琴音との出会いはひどかった
「私は。。。君の。。。」
「うーん、まぁ管理者かな。おまえは俺がなぜここにいるかを知っているし、目的も理解している。そんなやつは生徒ではおまえしかいない」
「でも管理なんてできない!」
「俺の行動は誰かが見ていないといけない。俺一人では判断が出来ないことが多いから。相談相手でもいいけど、俺はあまり話し好きではない。だから、おまえが俺の行動をそっと見ておいてほしいんだ」
「わけわからない!」
俺と愛染〈あいぜん〉琴音の約束は、こんな感じで取り交わした。
俺のやっていることは、あまりに異常だ。それは自分でも知っている。だからこそ、誰かに知っていてもらいたい。
琴音は、背筋の伸びた子だ。バトミントン部に所属していて、朝練なんかない緩い部活なのに、その日はたまたま自主練で来ていた。
俺が朝の始まりを人知れず行い、体育館のシャワールームから出たとき、琴音はちょうど一人で素振りをしていたところだった。
琴音は俺を普通の生徒だと思ったらしい。
動揺は俺の方がしていた。
真っ先に俺がとった行動は、ポケットに入れている非常用の携帯警棒を取り出して、琴音を襲うことだった。彼女を連れてとにかく帰らなくては。
琴音のコメカミを警棒の柄で打ち、朦朧としたところを抱きかかえ、内ポケットに入れていた薬を口に含ませた。
特別生徒会室の光景は異様だった。
俺の他に女がいる。しかも体操着だ。
とりあえず俺は、朝食係のホマレに気づかれないようにしないといけない。
7時だ。小窓が開く。
トレイにはクロワッサンとスクランブルエッグとベーコン。それとオニオンスープ。
ホマレが「今日のホームルームはね、」
とか言い出した瞬間、
「悪い、今日は気分が悪い。一人にしてくれ」
急いで話を止めた。
ホマレはしばらく黙っていたが、「あっそ」と言って、教室へ戻っていった。
さて、琴音だ。
どうしよう。顔を覗き込むと、まだ起きそうにない。薬が強い。
よく見ると綺麗な顔をしている。
肌つやがいいのは、もちろん、
目鼻立ちがはっきりしたタイプだ。
ここで、何かをするわけにはいかないが、無性に性欲に襲われる。
待て、そんなことをしている場合じゃない。
まず、そうだな、朝食を、食べよう。
スクランブルエッグをベーコンで巻き、醤油を垂らす。塩分過多だが、これがどうにもたまらない。そして、クロワッサンで、すくうようにエッグを食べるのも好きだ。クロワッサンは二つある。一つはエッグをつけて、もう一つはオニオンスープに浸しながら食べる。味はややこしいが、朝は多少柔らかい方が食べやすい。
食事が終わると、紅茶を入れた。
少し砂糖を入れるが、基本的に渋い方がいい。
で、琴音だ。
生徒会にどこかへ連れてってもらおうか。
いやいやそれはまずい。
別に生徒に見られてもよいが、俺が焦りすぎていた。
しかもこんな場所に連れてきてしまったのは、これもまた失敗だろう。
どうする?
一限目のチャイムが鳴る。
とても大きな音だった。
琴音が気がついた。
俺は咄嗟に構えた。
「ここは?」
「。。。生徒会室。特別生徒会室だ」
「そんな教室あったっけ?」
旧棟の五階の端だからな、誰もこんな所にこない。
「。。。授業が始まっちゃってるじゃん!やばい!」
やばいのはこっち。
「おまえ、今日は授業には出られない。しばらくここにいるんだ!」
「なに?君は私にそんなこと言う権利あるの?君も授業に出ないといけないでしょ?」
「俺は。。。授業には出ない」
「なにそれ?君、ヤンキー気取りかなんか?よく見たら制服の形も違うし、留年組?」
「。。。おまえ、この状況わかってんのか?おまえは俺が拉致ったんだぞ?」
「でも校内じゃん。とりあえず教室に行くわ」
「ダメだ!」
「なんでよ!」
「おまえは俺を見た」
「なにそれ?君は少し危ないコかな?やめてよ、気持ち悪い。もう出るから!」
琴音が立ち上がると、小走りでドアへ向かった。俺は琴音の手首を掴みひねりあげた。
「何するのよ!」
琴音は、発狂したような大声をあげた。
俺はもうどうなってもよかった。