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白金伝説  作者: 北野紅梅
序章 再開
4/4

第四話 <金髪の兄妹>

金属の鎧をガチャガチャと鳴らし、薄紫のマントをなびかせ、肩で風を切って歩く。

そんな兵士が横に何人も連なり、邪魔な露店は避けずになぎ倒しながら歩く。

賑やかな街道は一瞬静まり、やがて騒然となった。

露店の店主だろうが客だろうが、老人だろうが子供だろうが、邪魔な者は蹴り飛ばしながら突き進む。


「黒蝶騎士団だ!」

「黒蝶が来たぞ!」

と通りで騒ぎになり、人々は道を空けて逃げて行った。


この傍若無人な黒蝶騎士団の黒蝶といういわれは、水滴を中央向きに寝かしたようなものが縦横二列づつ合わせて四つ並んでいるマークが、鎧の胸に刻まれているからである。

本人達は、火花が飛び散る様を表したつもりであったが、最初は自分で自分の鎧にマークを彫り、色付けもなく黒かったので黒い蝶の様に見えた事から、黒蝶騎士団と呼ばれるようになった。

この騎士団の若者達は、先の大戦、いわゆるポード国征服戦争で活躍出来なかった者達である。

その後大きな戦争がなく、平和が続き、功を立てる機会もそうそうなくなった。

大戦で立身出世した者達を妬み、戦乱を望み、少しの功績でもありそうな事に首を突っ込むような事をする連中となり、入団する者は無頼漢が主となっていった。


「ここだ、このホテルに奴等が泊まっている!」

先行していた紫マントの男が興奮気味に「闘魚亭」と看板の上がっている五階建ての建物を指差した。

それで紫マント達は、ホテルを見上げ、ずかずかと中に入って行く。


「入り口をマシュー達が見張れ!後の者は五階に上がれ!」

偉そうな一人がそう指図すると、十人程が剣を抜き放つ。

食事中の旅人や商人、それに色目を使う商売女がぎょっとした顔で凝視する中、食堂を横切って階段を上り始めた。


二階は吹き抜けになっていて、壁際に小部屋が並ぶだけ。

三階は基本的に相部屋する為の大部屋がいくつかある。

四階は個室、五階は高級な部屋である。

紫マント達は、十人連なって階段を上った。


四階から五階へ上がろうとした時である。


ヒュン


という風を切る音がしたかと思うと、先頭の男の後頭部を弓矢が掠め壁に突き刺さる。

二番目の紫マントがすっとんきょうな声を上げた。


「外したぞジュリア!」

と言う男の声が聞こえる。


見ると、四階の廊下の奥、右へ折れる手前に、弓を構えた給仕姿の金髪女が立っていた。

「逃げるわよ、セナ!」

と女が叫ぶ。

金髪の若い男女二人は、慌てて後退りして廊下を曲がって行った。

ドタバタと木造の廊下を走る音がする。


「…ジュリアとセナだ!奴等を追え!」

先頭の偉そうな一人がそう叫んだ。

「…しかし…」

二番目にいた紫マントが反論したが、

「我等がここに来た理由を忘れたか?!あの三人の失態なぞどうでもよい!我等が追うセナとジュリアがいたんだぞ!」

と怒鳴り散らした。


あぁそうだったというような顔を見合わせた紫マント達は、急いで四階の廊下を走って後を追った。


だが、角を曲がった時である。

ガラガラン!

と騒々しい音を立てて先頭の紫マントが派手に転んだ。

廊下には、掃除道具のバケツや(ほうき)やモップが転がっている。

「バカ者!こんなもので転んでいる場合ではない!」

後に続く一人が転んだ男を叱責した。

しかし、紫マント達の勢いはそこで止まった。


角を曲がるには曲がったが、左右に五つ、奥に一つある部屋は全て扉が閉じられ、静まりかえっていた。

これではどこに兄妹が入って行ったのかがわからない。


「何をしている!手当たり次第に開けて行け!」


黒蝶騎士団は、扉を片っ端から蹴破り始めた。


一つ目の部屋には、商売女と抱き合う男がいた。

悲鳴を上げる女は赤毛であった。

その向かいと隣は無人で扉が少し開いていた。

三つ目の部屋からは、騒ぎを聞いた部屋主が何事かと顔を出していた。

四つ目は男が四人で食事をしていた。

その隣、五つ目の部屋の扉は簡単に開いた。

ここにも誰もいなかったが、床には何本かの矢が落ちていて、窓が開いている。


「おい、あれを見ろよ!」

何かを見つけた紫マントは叫んだ。

いわれた通り見てみると、ベッドとタンスに結わえたロープが、窓の外へ垂れていた。

ロープは一階の窓の上くらいまでの長さがある。


慌てて窓から身を乗り出して探すと、矢筒を背負い弓を持った給仕姿の金髪女と、その手を引く金髪で背負い袋の男がホテルから走って行く。


「くそ!奴等は下だ!」

そう怒鳴ると、短銃を腰から引き抜いてその二人に目掛け、引き金を引く。


パン!


と乾いた破裂音が裏通りに響く。

にも関わらず、二人は走り続けていた。


「外したか…下だ、降りろ!」

偉そうな一人はロープを指差す。


後ろの紫マントは少し躊躇したが、ロープを握り締め、窓から身を乗り出して降り始めた。

が、降り出してすぐにロープが切れ、悲鳴と共に四階から地面へ落下してしまった。


「なんという…」

偉そうな紫マントは歯軋りしながら走り行く金髪の男女を見ていた。

「お前達何をぼうっとしているか!階段からだ、追え!もう奴等を逃がすな!」

紫マントの一人がそう叫んで、九人は階段を駆け降りて行った。




金髪の男女は裏通りを走り抜け路地へ入り、さらに南の通りに出る。

その直前、女は人目をはばかりながら金髪をさっと取った。

その下から黒髪が現れて、カツラは男の背負い袋にしまう。

「金髪のカツラに給仕の服なんて、何の役に立つかと思ったケド…」

とつぶやいた。


「白金のミツカイ様も給仕姿で出歩かれていたそうですよ、ヒーナ様」

若い男、マセルはチュニックを脱いで、昼間のシャツ姿になりながらそう笑った。


それに少し眉をしかめながら、

「あいつ銃を撃って来たわよ、なんて乱暴な!」

と文句を言った。


「あの距離から短銃の一発じゃ、なかなか当たりませんよ」

と金髪の青年は笑った。


ヒーナはエプロンを外しながら、

「当たらないなら尚更撃つ意味が分からない…」

とぼやいた。

そして、そのまま目の前にある質屋に入る。


しばらくして出てきた時には、ヒーナはシャツとズボン姿であった。

通りへ出てすぐに、紫マントが数名、キョロキョロしながら目の前を走って行ったが、こちらに気付く事はなかった。


そこへ、同じく、シャツとズボン姿で頭髪がだいぶ薄い中年の男、ベルトランが駆け寄る。

「ヒーナ様、奴等は全員町に出ました。ホテルにはもう見張りも居ません」


隣に居る金髪の青年、マセルが笑いながら、

「しかし今、目の前を通って行ったのに、我等に気付かないなんて、奴等も大したことないですね」

と言う。

「あんなのなら、普通に戦って奴等を退治した方がよくないですか?」


それに、

「何を言うか」

とベルトランが声を上げる。

「我等の任務を忘れたか?そんな目立つ事はできないだろう。それに…」

そう言いながら少女を見て、自分の薄い頭を撫でる。

「ヒーナ様の策は素晴らしい。奴等の探索は確実に外に向くだろうし、我等も襲われない。今日は安心してホテルで眠れるだろうさ」


ヒーナは金髪の二人の兄妹が、紫マント達の探している罪人だと悟った。

そこで、二人の姿を彼らの鼻先にちらつかせ、標的を自分達から外したのだ。

その先は、ちょっとしたトリックがあった。

黒蝶騎士団の襲撃に備え、マセルとヒーナ以外の者は全員、五階のブリュノの部屋へ移動していた。

マセルやジュノー達四人の若者が泊る四階の四人部屋には、代わりに金髪の兄妹が入る。

四人部屋から一階までロープを垂らし、さらにその真上のブリュノの部屋から二本のロープを下の兄妹の居る部屋へ垂らしておく。

ヒーナは変装用の金髪のかつらと給仕の服を持って、金髪のマセルと共に一階の窓の下で待機していた。

これで準備は終わりだ。

後は四階まで上がって来た黒蝶の連中に矢を浴びせて注意を引き、追いかけて来たところで、兄妹はロープを身体に巻き付けて窓から出て、真上のブリュノの部屋へ引っ張り上げてもらったのだ。

それを見て、窓の下で待機していたヒーナとマセルが金髪のかつらを着け、矢筒や背負い袋を背負い、給仕の服やチュニックを着て駆けだす。

普通、残されたロープが下へ垂れていたら下へ逃げたのだろうと思うし、それらしい格好の二人が逃げて行くのを見たら、顔をしっかり確認しなくても、それを逃走者だと思い込んでしまう。

現に黒蝶騎士団は、逃げて行く金髪のカツラをかぶったヒーナとマセルを、追い掛けている。

そうやって逃げた所を目撃させておいて、あとは裏路地にたくさんある質屋に、金髪のカツラや給仕の服、背負い袋なんかを預けて換金し、何食わぬ顔でホテルにもどればいいというわけであった。

逃亡する兄妹を目撃しただけに、兄妹が逃げた跡のホテルを今夜中にまた探索に戻る事はないだろうし、あのホテルはここムステルで一番安全な場所だと言える。


少し不満顔のマセルを見て、ヒーナは微笑む。

「さぁ、ホテルに帰って寝ましょうか」



ホテルに戻ったヒーナを、金髪の兄妹は感激して迎えた。

セナはつくづく関心しながら、

「さすがヒーナ様、記憶はなくしても策は健在ですね!」

と目を輝かせた。


ヒーナはそれに苦笑いを返しながら、全員に、ホテルの一番いい部屋のリビングへ集まるように指示した。

リビングの椅子をクルリと返してソファーの方へ向けて座る。

羽根付兎のピートは、プーンと飛んで来てソファーに付いている足掛け(オットマン)に座った。

兄妹と大男のブリュノ、ベルトランと中年の二人はソファーにかけ、マセル達残りの若者四人はソファーの後ろに立つ。

集まった全員を見渡してから、

「…さて、二人に質問があります。あなた達は何故追われているのですか?」

と尋問した。


金髪の兄妹は顔を見合わせた。

何も言葉を発せず、お互いの目を見つめ合うだけの時間がしばらく過ぎてから、観念したかのように兄のセナが何か言おうと息を吸い込んだのだが、それを制するように妹のジュリアが、

「黒蝶の弱味を掴んだんです!」

と叫んだ。


「弱味?」

お喋りな兎が間髪入れずに聞き返した。


「一通の書簡です…」

兎などを見ずに、伏し目かちにジュリアは言う。

「奴等が前線へ輸送する補給物資を横領している証拠です…たぶん…」


「たぶん?」

兎がまた聞き返した。

ジュリアはまたそちらを見ずに、

「封を切ると偽物に見えます。だから封はしたままです」

と答えた。

そこで、

「いや、ヒーナ様…」

と口を出した兄を、ジュリアは、

「セナは黙っていて!」

と一喝した。

そして、

「奴等が必死になって追い掛けて来るのは、この書簡がフラン軍に知れれば処断されるからです。必死になるのは、それくらい大事な書簡だという証拠よ」

と言った。


そこでいまいち腑に落ちないという顔をしたブリュノが、息を吸い込んだ時、それから吐き出される言葉を制するようにヒーナが、

「なるほど、確かにその通りですね…」

と納得の声を上げた。

眉をひそめるブリュノを目で制して、

「問題は明日です。私達はセゲロへ向かいます。あなた達はどうなさいますか?」

とたずねた。


二人の兄妹は、そう聞いて顔を見合わせる。

二人はそのセゲロから逃げて来たのである。

セゲロは黒蝶騎士団の拠点なのだ。

「私達は…ヒーナ様と行きたいのですが、それでは皆さんに迷惑がかかってしまいます…」

そう言うジュリアにヒーナは微笑んで、

「私達も黒蝶騎士団には目を付けられました」

と言うのだが、金髪の妹は、

「我々はモナリ経由でフランに向かいます」

と、自分の膝の上で組んだ手を見つめながら答えた。


白金のミツカイは突然死んだ。

マルグ軍の黄金のミツカイ、サーヤと話し合いをすると言い残して幼かった兄妹を置いて森の中へ消えていった。

だから何が起こったのか、どんな最期だったのかも分からないし、感謝の言葉も伝えられていない。

白金のミツカイがいなくなってからというもの、兄妹は自然と彼女の話はしなかった。

しかし心の中には常に彼女があり、会いたくて、話がしたくて仕方がなかった。

それから大きくなった兄妹は、剣や弓の訓練をして鍛え、兵士としても遜色がない程になった。

強くはなったものの、そのせいで今は別の大きな目的が出来てしまい、ヒーナと道を同じにできない。


ヒーナは泣きそうな顔のジュリアに対して、

「じゃあ明日はお別れですね。でもとにかく、今日はここで一緒に眠りましょう」

と微笑んで見せた。


一行は難しい事を話し合うのをやめ、休養をとった。


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