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第8話【ユズハVSヒジリ】

学園恋愛ファンタジーです。BLではないですが、臭い部分も後々出てきます。お嫌いな方はご遠慮ください。ソフトエロも後々出てきます。こちらも苦手な方はご遠慮ください。

第8話【ユズハVSヒジリ】


 王ユズハ/騎士ナギ組、第4ゲーム目。場所はランダムで指示されるらしく、第7の塔だった。

 最初のゲームから1週間。駒の数が増えているとはいえ、ペースは速い。本人達は知る由もないが。


 ナギは、今日のゲームに乗り気ではなかった。しかし、明確にこのゲームに勝ち続ける目標が出来てしまった。

 ユズハが自分のことをバカバカと言うように、ホントにバカになれたら楽かな?なんて思ったりもした。


 今日の相手は大学部の生徒らしい。ユズハが文学部との交流会で見かけたことがあると言っていた。派手で快活な印象のあるさっぱり系美人と、空手の稽古着に身を包んだかなり太めで背も高い、マッチョ系の男のペアだった。

 審判に登録された名前によると、女の方がナナコ、男の方がタケルというらしい。


 ナギは珍しく、ボード上でため息をついた。

 その様子を見かねて、ユズハが彼の肩を優しく叩き、彼の後ろに控えた。


 今日のボードは直径70センチくらいの丸太上の柱が、床面で格子状にクロスしていた。タケルくらいの巨体でも簡単に落ちてしまいそうな程度の穴が連続してあいていることになる。バランスを崩すと、今にも落ちてしまいそうな不安定さだ。

 しかし、ナギもタケルも、もちろんユズハやナナコも普通に歩いていた。


『武器を取ってください』


 ボードの中心部を通る、唯一平らな橋状になっていた床面に玉座が向かい合わせに並ぶ。その中心に光り輝く審判の柱があった。

 ナギとタケルが、その中に手を突っ込んだ。


 タケルの武器は、鎖鎌だった。ナギは……


「またかよ!てか!回を重ねるごとに、極端に短くなってるし!」

「あんたの武器、貧弱だな。体も小さいし、そんなんで戦えるのか?」

「う……うるせえな。見かけで判断するんじゃねえ!?」

「そうか?オレの実績もいっとこうか?」

「良い!うざいだけだから!おい審判、さっさとはじめろ!」

「コイツ……ちょっと騒がれてるからって、自信過剰な」


 タケルは充分すぎるくらいナギを威圧していた。にもかかわらず彼はそれに気づきもせず、怖がることもなく、簡単にタケルに背中を見せる。

 ここまで3ポイント、負け無しで来ているのだから、そう言う意味でもう少し反応が出来るヤツかと思っていたのに、拍子抜けだった。


 そもそも、ユズハの姿を見たときに、彼が出てくると思っていたのだ。体格的にも、雰囲気も、そして格闘家としての佇まいも、ユズハは持ち合わせていた。文学研究科との交流会で、女生徒が彼の周りで騒いでいたから、彼が合気道の道場に通っていたと言うことも知っていた。

 だからこそ、ちっこくて、男性的な雰囲気をもつとはいえ、女みたいに綺麗な顔のナギが出てくるのは不愉快だった。


 しかも、ナギの持つ武器はただの棒。しかも、武術で使うようなサイズではなく……


「……ナギ、その長さはもう、持ってても仕方ない……かな」

「この前はちょうど良かったんだけどな。そうだよな……」


 30センチ。持っていると邪魔になるなあ……と思いつつ、仕方ないのでベルトにさした。

 前回は約1メートル。振り回しやすくて、やっと武器らしいモノだと思っていたのだが。


「まあいい。オレが負けるわけがない!」


 ビシ!っとタケルは人差し指をまっすぐタケルに向かって伸ばす。

 タケルは不愉快な顔を見せたが、もうナギの相手はしていなかった。


『光が消えたら、開始になります。王は玉座に移動してください』


 ユズハとナナコが玉座に座る。柱から光が消えていく。


 先に仕掛けたのはナギだった。とんでもない跳躍力で、2メートル近いタケルの頭上に現れた。

 その動きにタケルも反応し、かわすために身を動かすが、間に合わなかった。


 ナギはタケルの頭上に一回着地、そのまま彼の後頭部を蹴りながら、床にバランス良く着地した。

 タケルはバランスを崩しその場に倒れ込むが、かろうじて床の柱にしがみつき、体制を持ち直そうとする。しかし、もちろん遅かった。

 タケルの眼前にナギの足が見えた。タケルが立ち上がるのを待たず、思いっきりタケルの顔に蹴りをいれた。自分の倍は体重のありそうなタケルを蹴り飛ばしておきながら、ナギは微動だにしなかった。


『勝者、ユズハ・ナギ組。勝者には各1ポイントずつ与えられます』


 玉座が消え、手に4の数字が現れたことを確認して、ユズハはナギの元へ歩いていった。


「当然の結果だな。お前、武器なんか無い方が良いんじゃねえ?」


 機嫌がいいのか悪いのか、ユズハはナギの頭をぐしゃぐしゃと撫で、そのまま彼の頭を胸元に抱える。


「あんまり触るな。うっとうしい。さっさと戻るぞ」

「何だよ。いつも通りだろうが。勝ったんなら嬉しそうにしろって」


 一人取り残されたナナコの視線を気にしながら、ユズハはナギの後を追って出口に向かった。

 塔の一階に降り、倒れていたタケルも無視し、ナギは黙って歩き続ける。


「おい、お前ホントにおかしいぞ?熱でもあんのか?動きも鈍くさかったし。あの程度の相手、一発で落とせよ、一発で」


 珍しくユズハが、ナギの機嫌をとろうとまとわりついていた。それが判るから、ナギは余計に機嫌が悪い。


「ナギ!待てって。知ってるか?寮移動の案内が来てたの?」

「知ってる。予想はしてたけど。マドイ達も同じ部屋だって言ってたし。さっきの連中みたいに男女ペア以外は同室にさせられてるみたいだって、お前が調べてきてたじゃねえか」


 第1ゲーム以後、ナギは危なげなく勝ち続けた。勝負はほぼ一瞬でついていた。ナギ自身、全く手応えのない相手に、辟易していたくらいだった。だからなのか、彼はその相手に興味を持たなかった。

 ユズハはそんなナギに『調査の必要性』をときながら、戦った相手について、どこからか情報を仕入れてきた。ナギはいつものこと、と言って気にもしていなかったのだが……。


「お前、今日うっとうしい。さっさと戻れよ。明後日までに移動しろって書いてあっただろ?準備とかしろよ」


 マドイ達に特に大した話も聞けないまま部屋に戻ったあと、寮長から案内をもらったのだ。大学院は人数が少ないので、寮の扱いも良い。一度入ったらほぼ移動もないのにおかしいね、と話していた。ナギはその理由が判っていたので、何も言えなかったが。


「お前と違って荷物が少ないから、良いんだよ。お前こそ、手伝わないと片づけも出来ないくせに」


 そう言いながら、今度は肩を抱いた。


「……お前、ヒジリを誘ったって聞いたけど?」

「何でオレが。いつ?」

「今日、夜あわないかって」

「オレ、今ここでゲームに来てるんだが……」


 そう言われてみればそうか、と納得してしまうナギ。さらにユズハは畳み掛けるように、


「大体、マドイと同室なんだから、何かあったらあの子が黙ってないだろ。そんな、夜中に男と会うだなんて、いくら相手がオレでも許すとは思えんけど。何なら、今夜ずっと一緒にいて見張ってればいいし」

「やだよ、お前と一晩中なんて」


 エイジに言われ、気にはしていたけれど、ナギ自身も別にユズハを疑ってはいなかった。大体、ヒジリがそんなことに応じるわけがない。そんなことは判りきっていた。


「……お前、ホント嫉妬深いよね」

「だれに?」

「いや、だから、いくら妹達が可愛いからって。まあ、普通に可愛い子達なんだけど」

「……ああ、そっちね」


 思った以上に、いろんなことがナギにのしかかってるのを見て、さすがに心配になって来たユズハだった。彼の肩を抱いたまま、首筋を撫でてやる。


「何だよ、嫌がらせ?さわんなよ、気持ち悪い」

「いや、猫はこう喉元とか、デコとか撫でると悦ぶから」


 そう言って、額を撫でた。


「うるさい!さっさと戻れ!校門が閉まる!」


 当然のように蹴られるユズハ。


「いってえな。ちょっとテンションあげてただけなのに」

「何の?」

「いや。……そうだ、メール届いてただろ?予約しといたから」


 再び、腹に一発蹴りをいれられる。

 そのまま黙ってナギは、一人で校門を抜けてしまった。


「いって……。へこんでんな、思ったより。予想してたこととはいえ……」


 ユズハは走り去るナギを眺めながら、呟いた。


「たまには、良いけどね」


 校門の前で、立ち止まる。


「……ユズハって、ホントにずるい。ナギが逃げられないようにしておいて、その上でああやってあの人を振り回す」


 そこで待っていたのはヒジリだった。


「それなら、ナギの前に現れたら良かったんだ。『実はこそこそ会いに来ました。彼とは中学生の時から、何回も』って言えばいい」

「そうしたら、ちゃんと言うの?『君の妹が中学生の時に隠れて手を出してますが、つき合う気はありません』とか?」

「『私も退屈しのぎ程度にしか考えてないって言うかー』って?」

「『気に入らないんだ、お互いに。だから、見張るために、ついずるずる……』」


 二人揃って、お互いを睨み合っていた。


「こんな所でする話じゃないわ」

「そうだな。深夜休憩とかってこの辺あんのかな?もう2時近い。意外と時間かかったしな」

「あら、そう言うとこばかり使ってるのね、ユズハって」

「相手にあわせてるだけだよ」


 ナギにも、マドイにも、彼らは何も話す気はなかった。

 二人並んで、学園寮がある方とは反対に歩いていく。


「エイジ、それ以上前に行くと、ばれるよ。田所さんてすごく見てるから」

「でも、この距離じゃ、なに話してるかわかんねえぞ?」

「見つかったら……修羅場だと思うよ、あの感じは」


 やっと前を歩く二人が知り合いだと判る程度の距離でユズハ達を見ていたのは、カナタとエイジだった。

 ホテル街に入っていく二人を追う。適当な店を選んで入ったのを確認したところで、エイジは大きくため息をついた。


「何だよ、やっぱり出来てんじゃんか、あの二人。なんか、人間関係めんどくせえよな……」


 いつまでもこんな判りやすい店の前にいるのも恥ずかしいので、急いで戻るようエイジは促す。


「……何でめんどくさいの?フツーに考えたら自然じゃない?だって、いくら通ってる道場の師範代とか、友人の妹だからって、田所さんは赤の他人じゃん?相手が彼女だって話なら、わざわざここに入学してまで真相を掴もうとするのも判るけどなあ」

「フツーならね。でも、中緒兄の様子見たろ?『うちの妹に!』ってすげえ剣幕」

「でも、そんなのはシスコンの範疇じゃない?マドイも、ヒジリさんは可愛いから、ナギさんも自分も心配だって言ってたし」

「だったら余計に、つき合ってんならそうだって言った方がいいじゃん。田所さんが相手なら、中緒兄だってそんなに怒らねえし、姉もそんなに言わねえだろ?」


 カナタは、今日のマドイの台詞を反芻するかのように一つずつ思い出す。


「そうだね。マドイは田所さんのことをすごく信用してた。あの人なら大丈夫、みたいな感じで。……そっか、それなら言った方がいいのか」

「しかもさ、あの態度だったのに、何でホテルに行くかね?だって、『敵だ』って言ってたんだぞ?しかも、お互いのことはいっさい言わずに『ナギがナギが』って繰り返すの、何あの二人!気持ち悪い!」

「……聞いてみたら?本人に」


 カナタは真顔だった。


「聞けるか!もー、何でそう言うところで抜けてんだよ、お前は!」


 叫んでしまった場所が、急いで戻ってきた学園の門前だったので、思わず口を塞ぐ。急いで寮へ戻ろうと、小声でカナタに指示し、彼の手を引っ張った。

 寮の部屋の扉を閉め、不思議そうな顔で自分を見るカナタの顔を見て、彼はどっと疲れが出たのを感じた。


「別に良いじゃん。ヒジリさんと田所さんがつき合ってようが、いまいが」

「まあ、確かにそのこと自体はどうでも良いけどよ……。そこ二人がこっそりつき合ってるってコトは、あの連中の言ってることとか、関係とかでウソが多くなるってコトだ。お前はいつの間にか中緒姉とも仲良くなってるし、中緒兄の所に日参するような真似してるから……だから!」

「だから?二人とも関係ないし」


 何もわからないといった顔で、ベッドに座るカナタ。


「関係ないけど、中緒妹も田所さんも、あの二人とメチャクチャ近いだろ?特に、中緒姉妹は第2ステージでリーチかかってるから、オレ達にも関係あるし」

「外の人間関係と、ゲームは関係ないって言ってたじゃん」

「だから、お前が!」


 そこまで言って言葉に詰まってしまった。


「まあ、良いよ、判んないなら。でも……もうあんまり、中緒兄妹に近付かない方が……。お前、このゲームで『望む力』ってのが欲しいって言ってたじゃんか。だったら、関わるのは得策じゃない気がする。他のことにとらわれて、巻き込まれたら、余計に疲れるだけだし」

「そうかな?」

「そうだって!ただ前を見て、闘い続ければ良いんだよ、お前は」


 そうしてるとき、楽しそうにしてたじゃないか。

 エイジは祈るように、彼を見つめた。知らぬ間に床に座り込んでいた。


 そう言ってしまったとき、気付いてしまった。


『お前は、……前だけ見て、闘い続けろ』


 田所柚葉は、彼の望む相棒にそう言っていた。


「でも、いろんなことを知ってた方がいいって。今日だって、オレ、マドイと話してたときに困ってたんだよ。あの子すぐ怒るんだよね。気が短いし強いんだ。エイジがいたら、多分、彼女がなに考えてるか判るんじゃないかって思っててさ」

「だろ?やっぱさ、お前には、オレが必要だって。オレがフォローしてやるって……」


 気分が悪くなってきた。カナタに対して出る言葉が、ユズハがナギに対して言う言葉と同じなのだ。


『オレがフォローしてやるよ。お前のフォローは、オレにしかできない。判ってんだろ?』


 その言葉の真意を、エイジは理解する。

 ユズハが望んでいるモノが、エイジにははっきりと判った。

 彼もまた、自分が持つ思いと、同じモノを持っている。


 だとしたら。


『まあまあ。きっとオレが役に立つこともあるさ』


 吐き気すら覚える。彼の、自分の浅ましさに。

 そして、彼が自分を含め、全てを知りながら動いていた事実に。



「エイジ、生きてる?顔真っ青だし、こんな所に座り込んだままで。昨日、騎士やって疲れてんだろ?」


 カナタが座り込んで俯いたままのエイジを心配して、彼の前で屈んだ。

 彼の脇に手を入れ、一緒に立ち上がらせる。


「……な、なに?」

「いや、具合が悪いのかと思って」

「何で立ち上がらせる?」

「もう遅いし、寝ないと」

「大丈夫だから。うん、大丈夫、良いから」


 カナタから少しずつ距離をとって、着替えもせずにベッドに潜る。


「……そう?真っ青だったけど」


 本人が良いなら良いか、と思い、カナタもベッドに戻る。


「エイジ、今度マドイと話をするときにおいでよ」

「何で?てか、何で中緒姉は呼び捨てになってんだよ。いつの間にそんなに仲良くなってたんだよ」

「いや、何となくなんだけどね。さっき言ってくれたじゃん、フォローしてくれるって。オレ、彼女がなに考えてるかわかんなくて困ったんだ」

「……なにそれ、お前もレイと一緒で、あの顔にやられたか」

「ああ、ヒジリさんのことスゴイ気に入ってたもんね。でも、別にオレとマドイはそんなんじゃないけど。だって、今日初めてまともに喋ったんだよ?」


 そうだよな。と思うと少しだけ安心する。でも、カナタの方を見ることが出来ない。


「どんな子か、もっと知りたい」


 その言葉に、エイジが応えることはなかった。

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