第九話 魔法使い レイル
グリーンマンティスの攻撃を躱しつつ、的確に胴体へ一撃を入れていく。
リリカも同様に攻撃する。
とは言っても数が多い以上迂闊に攻めることは出来ない。
様子見をしつつ着実に攻めていく。
「うっ!」
リリカが声を漏らす。
剣を握る右腕の上腕に大きくは無いが、切り傷が出来ていた。
「調子に……乗るなぁ!」
再び攻撃しようとしてきたグリーンマンティスを袈裟がけにした。
真っ二つになったグリーマンティスはそのまま地面へ落ち、消える。
後退しつつ戦ってはいるが、いつ背後を取られるか分からない面倒な状況。
この通路が余り広くないためグリーンマンティスが何十匹も同時に襲ってくることは無いが次から次へと雪崩れ込む様に襲い掛かってくるため、休む暇など一時も無い。
このまま後退しつつ戦っていればいずれグリーンマンティス達の猛攻が収まるかもしれないが、私はともかくリリカが持つか分からない。
先程からリリカの呼吸が乱れている。
私は全く乱れていないが、このままだとリリカが油断している隙に攻撃が直撃する可能性がある。
先程も腕に軽い一撃を受けている。
これ以上の長期戦が望ましくないことは明白だった。
「リリカ。私の後ろに」
「はぁ……はぁ……。リセは……どうするのよ……」
「私はまだ疲れていないから背後に回ろうとしてきたグリーンマンティスの処理だけお願い」
私はリリカの前に立ち、襲い掛かるグリーンマンティス達へ攻撃する。
リリカが持っているショートソードとは違いリーチが短い分何匹か背後に回ろうとしてくるが、それをリリカが斬り伏せる。
私の負担は増えたが、リリカの負担は減った。
これでまだある程度持ちこたえることは出来るが、このままでは埒が明かない。
通路の壁として覆い茂る高い草を斬って別の道に行くか?……いや、ダメだ。そんな事をしていればあいつらの攻撃が当たってしまう。
そう考えている間にもグリーンマンティス達の攻撃は続く。
「どうするよーリリカちゃん?」
「どうするも何も……くっ!」
私がよそ見している間に背後に回りこんだグリーンマンティスがリリカを攻撃するが、ガードして反撃し、グリーンマンティスを切り裂く。
「余所見するなっての!」
「ごめんごめ……ん?」
背後へ余所見をしていたその時、後ろのほうから人影が見える。
一瞬あの兵士たちかと思ったが、そうではなかった。
リリカより10cm位身長が高く見える女性が、とても大きな木の杖を持って此方に身構えていた。
「そこのお二方!危ないので避けて下さい!……燃える矢よ、敵を射れ!フレイムアロー!」
彼女が詠唱を終えると杖の先から矢の形状をした炎が生み出され、此方に向けて射出された。
私達は飛んでくる炎の矢をしゃがんで避ける。
頭上を通過していった炎の矢はグリーンマンティスの体を貫通し、通路に居たグリーンマンティスのほとんどが消えた。
そして残っているグリーンマンティスは急な自体に怖気づいたのか私たちから逃げていった。
何とかなったか……。
「大丈夫ですかっ!」
体に見合わない杖を抱えながら此方を心配そうに見てきた。
「私は大丈夫だけど、リリカが少し怪我をしちゃってね」
「これくらい大丈夫よ」
「いえ、何かあってからでは遅いですよ!すぐ治しますから!……大地の恵みよ、祝福を!リカバリ!」
彼女がまた詠唱をすると、みるみるうちにリリカの傷が治っていく。
その様子は逆再生を見ているかのようだった。
リリカもその様子が不思議だったのか、治った箇所を触っている。
「魔法って凄いわね……」
あのリリカが素直にほめている。
初めて見たよ……こんな素直なリリカ。
「そんなことないですよ!あれだけの数を相手に魔法無しで戦うお二人のほうが凄いです!」
「いや、そんな事無いわよ。正直あんたが居なかったら私達は今頃やられてたかもしれないし」
「何を言ってるんだ。リリカちゃんは危なそうだったけど私はまだまだ余裕だったよ?」
「うっさい!というかちゃん付けするなって言ってるでしょ!」
「あら~。お二人とも仲がいいんですね!」
彼女はリリカを見てニコニコと笑う。
「どこをどう見たら仲良く見えるのよ!」
「全部でしょ」
「リセが言うな!」
プンスカ怒るリリカを見て彼女は笑う。
「ごめんごめん。……っとそういえばまだ自己紹介してなかったね。私はリセ・フランチェスカ。こっちはリリカ・メルベル」
「リセちゃんにリリカちゃんですね!私はレイル・セヴァニアって言います!」
「勝手に私の自己紹介するな!しかも初対面でちゃん付けするのやめなさいよ!」
「あはは!リリカちゃん可愛いですね!」
「そうなんですよ!レイルさん分かってますね!」
「勝手に意気投合するなあああ!」
地団駄を踏むリリカを他所にレイルさんと私はお互いに手を取り合う。
この人は分かってる。そして同士だと言うことも分かった。
「まあ、此処に居ても難ですから一旦戻りませんか?」
「ですね!私もその意見に賛成です!」
「そうね。またいつ襲われるか分からないし、戻りましょ」
私たち三人はこの分かれ道の入り口まで歩いていった。
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