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些細な嘘から始まった  作者: 紗倉 悠里
第四章 <最後の終わり。>
15/21

動き出す、世界。

パーティーが、始まった。

空は黒くなり、月が私達を照らしている。

そろそろ10時。私は、眠たい目をこすりながら、パーティー会場にいた。

会場には、人が沢山いた。赤いドレス、青いドレス、黒いスーツ……そして、豊かな色彩を包み込んでいる黄色い壁の会場。

隣には、一斗がいた。霞を殺した人間。そして、私は葵。霞になりきった人間。私達だけは、私服で来ていた。しかし、一斗は普通の俳優はあまり着ない安っぽい服をきていた。なぜだろうか。

私は、赤いワンピース。鈴のところへいってからそのままだからだ。

すると、突然隣にはから声が聞こえた。

「あ、あいつみたことある」

一斗が指差した人物。確か、有名な企業の社長だ。私と一斗の撮影したドラマ【江戸物語】のスポンサーをしてくれた企業である。

そして、その社長と仲良さげに話している男。彼は、日子さんの夫であり、光の父である坂本 寿樹だ。

二人をぼーっとみていると、社長がこちらを向いた。私は、はっと目を逸らす。だけど、その時はもう遅かった。社長は、細くて厳しそうな秘書と共に、私のところへ歩いてきた。

「やぁ、こんにちは。君が如月 霞ちゃんか。きれいだねぇ、ほんとに」

と、いいながら、拍手を求めてきた。あわあわ、私はどうしたらいいのか分からない。だから、そういうのに慣れている一斗に助けを求めようと、手を差し伸べながら隣をちらりとみた。だけど、そこにいるはずの一斗はいなかった。

周りをぐるっと見回す。いなかった。社長がくる前はいたのに。

(逃げやがったな、あの優男)

「はい、ありがとうございます」

にこっと笑いながら、社長に答える。社長はにこにこと笑顔だ。スーツを着込んでいて、見た目は40代くらい。かなり若そう。寿樹さんと同じくらいの歳だろうか。

「いやいや、どういたしまして。 さて、突然で驚くと思うんだが。 ちょっと提案があってね」

「なんですか?」

「それはね、その、うちの息子を君の……」

その時だった。




プツンッッ!


何かが切れたような音がして、パーティー会場は、真っ暗になった。本当に、いきなりだった。

「どうしたのかしら……」「もう! なんなんだ! これは」「落ち着いてください! 落ち着いてください!」

いろんな人の怒りを含んだ声が聞こえる。その他に、使用人の慌てる声もする。

どうしたのだろうか。こんなところで、停電なんてことは……。

すると、私にまた災難が降りかかってきた。頭になにか硬いものがぶつかってきたかと思った瞬間、私の意識はそこで途絶えてしまった。


意識が戻ると、声が聞こえた。

聞き慣れた男の声もする。


……だめだな、こりゃ。

……おい、お前助けてやれよ。

……いや、無理だろう。

……はは、分かってるよ。

……てか、この娘生きてんのか?

……一応、力加減したし、生きてるだろ。

……そうか。じゃあ、この男は?

……ははっ、しらねっ。

「んっ……」

うっすらと目を開けた。

だが、真っ暗で、声は聞こえるが男の姿は見えない。


「どうするんだよ、これから」

「やるしかねーだろ」

「ははっ、情けねぇなぁ。 こいつらの中に、高校生いるんだぜ?」

「お前、そんなこと思ってねーだろ。 お前の教え子がいるってのによ」

「ははっ、別にどうでもいいさ。 こいつらは要らねーし」


この声……赤坂と、寿樹さんだった。


ーーどうして?なんで?何があったの?

私としたことが、酷く混乱してしまった。さっきまではパーティー会場にして、社長さんと話していた。のに……今は、こんな暗い所にいる。しかも、相手が見えない状態で、恐ろしい会話が聞こえる。

何人もを殺してきた私。今から何があるか大体予想はついていた。私は……殺される。きっと、助からない。


だけど、私の体は幸いにも自由だった。男二人は何をおもったか、縛っていないのだ。でも、逃げられない。暗くて、出口も見つからないから。

とりあえず、逃げることはせず、そこら辺に手を伸ばす。すると、もう一人、私と同じ状態の人がいることがわかった。なぜなら、相手の手に私の手が当たったからだ。

「あなた、だれ?」

こそっと小さな声で聞いてみる。男二人は、声の大きさからして、あまり近くにはいないことがわかっていたから、きっと小さな声ならばれない。

「…………」

返答は、返ってこなかった。どうしたのだろう、まだ気絶しているのだろうか。すると、私は異変に気づく。相手の手は、なにかで濡れていたのだ。手を限界まで顔に近づけ、匂いを確認した。少しの鉄の匂い……これは、血だ。

ということは……相手は、出血しているらしい。死んでいるとは確定できないが……否定もできなかった。心に灯ったろうそくの光が、消えた気がした。

「……」

私は、放心して座り込む。すると、それに合わせるかのように、部屋に明かりがついたのだ。

「葵さん、こんにちは」「よぉ、白咲」

あまりの眩しさに私が目を瞑った時、聞こえた二人の声。もう、嫌だった。確定した、二人が悪い奴だということを。そして、目を少し開ける。隣の人は、……一斗だった。私の共犯者であり、主犯である矛盾している存在である一斗だったのだ。

「さて、パーティーもクライマックスだ。 楽しめよ?」

赤坂の声。私は、そんな声は無視して、小さな震えた声で一斗、一斗、と呼んでいた。出血量は思ったより少ないが、彼は起きてはこなかった。まだ、少し温かい。生きているはずだ。いや、生きていないと困る。

「無視はいけませんね、葵さん」

寿樹さんが、一斗を蹴る。一斗の身体は壁にぶつかる。彼についていた血が周りに飛ぶ。

「やめて」

私は、ポーカーフェースを装い、冷静に一言。今まで何人もの死体をみてきた。私は、……怖くなんて、ないはずだ。

「やめねぇよ。 お前ら邪魔だしな」

赤坂が、私を蹴る、殴る、叩く。やめて、やめてよ。暴力で訴えるよ? ま、生きてたらの話だけど。

「さて、二人とももうダメですか?」

寿樹さん……いや、坂本 寿樹は一斗をまた蹴る。

もうダメだった。

「ねぇ、お父さん。 なにやってるの?」

その時、この部屋のドアを開けて部屋に入ってきたのは、光だった。和やかな笑顔で入ってきた光は、私をみると表情をとても険しいものへと変えた。




「ねぇ、父さん、先生。 いくら二人でもさ、葵を殺るのは酷くない? 」

光は、険しい表情のまま、二人に近寄る。

「あぁ、光か。 危ないぞ、離れておけ」

「父さん、僕の話を聞いて」

「坂本。 お父さんのいうことを聞いて、離れなさい」

「先生も、聞いてよ!」

光は、二人を止めようとする。二人の男は、そんな光をはねのけるのでもなく、殴るのではなく、ただ……みつめていた。

比較の抵抗が終わるのを待つ、というように。

それが続き、約一時間。さすがの、光も疲れてきて、動きが鈍くなった。

その時だった。寿樹さんが光を叩いたのは。

「好い加減にしなさい、光」

光は倒れる。かなり、強い力だったようだ。

そして、倒れた光を、赤坂が一斗の隣に引きずり、置いた。私は、光の息を確かめる。……良かった、生きていた。だけど、意識は無い。光の口は、苦しみでゆがんでいた。

光、というヒーローも倒れた。もう、終わりだ。

もう、私になす術は無いのだ。

私は、微笑んでいった。



「さ、殺して」



立ち上がると、私はハサミを、ポケットから取り出し、二人に渡そうとした。


【レッドキル】

周りからは、シザーキラーと恐れられた。だけど、違う。

本当に私に正しい名は、「レッドキル」なのだ。

ただ、人が赤い雫に染められ、苦しんでいるのを蔑んできただけなのだ。ハサミは……より残虐にするための演出なのだ。それだけ。

このハサミには、レッドキルと彫り込まれている。

孤独な私に、「ブルーローズの貴方」がくれたハサミには、最初からそう彫り込まれてあったのだ。赤く、深く。


だけど……現実は、私よりも「ブルーローズの貴方」よりも残酷。

私を、悲劇を味わった〈ヒロイン〉のままで、終わらせてはくれなかったのだ。

「お前は、一番最後だよ。 ちなみに、一番最初はこいつらだぜ」

赤坂がそういって、携帯電話をとりだした。



そして、器用に操作して、私に画面を見せた。赤坂のその顔は、とてもにこやかな、〈学校での担任〉のスマイルだった。

「……」

私は、言葉を失った。

画面に写っている笑顔のポニーテールの少女と、しかめっ面の少年。

それは、そう。私の友人の、鈴と拓だった。

「はは、お前の友達だよな? 悪りぃな、こいつらはこの世にはもう、いねぇよ」

そして、つぎに見せられた写真は、鈴たちの家が燃えているシーンだった。

嘘だ、嘘だ。これは、合成だ。きっと。映画のワンシーンを合成したものなのだ。

「嘘だ、鈴は死んでないよ……」

私は、つぶやく。無表情で、涙も流さずに。なんで、こんな時。私は、こんなにも冷静なのだろう。なぜ、こんなに。

友達が死んでいる。だけど、そんなに感情的になるほど、悔しくも悲しくもない。なぜ?なぜ?

あぁ、そっか。


私がいつも、人を殺しているからだ。

こういうのに、耐性がつくんだな、人を殺していると。

便利だね、これは。この、スキルは。


「死んでるぜ、なんならみせようか? その惨酷な姿を」

「赤坂。 やめなさい。 相手は高校生だ」

「はいはい、わーったよ」

「すいません、白咲さま。 ここからは改めて敬語を使わせていただきます。 あなたと私は、他人ですので 」

他人ですので、そういった寿樹さんの顔は笑顔だった。

いつもの優しい微笑みだったのだ。

「……わかった」

私はそういい、腹の痛みも顔の痛みもなかったかのように平然と立ち上がる。

痛いのに、死にそうなのに。それを我慢して立ち上がる。






「そうですか。 わかってくださいますか。 それはありがたい」

そういった寿樹さん。その笑みは……もう完全に狂っていた。

彼は、一斗の元へと歩いて行く。靴の音が妙に大きく響く。

「では、さようなら」

狂った笑みのまま、寿樹さんは、一斗を蹴ったり殴ったり、床に叩きつけたりした。もう、それはとても惨酷に。

だけど、とても綺麗だった。寿樹さんの、白いタキシードは、一斗の赤で綺麗に染め上げられていく。

綺麗、綺麗。 私は、自分の共犯者のものであっても、血をみるのは好きだ。とても綺麗だから。

あの時……そうはじめて、一斗の血をみた日。思えば、たった三日前のことだった。あの日、私は中学時代のあの感触を思い出してしまった。また、人を殺したい、そんな感情が胸の底から湧き上がってきた。だけど、私はそれを堪えた。だって、私は霞だから。

霞は、絶対にそんなことはしない。私は、世間のアイドルでなくてはいけないのだ。

そう思ったけど、もう限界だ。

こんな綺麗な赤をみたら。

「あ? どーした、その目は? なんかいーてぇのか? あぁ?」

赤坂が私の一斗を見つめる視線に気づき、私に問いかける。

そんなの、無視無視。

「……」

私は、ニコリと微笑む。多分、私の笑みも寿樹さんと同じ。きっと、狂ってる。

私は、さっき赤坂に渡そうとしたハサミを、赤坂に向けた。もちろん、渡すためじゃなくて、刺すためだ。

「?」

赤坂は、なにが起こるのかわかっていなかった。




私は、ハサミを刺そうと、勢いよくハサミを前にやった。

しかし、その時に刺した感触はなかった。なぜなら、その時には、赤坂はすでに倒れて、息をしていなかったのだ。

「え、え?」

流石の私も、これは混乱。

なんで? あれ? 私、サシテナカッタヨネ。

ハサミを見つめる。 少しずつの積み重なりで赤みがかかってしまった刃にも、まだ生々しい血はついてはいなかった。

……やばい。 なんで、いきなり死んじゃったの?

「やってくれますねぇ、葵さん。 僕としたことが、失敗だなぁ」

は?私はなにもしてないし!そんな反論もできずに、寿樹さんの言葉は続く。

「本来はね、貴方が殺る予定だったんです。 だけど、光のせいで、一秒のズレでした。 あなたに殺された赤坂さんが、今ここにいるんですよ」

は? 言っている意味が分からない。一秒のズレってなに、本来ってなに?

「あ、わかりませんか? えー、つまりはね、これは『物語』なんですよ。 あなたの人生、僕の人生、光の人生。 他にも沢山の人生は、全て物語の台本によって動いていたんです」

うわ、ヤバイ。 なんか、物語とか台本とか言い出した。 マジで狂ってるね。

もし、その話の通りだったら、私と一斗のあの出会い、私と光のあの出会い、全て赤坂は知っていて、全て寿樹さんは知っていた?物語ってことは。私は、一斗を鉛筆で刺したのも全て物語?

だけど、信じられる気もする。確かに、赤坂は私が刺す前に死んだ。ってことはさ、私が誰に殺されるか、


この前にいる人はわかっている……わけ?

「あ、やっと分かりましたね。 因みに、貴方は私に殺される。 台本通りなら、ね」

ははは、と寿樹さんは高笑いした。

「でも、変わるかもしれない。 赤坂みたいに、葵さんも一秒のズレで、なんの怪我なく死ぬかもしれない」

やばい、やばいやばいやばいやばいやばい。

怖い。 本当にこれはやばい。

「ちなみに、私の死ぬ時間は?」

「零時です。 ロマンチックですよね、零時ぴったり」

どこがだよ。 人が死ぬ時間が零時とか、こえぇよ。

私は、そう思いながら時計を確認した。

いまは、十時。 あと、二時間後に私は死ぬのだ。

「台本を改竄する方法は?」

「今回は、特別ですよ、教えてあげます。 私の妻、日子が持っています。 それをとって、書き換えればいいのでは?」

「……今は、どこにいるの?」

「そうですね。 今は……病院にいると思いますが。 私にはわかりませんね」

寿樹さんは、微笑む。

きっと、日子さんは見つけられない。でも、見つけなきゃいけない。

寿樹さんは、部屋のドアを開けた。 明るい光が差し込む。

これはきっと、行って来いという意味。

「……」

私は、部屋を出た。



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