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些細な嘘から始まった  作者: 紗倉 悠里
第二章 〈現在と狂い〉
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淡い光と、果てしない闇。

ーー「着きました、光様(おぼっちゃま)

光の専属と思われる黒い燕尾服の執事の優しい声に、私は目を覚ました。

光は、私の顔を見てニコリと笑った。

「葵、さぁ降りて」

光に優しくエスコートされて、私は降りた。

まだ、意識がパッとしない。

寝ぼけなまこのまま歩いていて、顔面を門にぶつける。地味に鼻が痛い……。

「あはは、あわてん坊だなぁ、葵はっ」

「なっ……ちょっと眠かっただけよ!」

私の意味不明な言い訳を聞きながら、光は明るく笑っている。

光の後ろにある太陽が風景によく似合う。

「入って、入って」

光が頑丈で重そうな門をこれまた重そうに押して開ける。

顔が苦しそうなのが面白くて、不覚にもクスッと笑ってしまった。

私に笑われたため、光は恥ずかしさで顔を赤くして、拗ねて目を逸らした。

「さっきの、仕返しよっ」

私は、まだ笑いが止まらないまま、扉の前へ立つ。


光曰く、ここ全体が庭だと言う。

道の端には、びっしりと赤や黄、紫のチューリップが植えられている。

それに、真緑の芝生が生えている広場(私にはそう見えてしまうほど広い)には、滑り台や、ブランコなどの遊具が輝いてみえる。

それに加え、目の前にある赤い扉だ。細かい細工がされていて、輝いている。

「これ、何で造ったんですか?」と、執事に聞くと、執事は、

「金ですよ。少し銀も混じってますが」

と、微笑して答えた。

羨ましいものだ。扉だけに、一体幾らかかったのであろうか。

私が、そんなことを考えていると、また何かにぶつかった。

そして、そのものは言った。

「あら、貴女がお客様? 光が女の子を連れてくるなんて」

彼女は、クスクスと笑っている。

私は、後ずさりする。

「あの……貴女は?」

私は、怪訝な表情で聞く。

彼女は、

「あら、私は光の母よ」

とニコニコ笑いながら答える。

よくみると、薄桃のドレスを着ている光の母は、色白で美人だ。

私は、その綺麗な女性に見惚れていた……。

すると、後ろから鉄拳(スーパーチョップ)をくらった。

「母さんばっか見ないでよ!」

意味分からない言葉を吐く鉄拳の主ーー光は、腕を組んで目を逸らしている。嫉妬しているらしいが、何故かはよく分からない。

ズキズキと痛む後頭部を撫でながら、ふと光の母を見ると、面白そうにクスッと笑っている。

「ふふ、葵ちゃん。面白い娘ねぇ」

彼女が言った言葉に、私は目を丸くした。

…………葵ちゃん。私は、白咲 葵。つまり、彼女は私の名前を知っている。何故だ……私は、思考を巡らすが、分からない。只、混乱するだけだ。

「あら、ごめんなさいね。私の名前は、日子よ」

私の行動を読み取ったのか、彼女ーー日子さんは言った。

読心術出来るのか……こんな変な事を考えてしまった私は、馬鹿だろうか。

「母さん、多分奈保子さんから聞いたんだよ」

光が、私にコソッと言う。

光の顔は相変わらず不機嫌そうだ。未だに何故か分からないが。

「すげぇ情報網だから。何でも知っててこえぇんだよ」

日子さんの笑っている顔を見ると、私の全てを見透かされているような気がしてきた。何というか……怖い、とても。

「葵ちゃん、今日食べてかない?」

日子さんは、いきなりそう切り出した。

『今日食べてかない?』

……嬉しかった、何故か。私、さっきから何故かばかりだな。

「はい!お言葉に甘えて」

私は、日子さんに感謝を込めて答えた。

日子さんは、嬉しそうに微笑んだ。

詳しいことは、光に聞いた。

光によると、今日は坂本家でパーティー兼、会議があるらしい。

そのパーティーに、ご一緒してという事だそうだ。


やったー、嬉しいなー、パーティーだ。

なんて、棒読みの冗談を言うのは、放って置いて、私でもやはり嬉しい。

「さぁ、着付けをするわよ」

ニコニコ笑いながら日子さんが言う。

なんか、怖い。

(着付けってナニ?美味しいの?)

私が、世間知らずの名言(?)を言っている間に、日子さんは何やら沢山のドレスを持ってくる。

「葵ちゃんに似合うのは、これか、これね」

ニコニコ笑いながら日子さんが差し出したドレスは二種類。

さっき沢山持ってたのを選考したのだろう、瞬時的に。さすが、大人の女性だ。

ドレスは、赤いマーメイドドレスと、青いマーメイドドレスだった。

私的に、赤が好みだから赤を選んだ。

(なんか、赤ってかっこいい事ない?)

そんなことを思いながら。

「ん、赤ね~」

他のドレスを、床に放って置いて、ニコッと笑う日子さん。なんか、怖い。

(あれ、すごい高そうなドレスなのに……床に放られてるし……)

「この赤いドレス、可愛いわよねー、葵ちゃん、見る目あるわっ」

日子さんが笑う。

「そうですか? でも、こんな綺麗な服を着れるなんて、嬉しいです!」

とりあえず、女の子らしく感情を込めたような棒読み(それを棒読みと言うのかな)を日子さんに向けて言う。

御礼も含めて言ってみたが、伝わったのだろうか……。

「母さん、葵はまだぁ?」

着付けルームの外から光の声がする。

「終わったわよー」

日子さんは、私を扉の前に立たせた。

「さぁ、葵ちゃん。いってらっしゃい」

日子さんはニコニコ笑いながら、扉をあけた。

扉の向こうは……広い、広い、広い!

美しく着飾っている男女が踊っている!綺麗な人達ばかり、しかも金持ち。

これが、金持ちがやるパーティーか!

……そして、光がいた。

そう、大金持ち家御曹子「坂本 光」様が。私を待っていたのだ。

今や、会場の全視線が私達の方へ向いていた。

同級生なのに、貧富の差でこんなに変わってしまう。

あぁ、金持ちに生まれたかったなぁ。


私だって、母さんさえ死んでなきゃ……まぁ、こんな悲しい話はやめて、パーティーに私も入っていった。

目に映るのは、豪華な食べ物ばかり。

毎日食べている、貧相な梅干付きの白飯と、焼き鮭とは違うなぁ。まぁ、当たり前だけど。でも、梅干付きの白飯も美味しんだけどねー。

私の辛いアルバイト生活では、あの食事だって豪華な食べ物だが……まさか、こんな豪華な食事が出来るとは。嬉しいが、驚愕だ。

私が見て美味しそうだと思ったのは……なんとも言えない緑黄色野菜のサラダだ。ハムや、トマトも盛ってある。すごく美味しそうである。

私がサラダに目を輝かしていると、光は言った。

「葵、あれ食べないの?」

といい、七面鳥の照焼きを指差した。

おぉ、豪華だ。でも、私は断わった。

自分で言うのもなんだが、私は貧乏人だからサラダで十分です。まぁ、でも折角だから今日は贅沢しよう。

七面鳥の照焼きは要らないけど……あっ、あれ美味しそうだな。名前は分からないけれど、(はまぐり)に赤いソースがかけてある。私は、貝類好きだから目に止まった。それと…今日の昼の一斗の血……いや、いまは忘れよう。

「ん、これが食べたいの?」

光が、私の視線をたどって言う。うん、と光の顔をみて頷いた。

すると、光はすぐに私用(わたしよう)にこれまた豪華な細工がされた大きな皿に蛤を盛った。綺麗に盛ってくれたせいか、さっきより美味しそうに見えた。

早く、食べたいなぁ。でも、せっかちはいけないからゆっくり我慢する。

光の横で待っていると、日子さんが私に近寄ってくると、私に、透明のグラスに入った赤い飲み物を渡した。

……血!? なんて馬鹿な考えは放って置こう。多分、これは……えっと……名前忘れたけど、私が飲んでいいのかな…飲酒にならないのかなぁ。

でも、隣の光も受け取っていたから私も貰った。今日くらいは…特別だよね。しかも、20まであと、3年だし!


私は、その赤い液体を口に流し込んだ。

なんか……不思議な味だ。美味しいっていうか、苦い。とにかく、苦い。

あまり飲みたく無い味だった。人生初だったからかな。不味かった……。

とりあえず、全て流し込み、日子さんにグラスを返した。日子さんが、

「お代わり、どうぞ?」

とグラスを渡してきたが、私は断わった。もう、飲みたく無い。


暫くすると、皆が席に着き出した。私も、黄色いテーブルクロスがかけてられている高級感溢れるテーブルの前に座った。この椅子、木製だから座りやすい。

「皆様、今日は一日お楽しみください」

日子さんの声が会場に響き渡る。

私は、豪華な料理を前にいただきます、と手を合わせた。

美味しそうだなぁ。さっきからこれしか言ってない気がする……。

一口、蛤を食べてみる。口全体に甘みが広がったあとに、少し苦くなる。

さっきの飲み物に似ている味だが、それとは違い、嫌な感じはしない、美味しい。


……美味しいな。

あれ?なんか、眠い。みんながどんどんぼやけていく。どした、私の目は?


[翌日 6:00]

「おはようー!」

私が目を開けるとそこには大きな顔をした光が居た。正しくは、顔を近づけて居たのだ。

「わぁぁぁぁぁあ!」

私は、驚いてベッドから落ちた。

ん?……ベッド!?しかも、うちのベッドだ。

確か、私はパーティー会場にいたはず。さて、どういうことかな?

私が、光に問うと光が苦笑して答えた。

「葵ね、あのワインと蛤で酔っちゃったんだよ」

え?……あぁ、食べたね。

思い出した!

ーーワインと蛤で酔った私は光と日子さんに担がれて、あのパーティー会場に来た時の車に乗ってうちまで運ばれたんだ。

ん?なぜ、光はうちに入れた?

そこら辺は、考えたら怖そうだからやめておこう。


私の家は、二階建てで寝室は二階にある。つまり、光は一階を通った……或いは、窓から飛び込んだ。二つ目はあり得ないが、窓が開いていたからいってみた。

……やっぱり、気になるなぁ。

私は、光にどこから入ったか光に聞いてみた。私と光しか居ないし。

「窓だよ。そこのが開いてたから」

まさかの、冗談がヒットした。私、予知能力……改めて、当てる能力があるのかもしれない。超能力ってあるんだな。……いや、今のはまぐれだ。そう、まぐれ。

ていうか、一階通ってなくて良かった。一階の奥の部屋には、霞が居るからな。


そう、霞のことはばれてはいけない。私は殺してないから悪く無いけど、警察に出してないから犯罪になるのかもしれない。私はそういうのは疎いから分からないけど。

まぁ、その話はまたいつか、ゆっくりと。


暫く光と談笑したあと、光は帰った。また、窓から出て行った。






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