転がす、転がされる
このページを開いていただきありがとうございます。
「たまもや」と申します。
これまで読んでいただいていた方はお久しぶりです。
だいぶ時間が空いてしまいました。すみません。
今回は三題噺企画、第十弾となります。
お題は、
「さいころ、メール、日向」です。
お楽しみいただけると幸いです。
窓際に寝転び三時間が経った。清々しい晴れ空の下、私はずっとスマートフォンとにらめっこをしている。その画面には今までずっと「寺岡先輩」の文字が表示されたままだ。文面を考えるのに二時間を費やし、現在は送り待ちの状態。何度も文面を読み返し、送信ボタンに指を伸ばそうとしては諦め、をすっと繰り返している。
「あーもうどうしよう!」
その言葉は誰もいない部屋の中に淋しく響いた。一人暮らしなのだから、応えてくれる人なんていないし、いたらむしろ怖い。そっと部屋の中を見回すが、人の影はなかった。その代わりにいいものを見つけた。
「よしこれで決めよう」
本棚の上に飾ってあった木製のサイコロを手に取る。ルールは単純に、奇数の目が出たら送信、偶数の目が出たら三十分後に再チャレンジというものにする。
「奇数でお願いします」
お祈りしてさいころを振る。フローリングに落ちたさいころはころころと転がり、六の目を上にして止まった。
「あぁ…」
これで三十分お預けとなった。その三十分をごろごろするのに使うのはもったいない。そこで、夕飯の用意を始めることにする。時刻は午後五時半。ちょうどいい時間だろう。せっかくの土曜日、午前中は寝て過ごし、午後はメールの送信に悩み終えるだけでは、もったいなさすぎる。そこで先日買った「狙えSNS映え!女子力アップ料理」を参考に、おしゃれな料理でも作ってみることにする。少しは女子力を補えそうだ。
午後六時に設定していたアラームが鳴る。目の前には一応水玉柄に見えるオムライスと小さなサラダの添えられたプレートが出来上がっていた。
「これならアップしてもいいかな」
盛れるカメラアプリを起動し、何枚か写真を撮る。その中で一番きれいに撮れた写真を選び、SNSにアップする。文面は、
「今日はお休みだったから、水玉に挑戦してみた!」
後ろにこれでもかというほどのハッシュタグを付け加え、投稿する。一連の作業が終わったので、私は再び窓際に向かい、さいころを手に取る。
「今度こそ!」
力強く振ったさいころは、思いのほか遠くまで転がっていってしまった。テレビ台の下に入り込んでいったさいころを転がらないように取り出すと数字は二を指していた。
「また偶数…」
いまから三十分、再び待つことになった。さっき台所に置いてきた、携帯を取りに行くと、たくさんの通知が来ていた。ほとんどは
「いいね!しました」
という通知だったが、中には、
「かわいい!!休みだったなら連絡してよー」
という大学の友達からのコメントもあった。
「今は出かけるどころじゃないの!」
スマートフォンの画面にそう投げかけ、ポケットに放り込む。オムライスを食卓に運び、箸やスプーンを準備する。せっかく作ったのだから冷めないうちに食べないともったいない。
指していた。行儀が悪いと思いながらも、急いで窓際に移動し、再びさいころを振る。優しく転がしたさいころは、三、四回転がり、再び六の目を見せつけた。
「…送るなっていうことなのかな」
ネガティブな考えが頭をよぎった。でも、もしそれが本当なら今日は送らないほうがいいのかもしれない。そこで、次さいころを振り、偶数が出たら、今日は送信しない、とルール変更し、最後のさいころタイムを待つ。食卓に戻り、食べかけの夕食を平らげ、食器を片付ける。
テレビを上の空で観ていると、最後のアラームが鳴った。すぐにさいころを取り、祈りを込める。
「どうか、どうか次こそ奇数をください」
手からさいころが落ちる。さいころはなんと一度も転がることなく四の目を示した。
「うそでしょ!」
私の運命は転がらずに終わってしまった。落胆しきった気持ちを癒すため、お風呂に入ることにする。お湯を沸かすボタンを押し、今日の多くを過ごした窓際に寝そべる。
「今日一日何だったんだろう」
ため息交じりの声は、またしても静かな部屋の中に響き、静かに消えていった。ふと横を向くと、この暗い気持ちを作った張本人が転がっていた。
「あんたのせいだからね」
そう言ってベッドの方に投げつけた。しかし、そんなことをしても気が晴れるわけもなく、ただむなしいだけだった。
気が付くと外は真っ暗になっていた。時計の短針はちょうど九時と十時の間あたりにいた。どうやら寝てしまっていたらしい。手に握ったスマートフォンの電源を入れると、あいかわらずSNSの通知が羅列されていた。下にスクロールしていくと、「寺岡先輩」の文字が現れた。思わず飛び起きる。
「え!?」
思わず声が出てしまう。受信した時間は七時十二分。寝てしまったあとすぐだろう。もう二時間も経っている。その通知をスワイプし画面を開く。
「寺岡です!昨日連絡先聞いてたから連絡してみた!オムライスめっちゃ美味そうだね!」
確認してすぐSNSを開く。いいね!を押した人のリストを見てみると、そこには先輩の名前があった。
「先輩、見てくれてたんだ!」
興奮冷めやらぬまま、再びメールの画面を開き、
「わざわざ連絡ありがとうございます!SNS見てくれたんですね!嬉しい!」
という文面の後に、私の中で一番かわいいと思っている、クマが照れて顔を隠したスタンプを送信する。私はスキップでお風呂場に向かうと、この間の誕生日にもらったバスソルトをお風呂に入れ、幸せなバスタイムの準備をする。今日は最高の日になった。喜びに浸りながらお湯にも浸る。
ベッドの上のさいころが一を指しているのに気付くのは、二時間の長風呂を終えた後だった。
今回は、主に登場するのが主人公の栞だけで、独り言と地の文で進むかたちになりました。
どうも説明ったらしくなってしまった感が否めないですね…。
ここはこうしたほうがいいとか、こういうコツがあるなどしってるかたがいらっしゃいましたらぜひ教えていただきたいです。
そのほかにも感想やお題の提案等がありましたら、コメントによろしくお願いします。
ここまで読んでいただいてありがとうございました。
これまでの作品もぜひよろしくお願いします。
三題噺のお題に関しましては、以下のホームページを参考にさせていただきました。
http://youbuntan.net/3dai/