ホワイトアウトクリスマスで愛を叫ぶ
唐突に思いついたので書いてみました。
「メリィークリスマース!」
「誰だ!?」
「ふぉっふぉっふぉっ。誰だとはご挨拶だな。この赤い服に帽子、そしてこの白いふさふさの髭。どこからどう見ても子供達に大人気であるサンタさんではないか」
「大人気とか自分で言っているところが胡散臭すぎる! 大体何でサンタさんが俺のとこなんかに現れるんだよ!? 俺今年二十六歳なんだけど!?」
「ふむ、実は最近始めたサービスでね、世界中の大人達からランダムで選ばれた一名様に素敵なプレゼントを贈ることにしたのだよ。そして運良く選ばれたのがーー君だ!」
「うっわやっぱすげぇ胡散臭え! ちなみにプレゼントって何?」
「君の願いを一つだけ叶えてあげよう。ただし、願いの効力はクリスマスの間だけだけどね」
「期間限定かよ!? まあいいや。じゃあ早速叶えてもらおうかな」
「早いね。さて、君の願いとは?」
「実は俺、今付き合って三年の彼女がいてさ、明日のクリスマスにプロポーズしようと思ってたんだ。で、イルミネーションのすげぇ綺麗な公園があるんだけど、それだけじゃ何か物足りないのよ。そこで俺の願い、雪を降らせてより幻想的な感じにしてくれね? ホワイトクリスマスってなんかいいじゃん?」
「ほう雪か。いいだろう。その願い叶えてあげよう。クリスマスの朝を楽しみにしていてくれたまえ。では去らばだ!」
そうして、サンタさんを名乗る誰かさんは光の中へと消えていき、俺はそこで目が覚めた。
まあ、夢オチだろうとは思ってたが、叶えてくれるんならそれに越したことはない。
さあ、今日は待ちに待ったクリスマス。勝負は今夜七時。
絶対に成功させて奥さんというプレゼントを手に入れてやるのだ!
* * * * *
『突如、急激に発達した低気圧の影響で、現在各地で記録的な暴風雪が発生しています。外を歩く際はくれぐれも気を付けてください』
『御覧ください! 雲一つない絶好のクリスマス日和だったのが嘘のようです! 辺りは猛吹雪に包まれぶふぇあああああっ!?』
「降らせすぎだサンタあああああっ!」
辺りは一面銀世界、なんて生やさしいもんじゃない。
収まる気配がまるでない雪の嵐が街全体、いや、日本全体を襲撃している。まだ死亡者は出ていないようだが、前の全く見えない状況のせいで事故が多発している。
ホワイトアウトだ。
「くそっ! これじゃイルミネーション見てる場合じゃねえ! 計画が全部おじゃんだ!」
悔しいが仕方ない。彼女の雪菜にはまた後日改めてプロポーズしよう。
俺はスマホを取り出して雪菜に連絡を取ろうとした。
が、俺は雪菜からメールが届いていることに気付き、メールを開いた。
『今日のイルミネーションすっごく楽しみだね(≧▽≦)待ちきれないから先に行ってるねー(⌒∇⌒)ノ"』
「雪菜あああああっ!?」
俺は掛けてあったコートを羽織り、大事な結婚指輪を持って外へ飛び出した。
「ぶへあっ!?」
出た瞬間に襲い掛かる強烈な地吹雪。氷の粒が混ざっているのでかなり痛い。
だが俺は負けんぞ! 雪菜が、可愛い雪菜がこんな大荒れの中に出てしまったんだ!
こうなったらヤケだ! 今日絶対にプロポーズしてやる!
待っててくれ雪菜! 今行くぞ!
俺はろくに前の見れない真っ白な道をひたすらに進んでいく。コートに付いているフードはまるで役に立たず、顔面は既に雪まみれだ。だが気にしている余裕はない。俺はただ突き進むのみ!
目を凝らし周りを見てみると、俺と同じようにひたすら暴風雪の中を進んでいく者達がいる。
彼彼女らにも譲れない何かがあるのだろう。
ならばこの人達はもう同士。共に目的の地へ向かおうではないか!
「うわあああああっ!?」
「見知らぬ人おおおおおっ!?」
何てことだ! 俺の隣を歩いていた男性が雪に隠れていた氷に足を取られ転倒してしまった! 助けに行きたいが、既に雪の中に消えてしまって何処にいるかわからない!
申し訳ないが俺にも待っている人がいる! すまない見知らぬ男性よ、俺は先に進む!
「いやあああああっ!?」
「見知らぬ人おおおおおっ!?」
大変だ! 隣を歩いていた女性が上から落ちてきた大量の雪に埋もれてしまった! すぐに掘り起こしたいが、雪山が多過ぎて何処に埋もれているかわからない!
文字通り冷たいかもしれないが、俺には時間がない! 許せ見知らぬ女性よ! 俺は先に進む!
「ふべらぁっ!?」
「見知らぬおっさあああああんっ!」
マジですか!? 俺の前を歩いていたおっさんがスリップして運転を誤った自転車に突っ込まれてしまった! ガチでヤバいので、すぐにでも救急車を呼びたいところだが、視界が悪すぎてここが何処だかわからない上に、降り続く大雪のせいでおっさんが何処にいるのか全然見えない!
非情かもしれないが、おっさんを助けに行ってる暇はない! すいません見知らぬおっさんよ! 恨むならこんな日に自転車で出歩いていた馬鹿を恨んでくれ! 俺はーー俺は先に進む!
* * * * *
「……ぐ、ふ」
どれほど歩いただろうか? 感覚的には、もう丸一日歩き続けた気分だ。
髪は雪で濡れた先から凍っていき、顔は霜焼けで真っ赤だ。既に感覚はない。
同士達が次々とホワイトアウトの餌食となって雪の中へ消えていく。最初は心配もしてた俺だが、今はそんなことすらどうでも思えてきている。感覚だけではなく、思考も麻痺してきたようだ。
「俺、何で歩いているんだっけ?」
本能の赴くままにただ、ただひたすら一歩一歩重くなった足で前に進んでいる。
目的? そんなものあったっけ?
強いて言えば、家に帰りたい。
そうだそれだ。俺は家に帰りたい。暖房の着いた部屋で温かいビーフシチューが食いたい。熱い風呂に入りたい柔らかい布団で寝たいそうだそうしようこんな雪の中にいるよりその方がいいだろ何クリスマスにこんな嫌な思いしなけりゃならないんだ帰りたい帰りたい帰りたい帰ろうかな帰ろう帰ろう帰ろう帰ろう帰ろう帰ろう帰ろう帰ろう帰ろう帰ろう帰ろう帰ろう帰ろう帰ろう帰ろう帰ろう帰ろう帰ろう帰ろう帰ろう帰ろう ぽとっ 帰ろう帰ろう帰ろう帰ろう帰ろうん?
真っ白い雪の中に何か落ちている。何だこれは?
俺は震えが止まらない手で何とか拾い上げた。
黒い箱のようだ。俺は蓋を開けてみた。
「ゆび、……わ?」
『今日のイルミネーションすっごく楽しみだね(≧▽≦)待ちきれないから先に行ってるねー(⌒∇⌒)ノ"』
「雪菜ああああああああああっ!!」
そうだ雪菜! 俺は雪菜のところに向かっていたんだ! 雪菜が待っている、イルミネーションの綺麗なあの公園を!
「負けるかあああああっ!」
どこからともなく沸き上がった力を振り絞り、俺は暴風雪の中を駆け出した。
「うわっ!?」
氷で滑ろうが関係ない。
「ぶへっ!?」
上から雪が落ちようがどうでもいい!
「うわ危ない危ない危ないっ!」
「どけごらぁ!」
スリップして突っ込んできた自転車野郎を蹴り飛ばそうが知ったことか!
辛い思いをしているのは俺だけじゃない! 雪菜は、大好きな雪菜はたった一人で俺なんかを待っててくれてるんだ! 一緒にイルミネーションを見ようって、待っているんだ!
大好きな人が待っているのに、こんな暴風雪ごときで心折られてたまるか!
雪菜への愛はーーホワイトアウトなんざに負けねえ!
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぶへあっ!!!」
全力疾走のまま大きく躓いた俺は顔面から雪の中へとダイブした。
大丈夫。感覚はない。まだ行ける。
そう思い、すぐに雪まみれになった顔を上げると。
色鮮やかな光が瞳の中に差し込んだ。
「イルミ、ネーションか?」
立ち上がり、周囲を見回してみると、ホワイトアウトの先からうっすらと電灯の明かりがいくつも見えた。
「辿り着いたのか!?」
暴風のせいで飾り付けは滅茶苦茶になっているが、間違いない。
雪菜の待つ公園に辿り着いたのだ。
「雪菜、おーい雪菜ー!」
呆けている場合じゃない。俺は雪菜を探しに公園内を駆ける。
見物客は見当たらない。明かりは綺麗だが、見るも無惨なイルミネーションばかりだ。無理もない。
雪菜、がっかりしていなければいいが……。
「雪菜っ!?」
俺はホワイトアウトの奥からうっすら見える人影に気が付いた。影は俺の声に反応したのか、どうやら振り返ったようだ。
あれは雪菜に違いない。
「雪菜! 遅くなってゴメン! こんな大荒れの中に、一人にしてゴメン! ごほっごほっ!?」
息がとても苦しい。立っていられるのもやっとなほど体力を消耗している。気を抜けばこのまま意識がぶっ飛びそうだ。
だが、まだ倒れる訳にはいかない。
大事なことを、まだ言ってない。
「雪菜、もう一つ謝らなきゃいけないことがある! 信じるのは好きにしていいが、このホワイトアウト、多分俺が原因だ! 俺が夢だからいいやって軽い気持ちでサンタに願ったせいだと思う! でも聞いてくれ! 俺はこんなことするつもりはなかった! ただ、イルミネーションをもっと綺麗に見せたかっただけなんだ! お前と一緒に楽しんで見たかっただけなんだ!」
違うそうじゃない! こんな言い訳を並べに来たんじゃない!
「それで、全部上手くいったら、お前に、雪菜に伝えようと思ったんだ。結局、全部おじゃんだったけど、俺のこと、嫌いになったかもしれ、ないけど、でも、でも……」
言え! 叫べ! 想いを全てぶちまけろ! 俺ぇ!
「でも、今聞いてくれ! 俺はお前が好きだ! 雪菜が大好きだ! だから、俺とーー結婚してくれえええええええええええええええええええええええええええええええええええー!!!」
公園内に木霊する全身全霊の愛の叫び。他に誰が聞いていようが構うものか。
俺はこの瞬間に全てを賭けたのだ。
後は、雪菜の答えを待つだけだ。
ざっ、ざっ。
ホワイトアウトの向こうから雪を踏む音が聴こえる。
雪菜がこちらに近づいて来ているのだ。
心臓は今にも張り裂けそうなほどに脈打っている。
ここが正念場だ。
俺は覚悟を決めてホワイトアウトの先をじっと見つめた。
そしてーー
「メリィークリスマース!」
「サンタあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!」
ホワイトアウトからサンタが現れた。
俺は速攻でサンタの胸ぐらを掴む。
「ぐふっ!? 暴力はいかんよ!? 暴力反対!」
「うるせえこの野郎! 何でてめえがここにいるんだよ!?」
「いやね、ちょっと雪降らせすぎちゃったかなー? と思って一応謝りに来たんだけどね」
「その通りだよ! 誰が災害レベルで降らせてくれっつった!?」
「少ないより多い方がいいかとついついサービスしちゃって」
「いらんサービスをするな!」
「いやしかし謝ろうと思ってたら驚いたねえ。まさか私がプロポーズされてしまうとは。いやはや、長生きはしてみるものだねえ」
「てめえへのプロポーズな訳ねーだろ! てか俺赤い服のおっさん相手に全身全霊のプロポーズしてたのか!? 雪菜はどこ行ったんだよ!?」
「ん? 私はしばらくここにいたけれど、君以外は誰もここには来ていないよ?」
「な、何い!?」
どういうことだ? 確かに雪菜は先に向かうとメールに書いてあった筈だが?
俺はもう一度確認しようとスマホを取り出した。
すると、俺が雪の中奮闘していた頃合いに新たなメールが届いていることに今気づいた。
俺はメールを開く。
『うえーん! 外雪ひどくて出られないよー( TДT)だから今日は見に行くのやめて家でパーティーしよ(≧▽≦)じゃあ待ってるからねー(⌒∇⌒)ノ"』
「………………」
「………………どんまい」
「ゆぅきぃなあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああー!!!!!」