突然の悲劇(グロ注意!)
「着いた……」
私は、息がきれてしまい、フラフラだ。
セットに入ろうとしたその時だ。
「霞、ちょっと来てくれるかな?」
後ろから呼び止められる。私が振り向くと、そこに居たのは、柔らかく微笑む一斗であった。
「うっ、うん」
私は、一斗の後に着いて行く。
光は、居ないようだ。(実は居たのだが、葵には見えなかった)
二人は、静かで人の居ないセットの裏へ来た。
「ここなんだけどねーーーー」
一斗は、丁寧に台本の変更点を教えてくれた。
この様子だと、私は会議に遅れたようだ。
8:00以来、時計確認してなかったな……。
どちらにしろ、教えてもらえば同じだ。
一斗は、優しい微笑みのままである。
私は、その一斗に不審を感じた。
彼は利き手である右手を体の後ろに隠し、左手でぎこちなく教えるのだ。
「右手どうしたの?」
私は、自然に聞いた。特になにも考えずに。
すると、彼はビクッとなり、沈黙する。
そして、私から目を逸らして言ったのだ。
「ごめん、霞!」
彼は、私の前に右手を突き出した。
その右手に握られていたモノ……それは、ナイフであった。
綺麗な細工がされていて、市販のナイフとは思えない。
私は、ドラマの小物かと思い、
「凄いナイフだねぇ」
と、笑いながら言った。
だが、私の考えは当たってはいなかった。
彼は、私にナイフを突き刺そうとしたのだ。
私は、とっさに右手に持っていた鉛筆を、一斗の足に刺した。
何も考えていなかった。
「うっ……!?」
彼の動きは、ピタッと止まったかと思うと、私によりかかるようにして倒れた。
私の鉛筆が刺した部分からは、赤黒い血がボタボタと滴り落ちている。
鉛筆を伝って葵の手に血がつく。
「きゃっ!!」
葵は、鉛筆から手を離し、後ずさりした。
息は乱れ、頭の中は真っ白である。
分かる事は、私が彼の右足を刺したと言う事のみである。
「霞、待っ……て」
彼が、刺された右足を抑えながら、私を呼び止める。
私は、それを無視してその場から、立ち去った。
「正当防衛」
と言う言葉を、ただただ繰り返しながら。