第三話 誘拐
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「ん~、まだかなぁ……」
あの人が森に戻っていってから約1時間近く経ったと思う。私の中でのすぐ戻るの定義は10分にも満たない時間を意識していたのだが、あの人にとってのすぐ戻るの時間はいつなのだろうか。ここまで認識の違いがあるとは思わなかった。
「すまない。大分遅くなってしまった」
声のほうへ振り返るとあの人が肩に女性を抱えていた。
抱えられているその女性の手足は縄で縛られており、目と口を布で塞がれている。抵抗する様子が無いところを見ると気絶している様子。よく見える訳ではないがまだ10代後半位の顔立ちで、体のスタイルも良く、誰が見ても美しいと思う女性だった。
「その人は誰?」
「誰って、見て分かるだろう?エルフだ」
今この人はなんて言った?
いや、聞き間違いだろう。
「すみません。よく聞こえなかったのでもう一回聞いてもいいですか?」
「だからエルフだと言っているだろ」
あれ、私の記憶がおかしいのかな?
確かここはエルフの森で、人間が勝手に立ち入ってはいけない場所で。ここまでは間違いないはず。
エルフを人間が拉致していい場所じゃないよね?
この人の表情は疑問で埋め尽くされているが、正直その顔は私がしたい。
「えっと……。何してるんです?」
「見て分かるだろう?エルフを攫ってきたんだ」
「それって……。違法とかじゃないんですか?」
「もちろん違法に決まってるだろう」
この人はとんでもない事を表情を変えることも無くさらっと言った。
この人が言ってることが間違いでなければこれはどう考えても犯罪に巻き込まれてますよね、私。
「え、あの。私にそういうことバラしちゃっていいんですか?」
「バラすも何も、森に入っている時点でいかなる理由があろうと死刑は確定しているんだから関係ないだろう?」
「えっ」
ということは私は既に罪人で、しかも死刑が確定してる。
あの適当な神様のせいで知らない土地に中途半端な記憶だけ持ってる状態で死刑囚にされたって事?
いくらなんでも横暴すぎる。
私は言葉を出せずに落胆してしまった。
「ああ、そうか。記憶が無いんだったな。まあ、私も記憶が無い人間を放って置くほど冷たい人間ではない。お前さえ良ければ私の家に来るか?」
「え……」
前世の記憶以外何も持ち合わせていない私からしてみれば願っても無い好条件の提示だが、本当にこの人についていって大丈夫だろうか?
不安な点は幾つかある。
お互いに犯罪者である以上いつ裏切られるか分からないということ。
信用できる点が無いところ。
他にも色々あるがどうするべきか。
「迷う必要はあるのか?お前は記憶が無い。このままではいつ処刑されるか分からないぞ?それに私が今エルフを誘拐してきたという事は、いずれ追っ手が来る」
「え、ちょっと!なんてことしてくれるんですか!」
「何も言わずにここから立ち去って誰かに捕まるよりはマシだろう?」
「それは……そうですけど。それより、そのエルフの子はどうするんですか?」
「どうするも何も、奴隷商に売る」
「……はあ、なるほど」
聞くまでも無い返答が帰ってきた。
エルフの扱いって大体奴隷とか、そういう類の扱いされてるイメージがある。この人はこういう事して罪悪感を全く感じないのだろうか。そう思っている私も何故か全く罪悪感を感じることは無い。
恐らくあの神様が何かをしたと見て間違いない。
「分かりました。ついて行きますけど、殺そうとか考えないでくださいよ?ましてやそこのエルフちゃんみたいに奴隷商に売るとか……」
「しないから安心しろ。私一人の生活より二人居た方が食費は掛かるがその他の行動は楽になるだろうしな」
私の会話を遮断してきっぱりと言った。
要するに雑用係が欲しかったというところか。
今私が生きていくにはこの人についていくという選択肢以外何も無い。ならばその選択肢を選択するしかない。
「まあいい、私の家は町から外れた場所にある。走っていくぞ」
「分かりましたよーっと」
エルフを抱えながら走るあの人の背を見ながら走る。
思ったより身軽に動けた。
前は太っていたから余計体が軽く感じる。
そういえばあの人の名前まだ聞いてなかったな。
そんな事を考えつつ足早にエルフの森から立ち去っていった。
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