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白金伝説  作者: 北野紅梅
序章 再開
2/4

第二話 <乱闘騒ぎ>

初夏の草原は緑の匂いと生きる活力にあふれ、光り輝いている。

緑の中を通る一本の街道上にも、遠くに見える畑にも人影はない。

お昼時というのもあるだろうが、この暑さでは、余程急ぎの用でもない限り炎天下を歩こうという考えが思い浮かばないのだろう。


そんな陽の下で、街道を東へ行く一団があった。

先頭を行く鮮やかな栗色の馬に跨がるのは、シャツとズボンという軽装の大男である。

馬の背に大きな背負い袋をかけ、大きな戦斧をくくりつけているその大男は、壮年でありながらも筋骨が逞しい。

その他に土色の馬に跨がる青年が四騎、中年が二騎続く。

いずれも無駄な贅肉もない身体付きで、シャツとズボンという軽装であった。

みんな同様に、馬に背負い袋を掛けて剣や槍などをくくりつけている。

そして、一人、最後尾に着いている一騎があった。

白馬に跨がり、白く塗られた革を紫の紐で縫い合わせた鎧と、銀色の鉄板が縫い付けられた羽根付き兜をかぶっている。

背中に垂らした白銀のマントも、薄手ではあるのだろうが暑そうだ。

胸から腰にかけての曲線や線の細さから、女性だと判る。

「なんで私だけこんな暑苦しいのよ…」

と、つぶやくその声からは、女性でも若い、少女のようである。


その白い少女の白い革鎧の左肩の上に、小さな兎に羽根が生えたような生物が座っていた。

その不思議な生き物は、甲高い可愛いげのない声で、

「訓練だよ」

と答える。


「分かってるわよ…あぁ、エアコンが効いた部屋でかき氷でも食べたいわ…」

と、羽根付き兎に答えるでもなく、ため息混じりにつぶやいた。


「エアコン?かき氷ってなんだい?」

甲高い声で興奮気味に兎がたずねた。


それで、しまったといった顔をした少女は、

「涼しくなる道具よ…」

と手短に答えた。

しかし兎は目を輝かせている。

「どんな?ねぇ、どんなのだい?」


「エアコンは自動で部屋の中を快適な温度にする機械よ。電気がなきゃ使えないから、あなた達にはまだ早いわ…」

少女は面倒そうに答えた。


「ふーん…で、なんとかごおりは?」


少女は少しイライラして、

「氷を砕いたものよ。身体の芯から冷やすのよ」

と答えた。


「氷を砕いたものがそっちの世界じゃ道具なのかねー?」


ふぅと溜め息を吐いた少女は、

「道具じゃなくて…大きな氷を細かく砕いて、赤とか緑とか…」

と説明し出した。


その時、

「ヒーナ様、あそこで休憩にしましょう!」

と、先頭の男が声を上げた。

その男が指差す方には、何本かの立木が並んでいて木陰をつくっている。


やった、とばかりに少女は馬の腹を蹴った。

白馬は途端に駆け出す。

「うわぁ!」と悲鳴を上げて肩から転げ落ち、かろうじてマント掴まるおしゃべり兎を目の端で確認してから、

「しっかりつかまりなさいよ、ピート!」

と声を掛け、クスクスと笑って木陰へ急いだ。


馬から飛び降りて立木に手綱をくくりつける。

そして、少女はベルトの真ん中、薄紫の宝石のようなバックルの裏側に何本か指を入れ、「解除ゼロゴイチハチ…」と何やら小声でつぶやく。

すると、瞬く間に鎧やマント、兜やブーツが光に包まれ、光はバックルであった薄紫色の宝石に集約し、(こぶし)ほどもない大きさの宝石だけになってしまった。

それをズボンのポケットに突っ込むと、馬に背負わせた荷物の中から小筒を取り出し、コルクの栓を乱暴に摘まんで引き抜き、一気にあおった。

大きなゲップ混じりの溜め息をついて、シャツの襟を摘まんでパタパタと胸に空気を入れる。

「あぁ、暑かった!もう限界よ!」


後から来たシャツにズボンの男達は、その姿を横目で見ながら、思い思いに休憩する。

その中の一人、先頭を行っていた初老の大男が、

「ヒーナ様、はしたない格好をなさらず…」

と苦言を呈した。


少女は少し不逞腐れて、

「こんなに暑けりゃ、こうでもしないと熱中症で死んでしまうわよ」

と言って、木立の傍に座り込み、木の幹に背中を預けた。


初夏の草原で木陰に座り涼むというのは気持ちいい。

青い空にゆっくりと流れていく薄い雲を眺めながら、そよそよとした風に吹かれていると、緑と土の匂いを感じる。

すうっと引いていく汗に心地よさを覚えながら、あの東へ流れていく雲は、私達を追い越していくのだろうか、私達が追い付いたのだろうかなどと、どうでもいいことを考えていた。


すると、

「ブリュノ様ちょっと…」

と、周りがにわかに騒がしくなった。

呼ばれた大男は、中年の一人に目配せをして呼ばれた方向へ、ヒーナもたれているの木の裏側へ向かう。


それと入れ替わりに、おしゃべりな兎がプーンと羽音を立てて飛んで来る。

「ヒーナ、大変だよ!木の後ろに穴が開いてる!」


少女はすました顔で立ち上がると、面倒そうにズボンのお尻を払いながら、

「穴?」

と、きき返した。


「地面にね、いくつものでっかい穴が開いてるんだ!」


背もたれにしていた木を回り込んで見ると、木の影が切れるか切れないかという地面に、三、四個の深い窪みがあった。

まるで何かを掘り起こした跡のようである。


頭髪がだいぶ薄い中年の男が一人、くくり付けていた馬の手綱をほどき、

「あそこの農夫に聞いて来ます」

と、向こうの方に広がる畑で何やら作業をしている麦わら帽子に向かって馬を駆った。


「深い穴ですが、取り合えず何も無いようです…」

穴を覗き込んでいた青年の一人がそう報告した。

大男は頷きながら、駆け出した一騎を目で追って、

「ならばベルトランが帰って来る間、食事としよう」

と命令した。

それで皆、銘々に、馬に背負わせている荷物からパンやチーズや干し肉を取り出す。

少女は、チーズと鳥肉の薫製をパンに挟んで頬張った。


半分ほどサンドイッチを食べたところで、農夫に聞き込みをしていたベルトランという中年の男が戻って来た。


馬の手綱を木にくくりつけながら、

「色々分かりました」

と報告を始める。


麦畑に居たのは代々この近くに住む者で、その麦と、家の近くの畑で野菜を育ててそれを食べたり、あるいは東にある宿場街へ行って作物を売ったりして生活している。

この木立は旅人がよく休憩する場所になるのだが、一年半前の冬、吹雪のひどかった翌日に、この木立にもたれかかった状態で死んでいる男達が発見された。

気の毒に思った農夫は、木立の裏側に死体を埋葬し、宿場街へ行って死体の特徴を告げて来たそうだ。

しかし未だに、彼等の身内に報せが届いたかどうかは分からないし、それらしい人物が訪れた事もない。

そして、何日か前に、その死体を埋葬した辺りに穴が開いていた。

おおかた、腹を空かせた狼や猿なんかの獣が、死体の臭いを嗅ぎ付けて掘り起こしたりしたんじゃないか、と言う。


「…一年半も前なら、肉なんて無くなってるだろうに…」

話を聞いて釈然としない大男は、そうつぶやいて奇妙な顔をした。


「狼や犬なんかは骨も食べますから…」

直接農夫に話を聞いて来たベルトランは、そう言って苦笑いした。


どちらにせよ、あまりぞっとしない話である。

少女はモシャモシャとサンドイッチを頬張っていた。

大男はその横に腰掛けながら、

「諜報部に報せるほどの事でもなさそうですね…ましてや、アドレアン殿の耳に入れる事もない」

と言って、干し肉を噛み切りながら少女の顔をみつめた。


「…そうね」

と、口の中のものを噛み噛み答えた少女は、穴を横目で見た。

ここに死体が埋まっていて、それが今は掘り起こされたかも知れないし、まだ一部は埋まっているかも知れない。

しばらく見つめていると、穴から何かが這い出てきそうで、ヒーナは思わず目を逸らして青空を見上げた。


大男は水筒の水をあおると、

「食事の後、すぐに発てば夕方には宿場街ムステルに着きます。ムステルから港町セゲロまではすぐです」

と言って、腰を上げた。


しばらくして、八人と兎一匹は木陰を出て東へ駆けていった。




日も傾き始た頃、ムステルという街に着いた。

街道筋に建ち並ぶホテルを中心にしたこの街は、真ん中を東西に通る街道の南北に平行する四、五本の裏通りと、それをつなぐ南北の路地から成り立っている。

セゲロという大きな港町への陸の玄関口となるこの宿場街は、街道沿いに大きなホテルや馬車駅、レストランやカフェバーが並び、夜には露店も出て賑やかである。

一本南北には、庶民的なレストランやカフェ、道具屋、さらに裏通りともなると怪しい商いの店も少なくない。

この裏通りの治安は悪いのだが、逆に表通りになる街道では滅多な事は起こらない。


ヒーナは馬車駅の馬小屋を借りて乗ってきた軍馬を預けると、荷物を背負って宿泊のホテルを探した。

一行の青年の一人ジュノーが、表通りから南に一本入ってすぐのホテルを取ってきた。

「本当は、貝商亭なんかがいいのでしょうが…」

と大男ブリュノは遠慮がちに言って荷物を運んでくれた。


貝商亭とは、このムステルの象徴ともいえるホテルである。

開業は数百年前という老舗だ。

百人泊まれる大部屋や、国賓級の人物にも対応できる豪華な部屋もある。

利用客も多いのだが、特別待遇の質は他のホテルと一段違う。


「うーん、豪華な方にも泊まってみたいわ…」

少女はそう言って苦笑いした。

それを聞いたジュノーが、

「今日は豪華な部屋を黒蝶騎士団って奴等が占領しているそうです」

と、不満そうな顔で言った。

少女、ヒーナが浮かない顔で、

「黒蝶…?」

と、肩に乗っている小さな羽根付き兎を見た。


「知らないよ、そんな奴等…」

ピートが小さな頭を振った。

代わりにジュノーが答える。

「なんでも、罪人を捜索しているそうで…」


「なんだ、警察活動をしてる騎士団だから、フラン軍なんじゃない?」

ヒーナは合点がいったようにきくが、小兎も、大男も知らないという風に首を横に振った。


国賓級の人物が泊まっても遜色ない部屋に、大臣でもなく、軍のトップである元帥でもない、その下の師団長でもない、ましてミツカイでもない名もなき騎士団が、しかも罪人の捜索で来ているのに宿泊しているというのだ。


不満そうな顔をする少女に、ジュノーが言う。

「その代わりといってはなんですがヒーナ様、貝商亭のレストランを予約してきました。料理は絶品ですよ」



まもなく、部屋に荷物を置いて、ヒーナと大男が宿を出た。

それに中年男一人と青年二人が随行して、絶品の貝料理を食べるべく、貝商亭に向かった。

男達は白のカッターシャツに、薄い茶色の綿のズボンに着替え、ヒーナも白のカッターシャツと、脛まで丈がある綿のスカートという姿になっていた。

一応護身用に短剣をベルトに差しているが、それ以外の武器はない、ラフな姿である。


街道の道幅は二十メートルはあろうか。

日が落ちて薄暗くなった広い道に、露天の屋台や道具屋等が並び始めている。

それぞれの露店商が出すランタンの光と、建ち並ぶホテルやレストランの光が、夏の夜に幻想的な風景を浮かばせていた。

旅人はそれぞれの宿をみつけ、そこから出てこの露店商を楽しみに集まり始めていた。

あっちの店を見たり、こっちの店を眺めたりと、ふらふらと歩く。

それぞれの露店商が店先に出すランタンの光と、建ち並ぶホテルやレストランの光が、夏の夜に幻想的な風景を浮かび上がらせていた。

人の多い街道少し歩くと、城のように巨大な石造りの建物が見える。

それが噂の貝商亭であることは一目で分かった。

貝商亭は元々、港町セゲロで水揚げされた貝を塩漬けにして販売している海鮮問屋だった。

ポード国であった頃、セゲロはポード国の首都ロンドに一番近い海の玄関口であり、貝商亭は保存食として塩漬けの貝を軍や旅人に売ってここまで大きくなった。

ポード国が滅んだ今でも、貝の塩漬けは旅人に人気である。


そんな城のような貝商亭に隣接する街道沿いの薔薇園が、春から秋までは野天のレストランとなる。

街道からは鉄の門をくぐって入る。

そこに立っている給仕の男性が、「お待ちしておりました、どうぞ」と丁寧に席まで案内した。

薔薇園の庭は、至るところにテーブルが設置されていた。

噴水の周りには何十かの二人がけのテーブル、薔薇の垣根沿いには大人数で座れる大きなテーブルがある。

大人数のテーブルといえど、大衆食堂のような下世話なものではない。

闇夜でも眩しく感じる程の白いテーブルクロスに、薔薇の一輪挿しが飾られている上品なものであった。

ヒーナ達は薔薇の垣根の向こうは街道というようなテーブルに通された。

垣根には、赤や黄色の薔薇がちらほらと咲く。


全員が席に着くと、早速手洗い用のボウルが置かれ大男の隣に給仕が立ち、飲み物と、これから出す料理の相談をした。


まもなく、ティーカップに入って来た紅茶とホイップ、それに輪切りになった果物が少女の目の前に並んだ。

この、ホイップと、輪切りになった何粒かの色の薄い葡萄や、レモンのような柑橘系の果物は、紅茶に入れろという意味だろう。

他の男達の前には、白い葡萄酒の入ったグラスが並んだ。

一行が飲み物に口を付けてすぐ、オマール海老のチーズ焼きが運ばれてきた。

それを皮切りに、続々と真っ白なテーブルクロスの上に、色とりどりの豪華な料理が並ぶ。

ホタテの貝柱のスープ、ムール貝のパエリア、鶏肉の海鮮餡掛け煮、鰯のパイといった、海のもの使った料理ばかりである。


ヒーナが案外気に入ったのは、鰯のパイであった。

ナイフで切って自分の皿に入れた時は、見た目があまり綺麗じゃない為に、もう少し少な目に取ったらよかったかもとま考えたが、口に入れるとそんな小さな後悔は吹き飛んだ。

ちょうどいい塩気に鰯のまろやかな(あぶら)とパイ生地の芳ばしい食感が絶妙に合っていて、思わず目を剥いて唸ってしまった。

このパイと貝柱のスープだけで十分だと思ったが、食事の最後にはプリンまで出てきて、少女は大満足であった。


プリンをつついている時、

「キャー!」

という、女性の短い悲鳴が聞こえた。

思わず目をやると、噴水の側のテーブルに、暑さにも関わらず紫マントを羽織った男が三人、食事中の若い男女にからんでいた。

ここからではその会話は聞こえないが、座っている若い女性の体を、二人がかりでベタベタと触っている。

女性は、身をよじってそれを嫌がり、短い悲鳴を上げていた。


その様子を横目で確認した大男が、

「ヒーナ様」

と、目がくぎ付けになっている少女に声をかける。

「ここの料理はいかがでしたか?」


神経が別の所にいっていて不機嫌な顔をしていたヒーナは、咄嗟にその顔のまま、

「とても美味しかったわ」

と答えた。

すると大男は、不満そうに、

「ジュノー」

と青年を呼んで言う。

「せっかくの豪華な料理だったが、ヒーナ様は不機嫌だ。料理は美味しかったとお答えになったが、それ以外にご不満な原因は分かるか?」


青年はうなずき、

「えぇ。まずは店の者に確認しましょう」

と答え、近くにいた給仕の男性をつかまえた。

事情を察してか、彼は「すいません」と丁寧に謝り、それ以上は何も言わない。

「奴等はそんなに偉いのか?」

とたずねると、

「今噂の黒蝶騎士団です…」

と答えた。


呆気に取られる一行や迷惑そうな周囲の視線など気にも留めないで、紫マントの男達はなおも女にちょっかいを出していた。

「庶民の分際でこんな高級店に何しに来たのだぁ~?!」

いやらしい笑みを浮かべて大声でそう叫ぶ。


「彼女に結婚を申し込もうと…」

カップルの男が正直に答えると、大事そうに手に持っていた小箱を、騎士団一人が取り上げる。

そしておもむろに箱を開けると、

「なんだ、鼈甲の櫛かよ?」

と中身を見て笑った。


「宝石の一つでも買ってやったらどうだ?」

「俺達が買ってやるから、ホテルの部屋に来ないか?」

「この女には、俺達の相手の方が在ってるんじゃないか?」

などと騎士の三人は、下品な笑みで女の肩を抱いたり、髪の匂いを嗅いだりしていた。


「止めて下さい!」

「プレゼントを返して下さい!」

悲鳴を上げて拒絶する女と、手を伸ばして箱を取り返そうとする男に、気を悪くした騎士団は箱から櫛を出して噴水に投げ捨てた。

「こんな物しか買えない男の何がいいのだ!」


「何をする!」

思わず立ち上がったってそう叫ぶ男を、側にいた紫マントが殴り飛ばす。


「おい、貴様ら何のつもりだ!」

怒鳴り声に、

「あぁん?!」

と態度悪く振り返ると、そこにはカッターシャツに綿のズボンをはいた、茶髪碧眼の、いかにも好青年が立っていた。

ジュノーである。


「我らは警察活動をしている黒蝶騎士団だ。男女の罪人を探索しているのだ。わかったら向こうへ行け!」

すごむ紫マントに怯みもしないで好青年は、

「これが警ら活動だと言えるか!」

と怒鳴り返した。

少し面食らったが、紫マントは、

「我々はこういうやり方なのだ!」

と、怒鳴りながら殴りかかる。


ジュノーは、横に飛び退いてあっさりとそれを避けると、突き出された腕を掴んで背後へ回り捻り上げた。

痛みに悲鳴を上げる紫マントを、噴水の方へ向かせて、

「警察活動とはこうするんだ!」

と言ってから噴水の中に叩き出した。


「我らを黒蝶騎士団と知っての行為か!」

女をなぶっていた残りの二人は、色めき立って剣を引き抜いた。


「おいおい、こっちは丸腰なんだぞ?」

ジュノーはそう苦笑いした。

暴力沙汰になった時に誤解されないよう、短剣はテーブルに置いてきている。

紫マント二人の突きと払いをかわしながら、ジュノーは少し焦っていた。

周囲で見守っていた人々も、悲鳴を上げて避難する。


テーブルに飛び乗り、噴水の縁に飛び移って剣撃を避けながら、途中、噴水の中で右腕を押さえながら立ち上がって来た馬鹿の頭を蹴り飛ばし、縁に倒れ込んだ上を通って噴水を一周する。

追って来る紫マントは大きくない噴水を二手に別れて挟み撃ちしようと回り込んだ。

と、一人の紫マントの身体がふわりと宙に浮いた。

「ジュノー、派手にやり過ぎた!」

そう声を荒げながら紫マントを噴水へ放り投げたのは、大男ブリュノであった。

派手な水飛沫に、思わずそちらを見た紫マントの最後の一人は怯んでしまった。

その隙をついて、間抜けな顎へ蹴りを食らわせたジュノーは、

「すいません…」

と謝った。

そして、噴水の中に飛び込むと、櫛を拾って殴られた男に渡す。

「大切な食事の時間を荒らしてしまってすまない…」


「…な、何を言いますか!助けて頂きありがとうございます!」

男が恐縮して礼を言うと、にわかに周囲から拍手が起こる。


ヒーナ達は慌ててレストランを後にした。


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