただただ見続けた。するとその少年の光に満ち溢れた目は、全く対照的な、絶望を食べ過ぎた真っ暗な目に立ち向かえない。すぐに目をそらし、そして両脇のいわば正義の味方に「も、もう行こうぜ。」と言い、そそくさと立ち去った。

 

「ふう、それじゃあヒーロー失格だよな。」と足元で警戒していた猫助に震え声で。

「戻ろうか。」名状しがたい気持ちを抱え、家族のもとへ帰っていく。その後ろにぴったりと猫助がついてくる。


 戻ってくると、妻と娘は身支度を終えていた。「お、もう行くのかい?」

「うん。今日は早めにいこうと思って。」 「・・そうか。俺もすぐ行くよ。」

すると妻は俺の顔をじっと見つめ、「どうしたの?なにかあった?」と。

「あぁ。いつものやつだよ。」と少し動揺しながら。

妻と娘は顔を見合わせ、すぐに二人はタッタッタッとかけより、俺の手をやさしく握った。

妻は右手を、娘は左手を。


しばらくして、「落ち着いた?」と妻。

「あぁ、落ち着いたよ。ありがとう。」と僕。やはり家族は良いな。


「よし、じゃあそろそろ出発しますか。」と元気に。「おし、×××ちゃん行くよ。」

「それじゃ、また夕方になったら合流しようか。その時に猫助を連れて行くよ。」

「りょうかい!行ってきまーす。」    「いやいや途中までは一緒だから。」

そして、家なき家族は街へ向かう。



((昔、ある一人の不幸な少年がいた。その少年に親はなく、物心ついた時には孤児院に居た。その少年は、醜かった。ただひたすら醜かった。故に、愛されることは無かった。孤児院にはその少年のほかに院長、お手伝いの大人二人と数人の孤児たち。少年は醜さから、想像を絶するいじめ、虐待を受けていた。食事も最低限度のものだった。))



 道中、「このあたりって、何だか寂れているね。」と妻。周りを見渡すと、ほとんどの店にシャッターが下りていて、開いている店もなんだか薄暗い。「今はもう、コンビニで事足りるから、仕方ないよ。」と静かに。「ここも昔は賑わっていたのかな。」「それなら、一度見たかったな。」僕は、小さく頷いた。「昔の人は、結局、人の温もりより便利さを選んでしまったんだろうね。」「今も昔も人は自分自身が大好きやね。」「そうだね。」「あ、そろそろ別行動になるよ。」「君と×××はそこを右に曲がった方が早いよ。」「わかった。じゃあまたあとで。よーし、×××、かけっこで競争しよっか!よ~いドン!」勢いよく走りだして、すぐに見えなくなった。元気だなぁ。よし、僕も一仕事。といってもほとんど運なんだけどね。パンの耳をもらえるかもらえないかは店次第。もらえることがほとんどだが、処分しているもしくは提供していない場合がある。僕は何も信仰しちゃいないが、こればっかりは祈るしかない。


店に着いた。このあたりは閉まっている店が減り、ポツリポツリと開いているこのパン屋もその一つのようだ。(なぜ、このパン屋の場所を知っていたのだろう。初めて来る街なのに。)まあいっか。「ふぅ、よし。」小さく呟き、両ポッケに手を入れ、店に入った。


三十代くらいの太った女性店員だった。「いらっしゃ・・・なんだい、また来たのかい。」とその店員は呆れながら言った。


 ???・・・・何て言った?また来たって・・・このパン屋に???

うろたえ固まっていると、その店員は「もう、いい加減今日で最後にしてくれ、店の評判が悪くなる。」怒り口調でそう言った。そして袋にたんまりと入ったパンの耳を困惑している俺に乱暴に渡し、さらに手前に陳列されたカレーパンを二つ小袋に詰め、また乱暴に渡された。とっさに何か言おうとしたが口が回らず。「それ、タダでいいからもう二度と店に来ないでくれ。」と威圧的に。俺はその店員に圧倒され、開きっぱなしの自動ドアから外に出た。何が起きたのかはっきりしない。自動ドアが閉まり切ったところで「・・・・気持ち悪い。」店内からうっすらとそう聞こえた。俺は立ち尽くしていた。



((少年が青年に近づき、いじめ虐待が収まりつつあった頃、孤児院は色々な問題が発覚し解体となった。子供たちは各々、他の孤児院や養子になり、バラバラとなった。少年はなぜか引き取り手が見つかり、養子となった。・・・そうだな、このあたりから少年をXと表すことにしよう。

Xが引き取られたのは諸事情で子供を産むことができない、ごく一般的な夫婦だった。Xはゴミ溜めのような環境しか知らなかったため、かなり戸惑った。だが、少しずつXもその環境に慣れていった。そして、半年経ったとき、義父が事故で亡くなった。))



 シャッター商店街を胸にモヤモヤを抱えながらフラフラと歩く。「なんなんだ、これは。」ブツブツと。あのパン屋は一度も行ったことはないはずだ。だがあの店員の言葉。あんな嘘をつく意味なんてないだろう。しかもあの俺を気味悪がるあの顔、何度も見たような気がする。俺の記憶違いなのか・・・何度もあの店には行っていたのか?分からない・・・・。

あれ、そもそも俺たち家族は何でこの街に・・・というか、なぜホームレスになったんだ??

突如強烈な頭痛。(痛い、頭が割れるようだ)気づくと商店街を抜けていた。そして目の前にバス停が見えた。(あそこですわって休もう。とりあえず、頭痛が収まるまで。)日陰になっているところに座り込んだ。


約一時間後。

 「よし頭痛も収まってきた。でも、まだ合流時間まで結構時間があるな。どうしようか、ゴミ漁りでもしようか、まあ、とりあえず歩くか。」と僕が心の中で決め、立ち上がろうとしたその時、左前方から「おまえもしかして、×か?」という声がした。



((義父が亡くなってから、悪くなかった環境はゴミ溜めに逆戻りした。・・・ここから亡き義父をAと表す。なぜ逆戻りしたのか、単に、Xを人として見ていたのは、AだけでAの妻は、Aへの愛情、気遣いのみでXを育てていた。故に、Aが亡くなると、全てをXにぶつけた。それもまた想像を絶するものだった。むしろXにとっては孤児院の時よりもはるかに上回る、地獄だった。なにせ一度良い環境を知ってしまったから。

 そして、数年経ったある日、Aの妻でありXの義母である彼女は自殺した。))



 「お前、×だよな?」左前方を向くと、髭面で頭にタオルを巻き、汚れた作業着を着た男が立っていた。?誰だ?全く分からない。「だれ・・?」と小さく聞くと、すぐさま「×××孤児院で一緒だった、××だよ。」と言った。(なぜか、殺したくなった。)俺は孤児だった?すっかり忘れていた。「あの時は、本当にすまなかった。許してほしい。」と頭のタオルを取り、深く頭を下げた。(許すとでも?)俺はまた何のことかわからなかった。ただ、なんだか自分自身が戻りつつあるのを感じた。恐ろしい。しかし、なぜ今頃になって謝罪しに来たのか気になり、「なぜ・・今」と震え声で聞くと、その男は「えっと、×の噂を少し耳にしてさ、その、だから、俺の家族には、近づかないでくれ。壊さないでくれ。」と怯えながら、最後の言葉は力強く。確かにそう言った。(は?)は?どういうことだ。俺にそんな力があるとでも?どういうことか聞こうとすると、その男は、財布に入っている札をすべて俺の手に握らせ、足早に去っていった。

(もしかしてあの事々を俺が引き起こしたと思っているのか、ふざけるな。)どんどん自分自身が、いや、偽りが薄まっていくのを感じた。



((Xは人殺しの罪で捕まった。しばらくして、義母の死は自殺であることが判明し開放された。Xは独りになった。家もお金も知識もない、ホームレスになった。数年経ち、頬はこけ、やつれ死んだように生きていた。そんなある日、自信に満ち溢れた女性と出会う。彼女は・・・Bと表すことにしよう。Bは彼には生きてほしいという理由だけでXを家に住み込みの家事手伝いという形で雇った。Bは娘がいた。父親はいない。母子家庭だった。娘はBとは似ず、大人しくおままごとが好きな子供だった。Xには初日ですぐに懐いた。Xの醜さの本質を見抜いたのだろうか。Bの娘は一人遊びの他に、読書も好きで、知識の少ないXに教えることになった。Xは心も体もすでに壊れていたが、あまりのエネルギーと人情にあてられ、人間味を組み直していった。そして年月は過ぎてゆく。・・・娘をCとする。))



 気がつくと、太陽が沈みかけていた。俺は途方に暮れて、何をしていたかわからない。

ただ、確かめなければならないことが決まった。(いやだ、思い出したくない。)そのためにも妻と娘に(・・・誰のことだ?)合流することにしよう。


道中、猫助のことをふと思い出す。「あれ、あいつ、いつからはぐれたんだ?」「もしかして、先に駅前に行ったのかな。」おそらくそんなとこだろう。もし、違うとしても夜になれば寝床に帰ってくるだろうなんて考えながら、駅前近くまで来ていた。


(もう終わりか)駅前に着く。



((Xは人として、初めて満たされた。Cのおかげである程度の知識も得ることができた。喜怒哀楽、そして笑顔。これらを表現することもできるようになっていた。

 Cの誕生日。Bはパーティーをしようと言った。そして、Xは一つの学びとして遠くの町へ買い出しに行ってほしいとおつかいを頼まれた。Xは断れるはずもなく、行くことにした。Xは、無知ゆえにかなり時間をかけながら買い出しを終え、家へ。

 違和感。だが、Xは気にせず急いで家へ向かった。するとそこには数人の人だかりができていて、見上げると火が立ち昇っていた。


 Xの帰る家が燃えていた。))



 駅前に着くと日陰のひっそりとした所に、妻と娘、そしてなぜか猫助もいた。様子を見ると、各々足元にプラスチックの小箱が置いてあり、妻と娘の小ケースには一銭もお金は入っていなかった。ただ、猫助の小ケースにはなぜかキャットフードと小魚が入っていた。物好きがいるものだ。

 妻がこちらに気づき、手を振っていた。相変わらず明るいな。(あの人のように)続けて娘もこちらに満面の笑みを浮かべた。(あの子のように)・・・・俺は目頭が熱くなった。「今日はもうこの辺で帰ろう。」と俺。「わかった、よし×××ちゃん帰るよ。猫助も。」と妻。「あれ、何で泣いてるの?悲しいこと、あった?」と娘。

「あぁ、悲しいことだらけさ。」と声を震わしながら。「じゃあ、三人、手つないで帰ろうね。」と明るく。そうしようか。うん、それがいい。

そして、駅前を立ち去った。



((Xは目を開けるとそこは見知らぬ病院だった。包帯まみれで、体が思うように動かせなかった。しばらくしてやって来たスーツの男がすべてを話した。Xは燃え盛る炎の中、少しの躊躇いもなく飛び込み、全身大火傷で、ガスによる後遺症も残るだろうと。そして、BとCの死が告げられた。Xは壊れた。修復はできない。心も、体も。

そしてその夜、夢を見た。温かな夢だった。父・母・子、三人家族で皆、笑顔だった。))



帰路。父・母・子、三人家族、手をつないで歩いていた。俺が真ん中で、妻が右。娘は左。そして見守るように猫助が塀を歩いていた。


「もうそろそろ、終わりだね。」「ん?何のこと?」「いや、わからなくていいんだ。」

「なにそれ、気になるよ、そんなこと言われたら。」

「だめだ。」

「ふぅーん、わかった。もう聞かないよ。×××ちゃんも、ね。」

「ありがとう。」・・・・・・・・・・それじゃだめだ。話さなくちゃ。

「・・・やっぱり、話すよ。」

「え、いいの?」「うん。」

「・・・・・・・・・・・・・」

「・・・君は俺だ。・・・その娘も俺だ。そして、僕も俺だ。」

「君たちは、夢にすがり壊れ切った俺を必死に支え、守ってくれていたんだ。俺が俺であるために。最後の壁として。」

「でも、もういいんだ。俺は独りに戻るよ。」

「だから君たちと僕は、安らかに死んでくれ。」

「・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・わかった。でも最後に一つ。」「・・・私たちは醜くなんてないよ。」

「そうだね、B、C。」

「・・・おやすみ。」(おやすみ。)

「さて、最後は僕自身か。」「これはこれで、良い物語だったんじゃないかな。」

「・・・それとX、君はまだ終わりきっちゃいない。」

「ABCのような人はまだいる。ま、それは人じゃないかもしれないけどね。」

「じゃあ、バイバイ。」

(・・・・・・・・・バイバイ。)・・・・・・・・・・・・・・・・・・。



((Xは体、顔に大きな火傷跡を残し退院した。そしてすぐに街を出た。Xは街を転々とした。何度も何度も死のうとするうちに、自分の中に一つの人格が生まれた。続けて二つ、三つと生まれた。するとXはあの夜見た夢を思い出す。そしていつしか頭の中で三つの人格を動かし、夢を再現しようと何度も何度も、何度も何度も妄想した。これがXのこれまでである。・・・ん?この(())内の語り手は誰かって?そうだね、Dとでも名乗っておこうか。

 そして最後に、ある名作のタイトルを。

                             「吾輩は猫である。」・・・以上だ。))



 朝、目が覚めた。少し蒸し暑かった。夏が近いのだろう。

どうやら公園の長椅子で寝ていたようだ。「おはよう。」返事はない。

あぁ、そうか、また独りになったのか。


 体を起き上がらせ、少し伸びをし、立ち上がろうとしたその時、

後ろの草むらでゴソゴソと音が聞こえた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・ニャア。

「そうか、お前は本物だったんだな。」

「・・・一緒に来るか?」



 Xの行方は、誰も知らない。












 X・・・ホームレス。ABC三つの人格の生みの親。A+B+C=X

 A・・・僕。男。主人格。

 B・・・妻。女。二つ目の人格。

 C・・・子供。娘。三つ目の人格。

 D・・・猫。作者読者?


最後まで読んでいただきありがとうございます。

この物語は、多重人格者の話をもとに書きました。

最初は、Xの最期を残酷に描こうと思っていたのですが、物語を書いていくうちに、Xには不幸のまま終わってほしくないという気持ちが芽生え、あのような形にしました。


初投稿なので、文章が拙いと思いますが、よろしくお願いします。

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[良い点] わたしもホームレスを題材にした小説を書いているので勉強になります。パン屋の不愛想な態度が主人公の置かれた立場を表しているのが興味的でした。 [気になる点] 登場人物像が少し見えないところが…
[良い点] Xと子どもたちのくだりが良かったです。 [気になる点] 情景描写が少ないと思いました。せっかく興味深い舞台ばかり出てくるのに。かつ大部分が主観的に描かれているのに出来事ばかりが書いてあり主…
2018/11/30 21:21 テンパモテル
[一言] ストーリーが好きです。こういうテーマは好みです。 人工精霊の話を思い出しました。 長さも程よいかなと思います。 もし何か意見するならば、読めばわかるので、わざわざ最後に設定を箇条書きで明示…
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