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白金伝説  作者: 北野紅梅
序章 再開
3/4

第三話 <再会>

高級レストランで乱闘騒ぎを起こした一行は、慌ててホテルへ引き返した。


「私達が悪い事をしてるわけじゃないのに…」

とヒーナはぼやいたが、

「すいません」

とジュノーがすぐに謝ったので、

「いや…別にあなたのせいじゃないわ」

と、複雑な顔で返した。

しかし、大男は不満そうな顔で、

「いや、納め方に配慮が足りない。第一の我々の任務を忘れたか?」

と説教する。

「あぁいう輩は面子を気にする。大事になって逆に襲撃でもされたらなんとするか?もしかしたら奴等はもうこちらのホテルを嗅ぎ付けていりかもしれんぞ…」

ブリュノは憤慨しながら続ける。

「それに、鍛え方が足りんのではないか?いくら数があると言っても相手は素人のような剣捌(さば)きの若僧だ。あんなに派手にやらずとも処理できるだろうに…」

ブリュノはそうぼやいてから中年の男に、

「ランドフ、明日はその二人を鍛え直してやれ」

と指図した。


「え?俺もですか?!」

ジュノーでない青年は驚いて声を上げた。

それに、ブリュノから指示を受けた中年男ランドフは、その青年の肩にポンと手を乗せて、

「アルマン、お前もだよ」

と言ってニヤリと笑った。


「ブリュノさんの命令ですもの、しようがないわね」

ヒーナもふふふと笑った。


「あぁ、ついでにヒーナ様も訓練しましょう。剣の立ち回りは護身用に覚えておいて損にはなりますまい」


それを聞いた少女は、大男から顔を背けてうんざりという顔をした。

見ていた青年二人は声を上げて笑う。

そうこうしているうちに、一本裏筋に入ったところにあるホテル着いた。

この辺りは貝商亭が有名であるが、元々水産加工物を取り扱う問屋街だった為に、海産物の名前が付いているホテルが多い。

貝商亭とは格が違うとは言え、ここ、闘魚亭も名前からして、昔は海産物問屋だったのであろうか。

このホテルは昔ながらの、一階が吹き抜けの、食堂兼酒場になっている宿である。

場所がら、出稼ぎ漁師が帰郷する前に立ち寄る事が多い為か、買い付けの商人が多い為か、酒場には商売女も多い。

胸元が大きく開いた派手な衣装を来て、男達の隣に座り「私を買わないか」と誘っている。

そんな喧騒の中を通って一番奥にある階段を上ると、二階が簡易な宿泊部屋になっている。

さらに上り、三階と四階と五階が宿泊者用の部屋で、青年達は青年達は四階の四人一部屋の雑居部屋で、中年の隊長二人はヒーナの隣の部屋に、壮年の大男はその向かいの部屋に泊まっている。

ヒーナが五階まで汗をかきながらたどり着いた時に、「では、明日朝食前にお迎えに行きます」というブリュノの報せに、あぁ、明日は特別な剣の訓練なんだとうんざりした。

五階に上がってL字型をした廊下の角を曲がった突き当たりにある、このホテルで一番いい部屋を取ってある。

部屋に入ると玄関の間があり、扉が正面と左にある。

正面を開けるとリビングになっていて、大きなUの字型のソファーが設置されており、向かいには大きな窓がある。

その窓からは貝商亭の裏側が見えるベランダへと出ることができる。

玄関の左は部屋自体が大きなクローゼットとなっているお着替え部屋だ。

壁には長い棒が取り付けられていて、ハンガーがかかっている。

大きな姿見も備えられており、おまるも用意されている。

リビングとクローゼットには玄関側以外にももう一つ扉がある。

その先は大きなベッドがある寝室である。

ヒーナは少し興奮しながら、玄関からリビング、寝室、クローゼットと見て回って玄関に戻った。

一番いい部屋というだけあって、普通はなかなか泊まれないような豪華な部屋だ。

玄関に戻ったところで、外への扉がノックされた。


「給仕です。お身体をお清めに参りました」

と、女の声がする。

扉を開けると、腕に何枚かのタオルをかけ、湯気の上がる桶を抱えた給仕姿の若い女が立っていた。

ヒーナは、何か違和感を感じつつもその女を招き入れる。

給仕の若い女は、それに反して、二、三歩部屋に入っただけで立ち尽くしていた。

後から着いて来ない給仕を不審に思った少女は振り返る。

と、給仕の若い女は急にしゃがみ込んだ。

乱暴に床に置かれた桶のお湯が波打ってこぼれる。

よく見ると、給仕の格好をしているが、金髪は薄汚れているし、エプロンのみならず紺色のドレスも汚れている上、所々に(ほころ)びまである。


しゃがんだ給仕は、目に涙をいっぱい浮かべた顔を上げ、

「ヒーナ様…お会いしたかった…」

と涙声を出した。


面食らったヒーナは、苦い顔をしながら、

「あぁ…またこれか…」

と小声でつぶやいた。


給仕の女は涙をエプロンで拭うと、

「ジュリアです。幼い頃あなたに救って頂き、お側に仕えていたジュリアです!」

と声を上げた。


とにかく彼女は危険な者でないと判断したヒーナは、

「とりあえず落ち着いて…」

と苦笑いしながら、給仕が開けっ放しにしていた扉を閉め、リビングに案内する。

「あの、ヒーナというのは愛称のようなもので…本当の名前はひな…」

そう言いかける少女に、

「えぇ知っています!でも、私達にとって…いえ、この世界の住人にとって、あなたはヒーナ様なのです!」

と、ジュリアは熱弁をふるう。

「お忘れですか?私の事、兄のセナの事…」


「ええと…忘れたとかじゃなく、あなたの言うヒーナって人は、私ではないのですが…」

心当たりも身に覚えもない少女は、気の毒だという顔をして給仕姿の女を見た。

きょとんとしたジュリアはたずねる。

「ミツカイ様ではないのですか?」


「えっと…気が付いたらこの世界に居ました…」

ヒーナのその答えを聞いたジュリアの目はまた輝きを取り戻す。

「じゃあミツカイ様なのですね…分かります。あなたはあの日、サーヤと相討ちになって元の世界に帰られた。その時にこちらの世界の記憶を無くされたのです」


「その人は十五才くらいだったんでしょう?私は十八です。十何年も前の人が三歳しか年をとらないわけないでしょ?」


「異世界とは完全に繋がっている訳ではありません。時間の進み方や速度がちがうのです」


「その人は光の川みたいなのでどばーっと全てを消し去るとかいう災害みたいな力があったんでしょ?私にはそんな力なんてありません…」


「御使い降ろしの時の、光の柱の色によって力は変わります。どんな力をお持ちでも、いえ、ミツカイの力がなくても、あなたはヒーナ様です」


「名前が一緒というだけです!しかもあなた達が勝手に呼んでいる呼び名が同じなだけ。私はチェスもしませんし、剣の扱いも下手くそですから」


そこまで聞いて、少し絶句したジュリアは、

「じゃあ…別人?」

と言葉を濁した。

うんうんとうなずく少女を、それでもジュリアは否定して、

「いえ、こんなにヒーナそっくり…そのまま少し背が伸びただけのようなお姿で…別人なんてことはない!」

と、なおも食い下がった。


「あのですね…」

とヒーナが反論しようとした時、玄関の間の扉が乱暴に開いた。


「ジュリア!奴等が来た!」

怒鳴り声と共に入って来たのは緑のチュニックに黒い麻のズボンをはいた金髪の青年であった。

腰から長剣を下げ、大きな荷物を背負っている。

それを受けて給仕姿の女は、

「ヒーナ様、私達は行きます。またお会いしましょう!」

と、青年が投げて寄越した弓を、続いて矢筒を受け取った。

呆然とするヒーナを見た青年は、

「ヒーナ様…ほんとに、ヒーナ様だ…」

と、凍り付いたように立ち止まる。


そこへ何事かと、大男のブリュノと、中年の男二人が飛び込んで来る。

「不届き者!ヒーナ様を狙っての事か!」

と、怒鳴った大男は、給仕姿の女を見て、飛びかかるすんでの所で止まった。


「ブリュノ様!」

給仕姿の女が大男の名を呼んだ。


「ジュリア…って事は、こいつはセナか?」

驚いたブリュノはそう言いながら青年の顔を確認した。


大慌てで、ジュリアは大男の前で片膝を着いて頭を下げる。

「ブリュノ様、色々お話したいのは山々ですが、私達は今追われています。ヒーナ様の警護をされているのなら、いずれまたお会いするでしょう」

と丁寧に言って、すっくと立ち上がり、部屋から出ようとする。


「待って!」

思わず声をかけて引き留めたのは、ヒーナであった。

「あなた達は誰に追われているの?」


大恩あるミツカイ様にたずねられ、

「黒蝶騎士団というならず者です」

と、兄妹は正直に答えた。


大男と中年の二人は思わず顔を見合わせる。

「それなら、俺達の客だろう」


「いや、奴等はセゲロからずっと私達を追って来ているのよ。私達がいたらヒーナ様にまで危害が及ぶわ」

ジュリアがそう反論する。

それにヒーナが苦笑いしながら、

「さっきその黒蝶を三人ばかりやってきたの。おかげでゆっくりデザートが味わえなかったわ…」

と言う。

呆れた顔で何も言い返せないジュリアの肩をポンと叩いたセナは、

「まぁ、奴等の所業を目の当たりにすれば、たいていはそうなるさ…」

と言って笑った。


「さて…と…」

ヒーナはそうつぶやいて、目玉をぐるっと回す。

「セナさん。こちらへ来る黒蝶の数は分かりますか?」


そうたずねられた青年は、少女の方に向き直って、

「セナと呼んで下さい」と前置きしてから、「奴等は二十人ほどでムステルに来ています。こちらに来るのは、一目見ただけですが全員ではなかったかと」

とハキハキと答えた。


「こちらは兄妹二人を含めて十人と、兎一匹…数では少し劣るわね…」

周囲はそうつぶやきながら考えるヒーナに、「はい」「そうですね」と言葉少なくうなずいていた。


それを聞きながらヒーナは、

「私の荷物に金髪のカツラがあったわね…」

「それにジュノー以外…マセルも金髪だったわね…」

「ロープも何本かあるし…」

などとつぶやいていた。

そしてすぐに、

「ジュノーさん達の部屋はブリュノさんの真下でしたか?」

とたずねる。


「えぇ、下の廊下もここと同じで、右に曲がって突き当たり手前の部屋です。ただ、部屋は四人も泊まれる大きめの部屋ですが…」

と、レストランに行かなかった中年の隊長、ベルトランが答えた。

その答えに満足したかのように、ヒーナはぱっと明るい顔になった。

「では、少なくとも今日は黒蝶さんがここへ来ないようにしましょう!」


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