終わり、そして楽しみへと。
「本当に、 意地悪ねぇ、貴方は」
「なにをいうんです、 日子。 わたしは、日子のいる場所を教えたじゃないか。 それに、私に協力したお前も、意地悪じゃないか」
「私は、病院にいたわ。 手紙を順に部屋において行きながら。 途中でばれそうになったけれど、良かったわ。 乙が居て」
「結局、あいつに任せたんですか」
「えぇ、彼は嬉しそうに葵を追いかけて行ったわ」
「それは良かったな」
葵が清水に殺られたころ、日子と、寿樹は家で話していた。
すべては、終わった。 邪魔者も消えた。 いま、いるのは、日子と寿樹だけだった。 赤坂もしんだ、紫音もしんだ。
やっと、きたのだ。 この日が。
「そろそろかしら?」
「あぁ」
寿樹は、ポケットからボタンのようなものを取り出した。
そこには、「世界が終わるボタン」と、汚い字でかかれていた。
このボタンは、ある四人が作り出したものだった。雄一、紫音、日子、寿樹が高校生の頃の話だ。
ある休み時間。
雄一がいったのだ。
「なぁ、面白いもの作ろうぜ?」
彼はそういったものの、作りたいものは、特に決まっていなかった。すると、彼の親友だった寿樹はこういったのだ。
「そうだな、作るか。 世界を終わらせるボタンとか、どうだ?」
雄一は、驚いた。そして、初めて親友に恐怖を覚えた。なにをいっているんだ、この親友は。
だけど、日子はいった。
「それ、いいわね。 でも、できるの? そんなことが」
日子は、肯定してしまったのだ。
「あぁ、出来るんだよ。 この頃、いいものを見つけてね」
そういい、寿樹が取り出したものは、「台本」と書かれた無地のノートだったのだ。
「なに、これ? 」
「台本だよ。 この本に未来を書き込むと、思った通りに未来が動くらしい」
そういいながら、寿樹は試しにノートに「一時に、 先生の頭にりんごが降ってくる」とかいた。一時まで、あと二分。
二分後。 教室の中だから、りんごが突然降ってくるなんて、ありえなかった。だけど、先生の頭には落ちてきたのだ、りんごが。
それで、三人は信じこみ、
「なら、ここに書いていけば、世界を終わらせるボタンも作れるのか」
と喜んだ。
だけど、一人の女だけはちがった。
「ねぇ、そんなことしたくないよ。 やめよ?」
そういい、首を傾げる美少女は、紫音だった。この学校一の美少女である紫音は、黒い髪を腰まで伸ばしていて、いかにも純潔であった。
その美少女にそう言われて、雄一の心は揺らいだ。
「そ、そうだな…… やめようぜ?」
すると、日子は不満そうにいった。
「えぇー、始めようっていったの、雄一じゃんか!」
寿樹も、日子に肯定するように頷く。
やばい、村八分にされる。 それが嫌だった雄一は、紫音にこういった。
「大丈夫だ、紫音。 作るだけで、世界を終わらせたりしないから、な?」
笑顔でそういうと、紫音は黙って頷いた。
それで決定したボタン作り。 「台本」を書くのは、一番文章を書くのが上手い日子に決定。費用は金持ちの寿樹が出した。雄一と、紫音は比較的なにもやらなかった。
しかし、順調には進まなかったのだ。四人が25歳になったある日。
紫音が、やはりやめよう、とまたいい出したのだ。 その時には、大部分は出来上がり、あとは押す部分のボタンを作るだけだった。
紫音がやめよう、といい出した理由。それは……寿樹との子供の誕生だった。名前は、霞。
子供ができた紫音は、ボタンを作るのが嫌になったのだ。
だけど、彼女の否定は聞きいれてもらえない。
そして、三年後。
また、紫音には子供ができた。今度は、好きだった雄一との子供、葵だった。
やがて、紫音はおめでた婚で、雄一と結婚した。
二人とも幸せに暮らしていた。 霞は、児童相談所に預かってもらっていたのだ。
二人とも葵を可愛がっていた。そして、葵の14歳の誕生日、紫音は殺された。
雄一は、急いで病院へ運んだ。
検査もしたが、どこも悪いところはない。外傷もなかった。
なぜ、死んだのか、と医者も首をかしげた。
でも、雄一はわかってしまった。 これは、「台本」の力であると。
雄一は、葵は適当な施設に放り込むと、日子と寿樹に協力することを決意した。自分は、殺されたくなかったのだ。最愛の人が殺されたとしても。
「協力させてくれ」
二人にそういうと、すぐに迎え入れてくれた。でも、協力しなくとも、ボタンは仕上がっていた。
やがて、日子と寿樹も結婚していたことを知った。そして、二人の子供は、光という男の子だったということも知った。葵と、同い年だった。
いつか、巡り会うかもしれない。 雄一はそう思っていた。
しばらくしたある日。
雄一は、霞のことを思い出した。散々迷ったが、会うことにきめた。児童相談所へいく。すると、 霞は、一人で何処かへ行ってしまっていたのだ。どこへいったのか、分からないままだった。
雄一は、悲しかった。だけど、自然と涙は出なかった。霞がいなくなったことも、日子の台本なのだろうか、と虚しくなったからだ。この木のざわめきも、虫の鳴き声も、すべては日子の台本の中なのだ。
そして、二年後。雄一は高校の教師となった。ある日、テレビをぼぅっとみていた時だ。
「はーいはーい、如月霞でーす!」
笑顔の女が、画面にアップで映る。 あの目の下の黒子……見覚えがあった。彼女が、白咲 霞だったのだ。
雄一は、嬉しかった。 彼女が生きていて、誰かと一緒に過ごしていたことがわかったことが。
そして、葵のことも思い出す。霞のことで有頂天になった雄一は、適当に選んでいた施設へ向かう。 が、そこはつぶれていた。ちゃんと選んでいなかったのがいけなかったのだ。また、絶望した。葵が、どこにいるか分からないのだ。彼は、葵のことは諦めた。
霞さえ、居たらいい。
そして、一年後。 ある女の子が自分の勤務している丸菜学園にくることがわかったのだ。彼女の名前は、如月 葵だった。 霞と、同じところにいたのだ。
そして、彼女の入学式。 雄一は、葵に手紙と鍵を渡したのだ。 「この住所へ行くように」と。自分がやったとは言いたくなかったから、ある人からの伝言だ、と言って置いた。彼女は、きっと雄一の言う通りにしたのだろう。 三ヶ月だった頃には、彼女の名前は白咲葵へと変わっていた。
なぜ、白咲に変わったのかは謎だった。
雄一は、わざと葵に冷たい接し方をした。そのうち、彼女は雄一から離れていった。
そして、夏休みになる。雄一の元へ、一人の男がきた。
それは……懐かしき親友、寿樹だった。仕事によって、しばらく会えてなかったのだ。
「久しぶりだなぁ」
積もる話もあり、一時間を軽く、過ぎた。そして、寿樹はいきなりこう言ったのだ。
「そろそろ、ボタンを押したいんだが」
雄一は、頷いた。 そうだな、と。
ここで、雄一は最愛の人ーー紫音に嘘をついてしまったのだ。
それから、今までの物語の通りだ。 江戸物語で霞を殺してから、ボタンを押す計画は始まった。 一斗と、清水、水城を犠牲にしたのは、ほんとうに悪かった。




