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第六話 一日の終わり

「ずいぶんと遅かったな」


 家に入ると、フラウさんが机に頬杖をつきながらなにやら手紙を読んでいた。


「ちょっとリリカが可愛かったもので」


「っ~~~!」


 リリカは顔を真っ赤にして俯く。


 リリカの肌はとても柔らかく気持ちが良かった。


 セリアさんと違って胸は全然無いが、それでもしっかりとした感触はあった。


「リリカさんとても大きな声であえ―――」


「そ、それ以上言うなーー!」


 リリカはセリアさんの腰をポカポカと叩いている。


 いやぁ、悶えるリリカは可愛かったなぁ!


「……?それよりリセ。残念な報告だ」


「残念な報告?」


 はぁ、とフラウさんは大きなため息をついた。


「お前も既に知っていると思うがエルフの誘拐は違法だ。だから普通とは違う奴隷商人……裏商人って言うんだが、そいつに売らないといけないんだ。だが……その商人が消えた」


「……消えた?」


 消えた、とはどういう意味だろうか?


「ああ、その商人から手紙が来ていてな。しばらく旅に出るらしい。別の裏商人を知らないからどうしようもないってことだ」


「……なるほど」


 またこれは随分と急な話だな……。私としてはどちらでも良いが、フラウさんとしてはお金が入らないのは痛手なのだろう。


「あら、では私はどうすれば良いのでしょうか?」


 セリアさんは首を傾げる。


 ふわふわしたその動作が結構可愛い。


「セリア。お前は自由にすればいい。売るところが無くなった以上ここから出て行っても良いし、ここに住んで貰っても構わない。ただ、住むならそれなりの働きはしてもらうがな」


「分かりました。ではお手伝いさせて頂きますのでご一緒しても大丈夫ですか?」


「ああ。構わない」


 セリアさんは同居の承諾を貰いニッコリと笑顔を見せる。


 それとは正反対にリリカは不安な表情で私の服の裾をギュッと握り締めている。


 エルフ『は』売れなくなった。だが、人間であるリリカは奴隷として売ることは出来る。


 不安の中、無意識なのか分からないが私の服を掴んできた。


 よっぽど怖いんだろうな……。そういう所も可愛いけど。


「フラウさん。申し訳ないんですけどお願いがあります」


「なんだ?」


 私は思い切って言うことにした。


「リリカを、この子を奴隷商に売らないで私に売ってくれませんか?」


「……え?」


 私の言葉を想像していなかったのかリリカはキョトンとする。


 リリカが否定しなかったところを見ると、私のことは嫌いではないのかな?


「……なんだ。お前そういう趣味があったなら早く言え。別に構わんしそのままお前にやろう」


「え、いいんですか?」


 私もキョトンとしてしまった。


 リリカも状況が飲み込めないのか、あたふたしている。


 フラウさんにお金は結局入らなくなるけどいいのかな?本人が良いって言ってる以上大丈夫なんだろうけど……。


「随分とあっさりですね」


「実際そこまで金に困っている訳ではない。それに人の趣味をとやかく言うつもりも無いからな」


 いや、そんな趣味は無い……はず。というか、お金に困ってないなら何でこの人は誘拐なんてしてるんだろうか……。


 まあ、どうせ聞いたところで大した返答は返って来ないと思うけど。


 フラウさんだし。


「……フラウさんってよく分からない人ですね」


「分からなくても問題は無いだろう」


「ま、それもそうですね」


 リリカは安心したのか、その場にへたり込む。


「大丈夫?」


「……ぁ、ありがと」


 震えた小さな声はしっかりと私の耳に届いた。


 やっぱり素直なリリカは可愛い。


「そういえばセリアさんはフラウさんのことを知っているみたいですけど、どういう関係なんです?」


「関係は特に無い。ただセリアに名乗られて私も自己紹介をしたまでだ」


「自ら名乗ったんですか?」


「ああ、その通りだ。ちなみにセリアはエルフの姫でもある」


「えっ」


 エルフの姫という事はエルフのお偉いさんということですよね。


 そんな人を誘拐してくるとはフラウさんは一体なにを考えているんだろうか。


 確かにセリアさんはこの世のものとは思えないくらい美人だが、お金のためとはいえ流石にリスクが大きすぎるような気がする。


「何故そんな危険なことを?」


「私がエルフを誘拐しようとしたら奴隷でも何でもいいから外の世界を見たいとセリアに頼まれてな。手間が省けてちょうど良かったんだ」


「そういうことなんです」


 二人とも真面目に話してくれるのは非常にありがたいが、どう考えても頭のネジが数本抜けているとしか思えない。


 この人達になに聞いてもまともな返答が帰って来ないと言う事が分かった。


 今後の生活大丈夫かな……。


「り、理由は何と無く分かりました」


「それならいいが、お前は水浴びしないのか?」


「フラウさんは浴びたんですか?」


「お前がさっき二人を洗っている最中にな」


 言われてよく見てみるとフラウさんの髪はほんのりと湿っていた。


 セミロングの赤髪が艶めかしく見える。


「じゃあ私も失礼して……って、あれ?」


「どうした?」


 浴室があるほうへ行こうとしたが、身体に違和感を感じた。


 自分の身体が何一つ汚れていないことに気づく。


 おかしい。あれだけ走っておいて汗ひとつかかないのも変だと思っていたが、この服を着ていると風呂上りで綺麗になったような感覚を感じる。


 もしかするとこの服は血の汚れだけでなく、身体の汚れまで綺麗にしてくれるのか?


 腰まであるロングへアーもサラサラのまま。恐らくこの服には触れたものを綺麗にする効果があるのだろう。


 あの神様も意外と粋な計らいをしてくれてものだ。


「この服に清潔を保つ効果があるみたいなので入らなくても大丈夫みたいです」


「……確かに汚れは全く見えないな。魔法の類か何かだろうが大丈夫なら問題ない。お前の寝室は浴室の隣の部屋だから寝るときはそこの部屋で寝てくれ」


「了解しましたよっと……じゃあリリカちゃん一緒に寝ようか」


「……しょ、しょうがないわね」


 私が手を差し伸べると、リリカは顔をそっぽに向けてはいるが手を取ってくれた。


「あれ、もしかしてリリカちゃんデレ期なの?」


「そ、そ、そんな訳ないでしょー!!」


 リリカは顔を真っ赤にしながら私の手を振り払って一人で寝室に入っていった。


 凄いテンプレなツンデレだけど、こういうのも可愛いものだね。


 やれやれ、と思いつつも私も寝室へと入っていった。



――――――




 部屋の中に入ると、ベッドの布団が膨らんでいる。リリカが布団の中でうずくまっているのだろう。


「さてと、私も入るよ?」


 盛り上がった布団をめくるとリリカが顔を赤らめてそっぽへ向いた。


 私と目を合わせないようにするのが癖にでもなったのかな?


 そんな事は気にせず私もベッドの上に横になり、布団をかぶる。


 肌寒いのと、草木がまだ青いところを見ると今の季節は春だろう。まだ布団が無いと少し寒い。


 私は隣に居るリリカを抱きしめた。


 リリカも急なことで驚いたのかピクッと反応したが、抵抗する様子は無い。


「……ありがとね」


「ん、何?」


「あのままあんた……り、リセが言ってくれなかったら私あのフラウって女に売られてた。だからあ、あ、ありがとう……」


 リリカは恥ずかしくなったのか言い終えると同時に布団の中に潜った。


「別に気にしなくてもいいよ。リリカちゃんみたいな子を他の誰かに売るのが嫌だって思っただけだし。というか、私のこと名前で呼んでくれるんだ?」


 そういうと布団の中でリリカがあぅあぅ言っているのが聞こえた。


 あ、ちゃん付けしたのに怒ってない。


「そういえばリリカちゃん。フラウさんの言い方だと多分家には居れるけど、お金の調達は自分でしろって感じだったよ。明日からどうする?」


 そういうとリリカは布団から顔を出した。


 まだ頬がほんのりと赤い。


「……そうね。冒険者登録して依頼を受けたりダンジョンにこもるのがいいと思うわ……ってリセは戦えるの?」


「多分戦えるよ」


 リリカに言われて気づいたが、まともな実戦経験はあの小人を殺したくらいしかない。


 何と無くだが、あのナイフがあればそんなに戦闘は危惧しなくていいと感じることができる。


「それで冒険者登録って何?」


「冒険者登録も分からないの?」


 リリカは当たり前のことを聞かれて怪訝な表情で私を見つめた。


「いやごめんね。実は記憶が無くてほとんど何も分からないんだ。それで途方に暮れていた時にフラウさんに拾われたんだよ」


「へぇ……そうなの。なら説明してあげる」


 リリカのこういう素直なところは本当に可愛いと思う。


「冒険者登録って言うのは各町にあるギルドに登録することで冒険者になれるの。冒険者になればダンジョンに入って金稼ぎもできたりするのよ。ただ、ダンジョンって言うのはモンスターが多く出る場所だから冒険者しか入っちゃいけないのよ」


「冒険者じゃないと入れない?なんで?」


「冒険者として登録する時にその人の能力を測るのよ。その能力以上のダンジョンに行かせないようにするためにね」


 つまり、ダンジョンにレベルがあってそのレベルに達していない冒険者は入る許可が降りないと言うことか。


「なるほどね。リリカは冒険者なの?」


「……違う」


 急にリリカの声が小さくなった。


 何かまずいことでも聞いたのだろうか?


「ごめん。これは言わなくてもいい?」


「言いたくないことは別に言わなくてもいいよ。私もそこまで強制して聞こうとは思わないから」


「……ありがと」


「……ちなみにこの辺りにもダンジョンはあるの?」


 私は少し暗くなった雰囲気を誤魔化すために話題を変えた。


「勿論いくつもあるわ。この家からすぐ近くにある街は王都ベルベリアって言って付近にダンジョンが多い事で有名なのよ」


「じゃあ、明日冒険者になってそのダンジョンに入ればお金は稼げるってこと?」


「多分できるとは思うけど、本当にモンスターが容赦無いらしいから気を付けないといけないわよ」


「ま、言ってみれば分かるさ」


 そう言って私はリリカに思いっきり抱きついた。


「ちょ、ちょっと何するのよ!」


「別に寒いんだからいいでしょ?リリカちゃんも暖かそうだし」


「確かにあったかいけど……って、ちゃん付けするなってば!」


 リリカはふん、といって私と反対のほうへと向いた。


 弄ってると本当に面白いなぁ……。


 私も人肌の温かさを感じているうちに眠たくなってきたためそのまま目を閉じた。


誤字脱字等の指摘、感想などお待ちしています!

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