つまらなく狂っちゃって
葵は、
「世間のせいで、母さんは……」
なんて、物事を悲観的に見て悲しみに浸りながら、下校していた。
彼女の母には、自分の犯した過ちによって世間からの否定を浴び、自殺してしまっていた。それに、彼女に父はすでにいなかった。
死んでしまったのではない。 葵を捨てて、何処かに消えていったのだ。
この話は、また後でゆっくり話そう。
白虎橋を通り抜けると、その先が家である。
「なんか、面白い事かないかな」
そんな事をぼんやりと考え、橋の手前の路地まで来た時だ。
「ボチャン……」
大きな魚が跳ねたかのような音がした。
あぁ、魚が跳ねたのか。と思いたいが、この川に魚は居ない。いたとしても、めだかぐらいであろう。めだかはこんな音を出すはずがない。
とにかく、川がこんな音をたてるはずがないのだ。
葵はあいにく面白い事を求めていた事もあり、不思議にも思いながら、白虎橋の方まで走った。
「…………!?」
白虎橋に着き、葵は言葉を失った。
そこには……人気女優の如月 霞が沈んでいたのである。
岩につっかえているので、よく見えた。でも、角度によっては見えなくなっていた。
ここにいる霞。葵は、彼女が嫌いだった。世間に寄り添い、いつも笑ってる霞が。
その恨みに恨んだ人気女優が、今 ここに沈んでいるのだ。
「面白いな」
そう思った時だ。
「ドンッ!」
葵の肩に誰かがぶつかった。
誰かは、謝りもせず、無視して歩いて行った。
私は、謝らない相手にムカついたから、相手に向かって舌打ちしてやった。
ッチ!
「あの後ろ姿は、俳優の一斗……?」
舌打ちした後に葵は、呟いた。
やはり、世間は冷たいモノだ。
あんなにテレビで人に気を使っている優しい一斗でも、プライベートでは、謝りもしないのだ。
私は、民間人だ!……とつまらない事を心で怒鳴った。
「さて、どうしようか」
一斗の背中が見えなくなると、霞を見ながらつぶやいた。
(とりあえず、引き上げよう)
岩に引っかかっていたこともあり、引き上げることは出来そうだ。
周りの目を確認する。大丈夫、誰も居ない。人気のない橋で良かった。
そして、引きずるように岸辺に引っ張る。
重い。筋肉が完全に起動していない時は、正常な時よりも重くなる。それに加え、水の重さもあった。
葵は、霞を陸に置くと、じっくり考えた。
ーー警察に届けようか……
葵は、ふと水面に映った自分の顔を見た。
その顔は、霞とそっくりだった。
違うところといえば、霞の口元にある小さなホクロくらいだ。
まるで、姉妹のようである。
何故今までこんなに面白い事に気づかなかったのであろう。
葵の頭を一つの考えがよぎった。
ーー霞に成りすまし、世間に復讐だ。
葵は、走り出した。霞の身体を置いたまま。
葵にとっては面白い計画だった。だが、それが葵の運命を黒く、そして尚更醜くする計画だった。
そして、葵が家に帰ったあと、白虎橋を1人の男が通った。だが、そこには俳優の女の姿もなにも、残ってはいなかった。