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些細な嘘から始まった  作者: 紗倉 悠里
第二章 〈現在と狂い〉
10/21

只今、入院中

「つっ……痛ってえ」

今、俺は病院にいる。

病院の名前は、坂本病院である。

事務所裏で倒れていたのを女性が見つけたらしい。

刺されて、その後傷口を塞ぐ手術を受けて、五時間経つが、まだズキズキ痛む。

まさか、刺そうとして足を鉛筆でやられるとは……驚きだ。

「一斗、大丈夫か?」

清水が聞く。心配してくれているのだろう。

目はそっぽを向いているが。

「あぁ。大丈夫だ」

「じゃ、単刀直入に聞くが、誰にやられた?」

「えっ……それは」

迂闊に、霞だ と言えば、俺の失態も暴露てしまうかもしれない。

それは困るな、どうしよう。

「わからないんだ、いきなりやられたから」

俺は、咄嗟に苦しい嘘をつく。

右足の前にやられたのに、犯人を見てないなんてあり得ないのに。

「そうか、ならいい」

清水は嘘をのみこんだようだ。

あぁ、良心か何かが痛む。



「ドラマ、どうする?」

俺が、先程(俺が気絶する前だが)持っていた手の込んだナイフを右手に持ち、清水が言う。「これ、すげぇな」と、ぽそぽそ独り言もいっている。ナイフは、鈍い光を放っている。

本当に、俺を心配しているのだろうか?

そんな疑問を持ちながら、清水の言葉に答える。

「治ったら……」

「そんな時間が監督にあるか?」

「え……、退院はいつ?」

「確か、んーっと、忘れた」

「……」俺は、歪な表情で清水を見る。

「すまない」

「いや、別にいいけど」

一応、マネージャーだよな……などと思いながら、窓の外を見る。

さっきまで雨が降っていたのか、草が濡れている。俺は、それをぼーっと見つめていた。

「一ヶ月後だ!」

清水がいきなり叫ぶ。いきなりだから、かなり驚いた。心臓がバクバク言っている。

「ありがとう……だけど、心臓に悪いよ」

「あっ、でも違うような」

どっちだよ……と、心の中で突っ込む。

言葉に出そうかと思ったが、やめておいた。

清水は、スケジュールを確認していたから。…………珍しく。

マネージャーなら当たり前だが、清水がやるのは珍しい。

本人によると、「暗記している」らしい。

間違えは、虚しいが一日21回程。虚しいが。

よくマネージャーになれたな、と思うが、これも口には出さない。

「あ、三週間後だ!」

またもや、いきなり叫ぶ。

さっきも叫んだから、もう慣れていた。

清水の行動は、なぜかすぐに慣れてしまう。

いろんな意味で、ありがたい。

「あ、ありがとう。でも、さっきのと一週間しか変わらない」

俺は、最低限に失礼のない突っ込みを入れたつもりだ。突っ込みと分からないほど、最低限に。

「いや、一週間も違う……だろ?」

何故か、名言風に言う清水。

「はははっ……っってぇ!」

笑っていたら、痛みがぶり返してきた。

「寝たらどうだ?」

清水が、優しく(?)言う。

俺は、それに甘えて寝ることにした。



「なんで、なんで!なんで、あなたは私を殺したの?ねぇ、教えてよ。私は、死にたくなかった。なんでなんでなんでなんでなんで……殺したの!!」

俺は、目が覚めたらしい。

周りは真っ暗である。

目先には、死んだはずの霞がいた。

「死にたくなかった死にたくなかった死にたくなかった死にたくなかった酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い!」

霞は、つらつらと言葉を並べる。

表情は……なかった。

ん?……おかしいぞ?

霞は、死んでなかったはずだ。

生きていた。俺がまた殺そうとしていたのだから。

あぁ、きっとこれは罪悪感からきた夢なのだ。

「酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い」

霞は、ずっと酷いと叫んでいる。

頭の中に響く。頭が痛い。

(もう、やめてくれっ!)

「ごめん……」という謝罪は、一斗の口からは出なかった。

「余所見してたお前が悪い!」

俺は、そう言ってしまっていた。

口が勝手に動いたのだ。

その途端、霞の口は止まった。そして、いきなりバタッと倒れた。

周りがどんどん赤く染まっていく。

足に、生暖かい感覚が当たる。靴下が赤く染まっていく。

「うわぁぁぁぁぁぁぁあああ!」

彼は、叫びその場に崩れ落ちた。

周りは、血の海となり、一斗はそこに溺れてしまった。

「助けてくれっ! 霞っ、悪かった!」

慌てて、助けを求める。

「もう、遅いわ」

霞……は、呟いた。


同時刻、葵の家。

この家には決してバラせないひみつがあった。

それは…………死体だ。そう、霞の死体があるのだ。

シーンとして、誰もいない家の奥の方の、そのまた箪笥の奥に押し込まれてあった。

その死体に表情は……無かった。

無惨に押し込まれて、埃を薄っすらとかぶっている霞。

もし、誰かが見つけたらどうなる事だろう。

誰も予想はつかない、大事になるであろう。

この霞は、少し濡れていた。

死後、三日。腐ってはいない。

さぁ、なぜだろう?

さぁ、何故濡れているのだろう?

なぜ、腐っていないのだろう?

知っているのは、誰も居ない…………。


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