第四話 少女の威勢
今回は戦闘描写が入っているので細かい指摘があれば是非お願いします!
あれから結構な距離を走ったがこの人は疲れることなく走り続けている。
草木が風になびく音が心地良い。
背後に目を凝らしてみても追手のような者は見当たらないが、あの人が走り続けている以上私も足をとめることはできない。
「追手らしき者はは来てないみたいですね」
「今のところは、な。しかしエルフは高度な魔法を使える以上油断することは出来ない」
この人は走りながら息一つ切らさず私へ返答する。私も息を切らしてはいないが、恐らくこの女の子が強いのではなくあの神様から何かしらの加護を受けていると思われる。実際このくらいの子供が1km以上全速力で走れる訳がない。
「止まれ!」
走っている途中、急に道の横から高めの大きな声が響く。
私とあの人はそこで止まり横へ振り向いた。そこにはいかにも騎士の格好をしている人が此方に剣の切っ先を向け立っていた。
ただ思うことを言わせていただくと小さい。
何処からどう見ても身長が低すぎて子供にしか見えない。
子ども体型の私が言えることではないが、どう見ても150cm程度しか身長がない。
「その肩に担いでるのはエルフでしょ!エルフの誘拐は重罪なんだよ!?」
「ああ、知っている。奴隷商に売りさばく為に誘拐した訳だからな」
「あ、ちょっと!」
いくらなんでも自分から罪状を詳しく説明する必要は無いと思うんですけど。
あの人の言葉で女の子の顔が真っ赤染まっていく。
「そう。じゃあ遠慮なくあんたたちを捕まえて良いわけね!」
激昂した女の子は腰に差した剣を抜いて突進してきた。
「たった一人で何が出来るって言うんだ。ほらっ」
「っと……!」
あの人から投げられたエルフを受け取ると同時に金属がぶつかり合って激しい音が辺り一帯に響く。
女の子の上段から振り下ろされた剣をあの人が短剣で受け止める。
「な、片手!?」
あの人の持つ武器は短剣。短剣で両手に持った剣を受け止めるのは容易い事ではない。それを難なく片手で受け止めたということは女の子の力が弱いか、あの人の力が相当強いかのどちらかだ。
「その程度の力で騎士を名乗るとはずいぶんと修行不足なんじゃないか?」
「う、うるさい!」
女の子は後ろへステップして体勢を整えようとするが、それを逃すことなくあの人が追撃をかける。
剣の方がリーチはあるがその分手数は劣る。懐まで潜り込み素早く短剣の攻撃を打ち出すことで少女は攻撃を止めることだけで精一杯になる。
しかし、勢いに押されて体勢を崩した少女は一瞬の隙を狙われて剣を落とした。
それでも止まない攻撃を篭手で受け止めて苦悶の表情を浮かべる。
少なくとも優勢に立っているのはあの人。
武器を持っていない時点でそれは明白だった。
「悪いけど、そっちから吹っかけてきた喧嘩だ。逃がすつもりは無いよ?」
あの人が言葉を発したと同時にさらに速い速度で女の子の首元を目がけて突きを繰り出す。
いくら速度が速かろうと人間に出せる速度の限界くらい私でも分かっている。少なくとも目に追えない速度で人が動くことなど不可能だ。
しかしこの人は文字通り目で追えない速度で懐へと入り込んだ。女の子も反応しきれなかったのか間一髪でかわすが、首に少し切り傷が付いた。
強いと悟ったのか女の子が剣もう一本の剣を抜いた
先程までは一般的な騎士のような構えをしていたが、今度は突き刺すような構えに変わる。両手で持たずに片手に持ち替えたということは、ガードよりも回避を取ったということだろう。無論力も下がることは明白。
「本気も出さずにやっていたのか?」
「ふん。あんたみたいな罪人に教える必要は無いわ!」
その瞬間、女の子が剣を目にも留まらぬ速度で突き出す。
しかし、あの人はその一撃を難なくかわす。
女の子の一撃はあの人の顔の横を通過した。
「なっ……!」
女の子は躱されたことに衝撃を受けたのか大きな隙が生まれる。
チャンスだ。
私が思うと同時にあの人は動いていた。攻撃が可能な間合いへと入っていたあの人は短剣を振り上げた。
命中か否か、それは直ぐに分かった。
甲高い金属音とともに女の子が持っていた剣が空へと舞い上がり、地面へと突き刺さる。
片手で持っていたこともあるだろうが、あの人の短剣の一撃は凄まじい速度による一撃であったために女の子は剣を手放してしまった。
「うそ、でしょ……?」
同時、女の子の首元にあの人の短剣が突きつけられる。一瞬の出来事でなにが起きたかわからなかったのか動揺している様子を隠せていない。
「悪いがこれ以上時間をかけるわけにはいかないのでね。さっさと消えてもらうよ」
「い、いやッ……!殺さないで!」
先程まであれだけ強気だった女の子は目に涙を浮かべながらあの人に嘆願する。
その様子からは騎士のような雰囲気を全く感じることは無い。言うならば騎士のコスプレをした女の子。
もしここであの人が負けていれば恐らく私もこの女の子に捕まっていたに違いない。そう考えると、この女の子がどうなっても良いと感じた。
実際最初からどうでも良かったといっても間違いではないけど。
あの人は女の子の姿を見て嘲笑する。
「これが騎士の成れの果てか、笑えるな。潔く殺せとでも言ったらどうなんだ?」
「いや、嫌よ!しに、しにた、死にたくなんか無い!」
激しく取り乱す女の子。その下半身から液体が漏れ出している。どうやら恐怖で漏らしたようだ。
「……なら言うことを聞けば生かしてやってもいいぞ?」
「き、聞きます!何でも聞くから殺さないでッ!おね、お願いだから!」
その時あの人が先程とは違う笑みを見せた。
「良いだろう……。拘束」
あの人が呪文らしきものを口にすると、女の子はその場で気絶して倒れこんだ。
うわぁ……。お漏らししてる女の子が気絶して倒れてる光景ってなんかこう、凄い。
「……これ、どうするんですか?」
「どうするも何も縛って奴隷商にうりさばくに決まっている。容姿は見た感じ美しい。これならこういう趣味の奴が買っていくだろう?」
「な、なるほど……」
無表情で喋るあの人は手際よくエルフの女の子と同じ縛り方で女の子を縛り上げた。
「お前、そういえば息も切らさずに走っていたな、そのままそいつを持って走れ」
「え、ちょっと……!」
私の返答を聞く事無く、あの人は女の子を持ち上げて走り出す。
あ、そういえばまた名前聞くのを忘れちゃってた。
「ちょ、待ってくださいよー!」
考えてる間にちょっと距離が開いてしまった私は慌ててあの人を追いかけて行く。
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