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青春ショートケーキ

蕾も集まりゃ姦しや

作者: 狂言巡

 丘の上にポツンと建てられた、この学校は。通う生徒も教師も、一筋縄で行かなかったり行ったりする連中ばかりが揃っている。良く言えば個性的。悪く言えばゴーイングマイウェイ。

 そんな学校に、うちは通っていたりするのだ。




***




「きょーうっのおっかずっはなーにっかなー!」


 四時間目終了のチャイムを聞くと、元気百倍になる勇輝(ゆうき)。即興で歌を創作するくらいには。


「起きた」


 おはよう。いや、おそよう、かな?


「なに言ってんだよ、ゆうきは最初(はな)っから起きてたって」

「ふうん……じゃあノートに付いている沁みは何だと言う?」

「えーっと……悟りを開いてたのさ☆」

「……そうですか」


 もう、ツッコミは止そう。無駄な精神力を使うだけだし。


「食い終わったらノート見せてなー」

「寝たの認めたね」

「違うって」


 往生際が悪いなあ……でもまあ、今更こう言ったとしても本人は直す気がないのだから意味はない。

 確かに英語の授業は寝るには最適かもしれない。けれど来週に控えた期末テストで赤点なんて取ってしまったら、長くて楽しい夏休みは補習という素敵なイベントで潰されてしまう。

 他の教科は何とかなるとしても流石に英語はね……。普段、全然まったくちっとも使わない語学のために眠たい授業も寝ずに頑張る自分としては、楽天的な勇希が羨ましい、なんてときどき思ったり思わなかったり。

 そんな勇希は可愛らしい犬の絵のプリントが施された巾着を解き、早早とお弁当箱を広げている。

 うん、明るいし可愛いし行動力あるし、確かに同級生とか先輩とか後輩に人気があるのは分かる。でも、授業中によだれ垂らしてるってことを知っているのだろうか……。


「なーかずら」

「何だい?」

「そのオクラ食べてやるから玉子焼き食ってくれね?」

「いいけど……玉子焼きは嫌いじゃなかったでしょ?」

「玉子焼きは塩って決めてんの」

「甘くて美味しいのに」

「えーそんなの玉子焼きじゃなくてスポンジケーキだっつの!」


 玉子焼きに砂糖派はうちと同居人の(はん)ちゃん、おじさんと範ちゃんの弟の貫兵衛(かんべえ)君。そして勇輝も塩派に入る。

 少し前まで、範ちゃんは泣く泣く塩入りの玉子焼きを作っていたらしいんだけど、最近は砂糖に変わったらしい。別にうちは塩でも食べられないことはない。って言ったんだけど、それから毎日玉子焼きには砂糖が入っている。

 二人はそれでいいの? って聞いたら青い顔のまま笑顔で頷いてくれた。本当に微妙なリアクションだった。何なのだか。

 そしてうちはオクラが苦手と言うか嫌いだったりする。他の野菜は平気なんだけどオクラは……何か、美味しくない。ネバネバしてるし。良薬は口に苦しって言うけれど、オクラもそうだと思う。

 だがたまに勇輝が玉子焼きと交換してくれるので、自分としては助かっていたりする。

(ごめんなさい、範ちゃん!)

(勇輝のお父さんは甘党らしくて、そのせいで卵焼きはいつも砂糖入りになるらしい)


「来るな」

「来るねえ」


 唐突な勇輝の発言はいつものこと。彼女は男らしく食事をするが、粗野ではない。そして、地響きにも似た轟きが聞こえてくるのもいつものこと。そしてその轟きが二重奏で教室のドアの前で急停止する、これもいつものこと。


「あ゛ー! 何もー食ってんだよテメーら!」


 眼つきの悪い半眼瞳孔開きの茶髪と、金髪に赤のメッシュが予想通りに飛び込んできた。さっきの声の主は前者のものだ。


「おまえらがおそいからだろー」

「確かに今日はちょっと遅かったね」

「今日はツイてないよー。社会のハゲジジィが無駄話始めやがってさー」

「あーうるせぇうるせぇ」


 ずかずかと教室に入ってきた、金髪の赤メッシュもとい坂口(さかぐち)くんと話しているのは、悪友らしい嗚栗(おぐり)くんって言う子。見かけと違って結構馬鹿、らしい。

 二人は近くにあった椅子を引っ張って同じく弁当を広げる。他の人は大半が食堂に行っているけど、弁当持参なのは私達だけじゃない。けど何故か、教室の隅のほうでこちらを傍観している。

 ……まあ、分からないでもないけど。


「あれ、坂口くん。今日はお弁当じゃないんだ」

「うん、昨日からかーさんが出張してるとーちゃんのとこに行ってるからさー」

「それだけで足りるの?」

「どうだろーまぁ別に足りなかったら購買に行けばいいしさー」

「じゃあ、これあげる。はい、」


 あーん、なんて。


「…………(眉間に皺)」

「? あーん。……おいしー」

「私も。このミートボールは同居人の手作りなんだよ」

「ありがとー」

「とりあえず死ねゴラァ!」

「なんでぇぇぇ!?」

「お。はーじまったはじまった♪」


 自分で作ったわけではないけど、褒められればやっぱり嬉しい。

 二人で笑っていると、隣に座っていた嗚栗くんが何故か坂口くんの首を絞めはじめた。勇輝は止めようともせず『やっちまえー!』とか熱い声援を送っている。いつものことだけど、止めないと本当に息の根を止めそうだったので、とりあえず制止に入った。

 ……賑やかなのはいいことなんだけどね。

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