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些細な嘘から始まった  作者: 紗倉 悠里
第二章 〈現在と狂い〉
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偽物と、偽善

セットに到着する。さあ、ドラマの開始だ。霞と一斗は、撮影開始の時間が来ても舞台にいなかったため、清水が探しに行ったらしい。慌てていたスタッフから、そう聞いた。

そして、また問題が発生してしまった。それは、葵の演技能力だ。

霞は、若手人気女優。葵にそんな事が出来るのか?

分からない。ただ、がむしゃらに演る(やる)しかないのだ。



一斗は、緊張していた。

「開始する!」

監督の大きな声が、セット中に響き渡る。

周りは、シーンとしている。

意外にも、順調に進んだ。

ドラマ撮影も、半ばまで撮れた。

さぁ、あの殺陣(たて)のシーンだ。

「ヤアッッッ」「トォォッッ!」

二人の殺陣シーンは、迫力があった。

手には汗を握り、竹刀(しない)が手から滑り落ちそうになる。

前にいる霞は、いつもよりぎこちなく、危なっかしい。だが、楽しかった。

まるで、本当に此方に牙を向いているようで、迫力があった。

こんなに演技で緊張したのは何年ぶりであろうか。

一斗はそう考えていた。





同じく葵も緊張していた。

前には、人気俳優である鈴木一斗。

周りには、プロの監督。テキパキ働くスタッフ達。

とにかく、一所懸命だった。周りも、私も。

私は、台本をチラリと見たのみ。

これで上手くいったのは、もしかしたら私に演技の才能が!? ……じゃなくて、私はほぼアドリブ、一斗はそれに合わせてくれているから上手く進んだのだ。

因みに、アドリブがだめと言われた時は、霞の美貌を利用し、ごねた。(良い子はしちゃいけないことだけどね)

一斗は流石、プロだ。私とは違う。台本通りに進めていく。私のアドリブでずれても、いつの間にか台本通りに戻してくれる。


私は緊張と共に、殺陣シーンへ突入した。

一斗の目つきが一瞬にして変わった。

まるで、此方に牙を向いているようだ。

あぁ、これがプロ。演技に入り込める。

私も、演ってやろうじゃないか。復讐の為に!

「ヤァッッ!」

葵は、一斗に竹刀を叩きつける。

一斗は、唸るとその場に倒れた。

「…………」

その場は、沈黙した。

誰も喋らない。

一斗も立ち上がらない。

(私は、一斗を殺めてしまったの?)

葵は、焦った。

「カァッート」

監督の明るい声がセット中に響き渡る。

周りの空気が一気に緩む。

一斗は、のっそり立ち上がった。

「いやー、霞は凄いなー」

一斗は、ニコリと笑いながら言う。

その偽善の笑顔のなか、一つの考えが浮かんだ。

ーーーー霞は、きっと記憶喪失をしたのだろう。頭をうち、川に棄てられたのだから、記憶喪失をしても、おかしくない。医療関係には疎い一斗は、そう考えた。

ならば、もし……霞がこれを思い出したら?

いつの間にか、一斗は険悪な表情になっていた。

「どうしたの?」

猫なで声のぎこちない霞が言う。彼女の青い髪が、さらさらと揺れる。

「いや、なんでもない」

また、笑顔を造る。

だが、裏は真っ黒。笑顔なんてあるわけがない。

あの、優しい一斗はもういない。

ーー霞をコロサナキャ(生かしてはいけない)……


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