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些細な嘘から始まった  作者: 紗倉 悠里
第三章 <始まった過去>
13/21

幸せとはなんだ?

「はぁ……」

俺は、溜息をつく。

今日は、嬉しい日だ。なぜかというと、退院の日がきたのだ!

だが、反対に嫌なこともある。それは……謎の手紙が来たのだ。もう一度、手紙を開いて見てみる。


『鈴木 一斗様

こんにちは。お元気でしょうか、右足を鉛筆で刺されて? 今回は、坂本家でパーティーをするので、それのご招待をするためにこの手紙を送りました。

貴方、今まで大変でしたね。あの人気アイドルの霞を「コロ」してしまって。そして、葵まで巻き込んだ。

その過去を消したければ、来なさいな

ーーーーーーーーより』


誰かは、分からない。だって、名前が黒く墨で塗られているから。

一体、誰だろう。桃色の便箋と、それに添えられた青い薔薇。とっても綺麗なのだが……問題は、その内容だ。

なぜ?俺が霞を殺ったのを知っている?そして、一番の謎は……、

「葵」

のことだった。


誰だろう、それは?俺は、葵なんて人と面識はない。それに、霞は生きていた。俺と毎日、演技をしてた。なのに死んだだって?おかしすぎる。笑いが込み上げてきた。


「アハハハハッ!」


だが、坂本家のパーティーに招待されるのは、理屈がある。それは……車の会社「SAKAMOTO」のCMに俺が出たことがあるのだ。ちょうど……霞を殺った次の週くらいだったはずだ。それで、車は沢山売れて、商売繁盛ってわけだ。我ながら、俺の人気、すげぇな。


「ガラガラ……」

ドアが開いた。清水か?いや、違う。俺は、手紙を読みかけの本にしまった。


「調子はいかがですか?」

俺の部屋に入ってきた人は、いや人達は……坂本家だった。それに、坂本家とは違う人物もいる。確か、「amanda」のオーナーの美空だったような気がする。俺はあそこの常連だからな、あっちも知っているはずだ。まぁ、そういう意味じゃなくても俺のことは知っているだろう。





一番前にいる人……あれは、坂本の坊ちゃん(坂本 光)か。またまた、高級なスーツだなぁ。羨ましい。

「今日は、退院だそうですね」

どこか親し気に彼は俺に話しかけた。

「ええ、そうなんですよ。また、芸能界復帰ですよ」

ニコッと笑ってみせる。勿論、愛想笑いだ。あの日から、俺に笑顔なんてない。あるのは、愛想笑いだけだ。……多分。

「で、この前のお礼に、これを」

彼、ーー光は俺に花束を差し出した。

青い薔薇の花束だった。綺麗な、青。

「ありがとうございます」

俺は受け取ったが……これをどうしろと言うのだろう。正直いって、要らない。花束なんて、いらない。ま、俺が受け取らない訳ないが。

「では、後に会いましょうね」

光御一家は、俺の病室から出て行った。


後とは……あのパーティーのことか?

あれは、もう絶対行かなければならない。

行かなければ、バレる。ま、生きているのだから別に大丈夫なのだが、「葵」のことも気になる。

だから、いってやることにした。

この「墨塗りさん」は誰だろう?俺が殺った時にいた人物は、清水か、スタッフだ。だが、清水はどっかいったし、スタッフは食堂だ。見てたはずはない。なら、俺が知らない誰かか?そいつが、霞と葵を知っているのか?


まぁ、退院後も暫くは仕事もないしな。いっても大丈夫だ。

俺は、パーティー会場へ向かうことにした。



ーーガラッ


また、ドアが開いた。今度は、本当に知らないやつだ。女の子と、男ってところかな。

俺が二人をじーっと見ていると、女の子が口を開いた。

「ねぇ、誘拐されてくれない?」

は?いや、誘拐されてっつっても、Yesと答えるやつはなかなかいないぞ……。

「え、いや……」

作り笑いをしながら、応えようとする。が、応えるのはどうしたらいいかよくわからない。

「こら、鈴。お前、バカだな。常識が抜けてる」

ああ、その通りだな。今度は、男が喋っていた。見かけによらず、こえは結構低かった。

「バカじゃないよ!主旨はあってるよね?」

「……あぁ、合ってる」

つまり、二人の会話を聞く限り、どちらにしろ俺を誘拐したいわけだな。

「いや、誘拐といわれても……身代金か?」

苦笑しながら、二人に聞く。身代金なら、清水が可哀想だな。多分、あいつが全部静めようとするだろうしな。

「違うよー。依頼だよ、依頼!」

「ターゲットにそれ漏らしたら意味ないだろ」

男は女の子に注意している。あー、地味に和むな。こんな時だけど、若い子供は可愛らしい。

「依頼ねー……ま、いーや。誘拐していーよ」

なんか、この頃楽しいことなかったしな。少しくらい、楽しんでも……いいよな。


(清水、ごめんな。俺、ちょっと楽しんでくる。)





とりあえず、窓から出ろと言われたので部屋に一つしかない窓から出た。だが、今さっき思い出したが……ここは、三階だった。二人に助けを求めようと考えたが、女の子はひゃっほう!と叫びながら笑っているし、男は無表情で落ちている。俺が慌てるのはなんかかっこ悪いので、無理やり落ちるコトにした。おー、怖え。

と思ってたら、もう地上だ。女の子は、華麗に着地したらしい、満足げに笑っている。男の方は、音も立てずに降りた。もう、すごすぎるな、超人としか思えない。そして、俺は……頑張って膝を曲げてぎりぎり無傷ってところかな。あー、なんかこんな感じのドラマをこの前とった気がするなぁ。

着地したとたん、男は肩にかけていたバックから小型のノートパソコンを出すと、なにかを打ち始めた。よく分からないが、メールって感じかな。めっちゃ、打つの早えぇ……どこのサラリーマンだよ。

「一応。俺の名前は拓だ。こいつは……」

「鈴だよー!キュートビューティな女の子だよー!」

拓と、鈴か。キュートビューティ……か、女優になれそうだな。そして、拓とやらは……なんともいえないな、意外とモテたりして。

俺がぼーっとしていると、鈴は俺の病院服を軽く引っ張りながら拓を見た。

「ああ、それはやばいな。新しいのを買うか」

拓は、財布をバックから取り出すと、三万円を取り出すと鈴に渡した。

多分、新しい服を買えと言うことだろう。

嫌だな、三万とか安っぽい……なんて考えている暇はなさそうだ。俺、人気だしね。病院からなんか騒いでる声が聞こえるからもうばれたっぽいし……早く、買おう。

三万円を鈴は振りながら、近くの店へ入って行った。そして、暫くするとTシャツと、紺のジーンズを買ってきた。

意外と、センス良いな。

俺は、そこらへんの茂みで、着替えることにした。恥ずかしいが、そんなこと言ってる暇じゃないしな。


なんだかんだで着替え終わると、鈴が俺の服を引っ張りながら歩く。俺、なんか目が見えない人みたいじゃないか。まだ、いーや。



しばらく行くと、前には小さな一軒家があった。……ボロくはないが、新しくもない。なんとも言えない、中途半端だ。

鈴が、鍵をかけていないらしく、ドアを開けてドタドタ家に入って行った。後ろにいた拓は、相変わらずノートパソコンと睨めっこしているようだ。話しかけない方がいいだろう。

俺は、靴を脱いで部屋にはいる。因みにこの靴は、拓が鞄にいれていたのを貸してもらったものだ。なぜか、サイズはピッタリだった。まぁ、サイズ以外にも問題点はあるが、そこは突っ込まないでおこう。

拓は、ノートパソコンをみながら自室らしい場所に入って行く。部屋の中の方から「いてっ」と声が聞こえた。多分、拓がどこかに体をぶつけたのだろう。


「あー、葵?いまから、家きてくれないー?」

家の奥から元気な声が聞こえる。電話をしているらしいが……馬鹿か。大きい声だと、聞こえちまうだろ。

そして……葵!?あの手紙の……霞と共に並んでいた「葵」か?


俺は、音を立てずに鈴の元へ向かおうとした。進むたびに、元から大きい鈴の声が尚更大きくなっていった。

「うん、すぐ来て!」

その声の後、「ガチャ」と音がした。電話を切ったのだろう。

この内容から察すると、葵とやらがくるらしい。で、鈴たちはそいつの友達っと言うことか。見事に運命の巡り会いだな。まさか会いたいと思ったら会えるとは。俺、すごくね?





「こんにちはー!」

俺が突っ立っていた玄関のドアがいきなりあくと、どこかで聞いたことのある声がした。んー……どっかで、どっかで……

「あ!葵さんですかっ?」

作り笑顔で振り向くと、そこにいたのは……紛れもなく、霞であった。

「えっ……あ、こんにちは」

霞は、俺を申し訳なさそうに見て軽く会釈したあと、奥のさっき鈴がいった場所へかけていった。俺も、ひそりとついていく。中から話し声が聞こえた。

「ちょっと、鈴!話が違う」

「ちがくない!一斗くるっていったじゃん」

「そりゃ、そーだけど」

「なら、違ってない!」

俺は、ドアを開けてリビングらしいところに入る。すると、霞は硬直した。

「あ、どーも」

軽く会釈をする俺。なんか、他人行儀。

「あ、一斗ー。この子は、あ……」

その時、霞は思いっきり鈴の頬をビンタした。パチンッ!という音が部屋に響き渡る。

「一斗来てたんだね」

鈴を叩いた怖い表情のまま、俺に向かって言う。怖え、なんの撮影だよ、怖すぎるだろ。

「あ、あお……」

また、鈴が喋りかけて、霞にビンタされている。霞は、こんなに乱暴だっただろうか。

「なんで叩くの、あお……!」

ニコニコ笑ながら、霞に叩かれる鈴。うわぁ、鈴はMらしい。その時、俺の背中を蹴る者がいた。

「なっ、なんだ!?」

俺は後ろをまた振り向く。すると、怒気を振りまく微笑した男がいた。……拓だ。

「あぁ、すまん。間違えた」

俺に軽く謝り、鈴に一発蹴りをいれ、またスタスタと帰っていく拓。その顔はさっきと変わりはなかったが、オーラは普通に戻っていた。って、拓の観察より俺の背中!さっき痛かった!あんな軽い謝罪で終わりなのか!暴力反対!




でも、あの言葉は気になる。「私、あの人嫌いだから、死んでも別に構わない」か。もしかしたら、霞となにかゴタゴタがあったのかもしれないな。

そんなことを考えていると、ガチャリとドアの閉まる音がした。それと一緒に、鈴の元気な、「また、あおーねー!」などの声も聞こえる。

てか、帰っちまったら、まだ聞きたいことがあるのに……と後ろめたくなってきた。

俺は、鈴に「ちょっといってくる」といい、拓の部屋に少しの恨みを込めて「さっきの蹴り、エネルギーもらったぜ」と明るく言い、家の外にでた。

葵さんは、道の真ん中をとぼとぼ歩いている。後ろからは葵さんの歩く速さに合わせて幾らかの車がのろのろ走行。クラクションはなりっぱなしで、脳が湧きそうだが、葵さんはそんなの気にもしていない。不思議だ。


「それは、危ないですよっ」

慌てて葵さんを道の端へと引っ張りだす。やっていることは大胆だが、なぜか敬語になってしまった。

「なっ!?」

葵さんは驚いたように俺の方を振り返る。その時、彼女の身につけていたスカートが翻った。別に、見たかったわけではないが、スカートのしたが見えた。普通にスパッツを履いていて、そのスパッツにはいかにも手縫いのピンクのポケットみたいなモノがついており、そこには小さいハサミのようなものが入っていた。といっても、柄しか見えなかったので、ハサミとは断言できないだろう。といっても、こんな一瞬でそれだけ見えるほど、目立つものであった。俺の目が確かなら、葵さんは……ま、今は考えてはいけないと思う。




「ねぇ、葵さん。 【招待状】知ってるかな?」

俺は、葵さんに優しく聞いてみた。

霞に関係ある人物なら届いているはずなのだ。

「なんで、それを?」

取り乱すこともなく、静かに振り向いた葵。

「いや、届いたからね」

苦笑いしながら言った。

彼女も、知っていたのか。なら、俺と同じ被害者だな。少し、安心した。

びゅう、と風が吹く。葵の青い腰までもある長い髪が靡いた。俺の黒髪も優しく揺れた気がした。

「俺も、もらったからさ」

「墨で塗られた名前の人に?」

「そうだよ」

葵の顔が少し暗くなる。やはり、俺と同じ様にヤバイことを書かれていたのだろう。

「なぁ、いかないか?」

「どこに?」

「パーティーに決まってるだろ」

「そーだね。 行こう」

「スケジュールは大丈夫か?」

「私は大丈夫。 貴方は?」

「誰かさんのせいで、入院して退院したばかり」

俺のちょっとした皮肉に、葵は罰が悪そうに苦笑いした。

「じゃあ、大丈夫ね」

「そーだよ。 夜に、芸能プロダクションにきて」

「わかったわ……ばいばい」

葵は、さっきとは打って変わり、ふつうに歩いていった。

(さて、パーティーか。俺も、準備しよっと)

俺は、家路についた。


いつの間にか、そらには白い月が浮かんでいた。


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