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第5話【エイジ/カナタVSマドイ/ヒジリ】

学園恋愛ファンタジーです。BLではないですが、臭い部分も後々出てきます。お嫌いな方はご遠慮ください。ソフトエロも後々出てきます。こちらも苦手な方はご遠慮ください。

第5話 マドイ/ヒジリVSエイジ/カナタ


「……来た、『ゲーム』のメール。次のステージに上がれって……!」


 エイジの言葉に、全員が注目する。


 ちっとも続きを読まないエイジに業を煮やしたナギが、携帯をひったくるが、カナタに取り返された。


「……続きを読め」

「なんで命令口調なんだ、あんたは!……カナタ、お前には?」

「うーん……あ、入ってる」

「読んで」


 エイジは自分の携帯から目を離すことなく、カナタにそう言った。


「うん。えっと、『おめでとうございます。あなた達はめでたく第2ステージに上がることが出来ました。望む力を手に入れるまで、もうすぐです。今まで以上に闘い続けましょう』」

「相変わらずふざけた文章だな」

「ですよねえ。あ、続けます。『第2ステージは学園の中心にある広間の屋上で行われます。ゲームは1日1ゲームのみ。5ポイント先取で次のステージへの挑戦権を得られます。頑張ってください。詳しい入り方は、登録後メールで案内します』」


 本当にただのアトラクションか何かの案内のようなメールに、ユズハは不信感を抱く。

 エイジは固まったまま、携帯を握りしめている。


「『第2ステージでも第1ステージと同様に、王と騎士が必要です。申請フォームはこちらから』……だそうです。エイジのメールも一緒だろ?」

「……ああ。同じだ。ついでだから登録するか。試しにどんな感じかやってみないといけないし。お前のケガが治るまで、オレが騎士で良いだろ?」

「最初だけね。オレ、登録しとこうか?」

「いや、良い。オレがする」


 そう言って、カナタの携帯を閉じさせると、せわしなく自分の携帯を触る。


「さすがに人数が少ないみたいだな。候補日出せって。……ま、近いうちならいつでも良いだろ。どう?」

「いいよ」


 ユズハは、エイジの様子を伺っていた。なんというか、不審な動きをしているように見えたからだ。


「木津、番号教えて。メルアドでも良いけど」

「なんですか、唐突に。電話してまでオレから何か聞き出そうって言うんですか?もう、何もないと思いますけど」

「いや、君らが上に進んだ以上、重要な情報源だし。それに、オレ達が上に上がるまでは、敵になることもないんだから、良いじゃないか」

「なんでオレですか。こないだカナタの連絡先、聞いたでしょう」

「橘じゃ話にならないんだよな」


 そう言って、エイジから無理矢理携帯を奪うと、勝手に操作する。しかも、どうやら自分のメルアドへエイジの携帯から勝手に個人情報を送ったらしい。


「田所さん、それどうなの!?」

「まあまあ。ナギのと同じ機種で助かった」

「あんた、所詮中緒兄のお仲間だよな!」

「くおら、エイジ!聞き捨てならねえぞ、その台詞」

「まあまあ。きっとオレが役に立つこともあるさ。もっと柔軟に考えなくちゃ行かんぞ、高校生」


 笑顔で携帯を返すユズハ。


「そう言う問題じゃねえだろ、おい!!」


 大人二人に振り回されるエイジだった。


 しばしの雑談のあと、カナタが「また会いに来ます」と残して、二人は去っていった。

 動くのも面倒なので、隣同士に座ったまま、ナギとユズハは話を続ける。


「なんで、エイジと連絡とろうと思ったの?ユズハ、めんどくさがるじゃん、電話とか。それに、あいつらが上に行ったんなら、オレ達はあいつらに追いつくまで、関係ないと思うけど?それに、カナタだっているし」


 ユズハの行動が不愉快で不可解なナギ。


「いや、別に連絡先はどっちでもよかったんだよね。確認したいことがあったって言うか……」

「なに?……あ、ついでに追加注文して。オレ、甘い物食べたい」

「もう夕飯の時間だからやめとけ。移動しよう、長居してるし。最近あっつくなってきたから、ざる蕎麦とか食いたい」

「まだ5月の中旬だ。暑いとか言うの、早いって」


 そう言いながら、店を移動しはじめる。

 歩きながら、徐々に学園を離れ、二人でそば屋に向かう。寮に戻れば夕食も用意されているはずだが。


「だから、木津の様子がおかしいの、気付いた?」

「さあ?」

「橘にメールを読ませただろ?自分で読めばいいのに、わざわざ。なんでだと思う?」

「全然判らん」

「ちったあ考えろ」


 どうやら気に入った店を見つけたらしく、答えを言わずにユズハは店に入った。それを追いかけるナギ。


「ざるそばとヅケ丼ね」

「オレ、おろしエビ天蕎麦」


 席に座り、注文した後も、ユズハは喋らない。仕方ないのでしばらく考えた振りをするナギ。


「……判った。エイジのメールは、カナタと違ったんだ。だからお前、確認のためにあんな真似」

「まあ、そんな気がしただけなんだけどね。わざわざ確認のように読ませるからさ」


 また煙草を吸おうとして、ナギに止められた。


「で、どうよ。違ったのか?」

「違ったけど、大した違いじゃない。気にするほどの内容でもなかった」

「あ、そう。なんだ。なんか判ると思ったのに。でも、なんで違ったんだ?」

「さあね。ただ、主催者側は、確実にゲームの駒を一つ一つ見てるってコトさ。事務的なメールを送るフリしてね」


 ふうん、とナギは気のない返事をした。

 ユズハが何かを隠していることに気付いたことを、彼に隠すために。


「オレにもエイジのアドレス教えて。アイツ、一度躾んと」

「お前ね。ホントそう言うところ細かいよね。お前の方がよっぽどオレ様だし常識ないと思うけど」


 そう言いながら、気にせずエイジのアドレスを見せてやる。


「……それにしても、カナタは拍子抜けだった。もっとなんかしつこく聞かれるかと思ったけど。そもそも、なんでアイツ、オレと話がしたいとか言ったんだ?オレに負けたから、惚れちゃったかな?オレ様の強さに」

「かもな。失敗とかしたことなさそうな顔だもん、あれは。負けたのも初めてみたいだし」

「ケンカもしたことなさそうな顔だしな」

「顔で判断するのはどうだろね。おとなしそうな顔してるけど、結構、ケンカ慣れしてるだろ、アイツ。それに……」

「そうだな、ちゃんと鍛えてる動きしてたな。エイジはそう言う感じはなかったけど。ただケンカ慣れしてるだけ」


 それが昨夜見たゲームと、自分が戦った感想だった。だからこそ、昨夜見た中学生達には拍子抜けしたのだけれど。


「オレとお前が交互に闘い続けたら、すぐに次のステージなんかあがれちゃいそうじゃねえ?カナタ達で6連勝なら、そんなレベルは高くないってコトだからさ。楽勝楽勝」

「戦うのはお前だよ。オレは玉座でだらだら見てる。あんまりかっこわるい戦い方したら、憐れんで交代してやるよ」

「ひでえね。まあ良いけどね。オレとお前だったら、無敵じゃん☆」

「そうだな」


 そう言って、ユズハは笑った。

 ユズハもまた、エイジと同様に、『望む力』など望んでいなかった。



 カナタ達の第2ステージ初戦の申請が通ったのは、翌週の半ばになってからのことだった。

 あれからカナタは毎日のようにナギの元へ通っていた。


「……カナタさあ……中緒兄の所に通ってたわりに、なんもしてなかったし?」

「そうでもないよ。お話ししてた。面白いよ、ナギさん」

「面白い、ねえ。あのオレ様でお子さまな人が?」


 そう言いながら、エイジは広場の管理室の扉を開けた。

 普段は誰か必ずいるはずなのに、今日はご丁寧に鍵まで開いている。


 『学園中央の広場に隠しエレベーターへの扉がある』メールにはその案内がしてあった。この管理室は、そこへの入口だともあった。


 各学部の校舎がこの広場を囲うように建っている。何か大きな式典があれば、全校生徒がこの場に集まることもある。それくらいの広さはあった。

 広場は全天候型で外から見るとドーム上になっている。こんな所に『ボード』があるとでも言うのだろうかと疑問に思ったが、今までだって、不思議なことはいっぱいあった。


 もうこんなコトには慣れっこだ。エイジとカナタは、ためらわずに管理室奥に隠されたエレベーターに乗った。


「あの人の強さを、知りたいんだ」

「強さ?だったら、なおのこと、戦ってみるとか。それか、あの人合気道の師範代だって言うなら、稽古つけてもらうとかさ」

「あ、それも良いかも。でも、そうじゃない」


 カナタが見ているものが、エイジには理解できなかった。

 沈黙のまま、エレベーターは目的地に到着する。


 第2ステージのボードは、一本橋だった。エレベーターの出口からすぐ、ボードが広がっていた。幅1メートルくらいの橋が、カナタ達の出てきた場所から、ボードの橋まで延びている。そこにはもう一つ出入り口があった。

 橋の両脇は、ただただ闇が広がるばかり。

 ボード自体は、広場を考えると、そんなに広くない。直径50メートルといったところだろうか。


 橋を一歩ずつ進んでいくと、もう一方の出口に対戦相手が現れた。


「……ナギさん!?あれ?でも髪が、服が……」

「バカ、違うって!あれは……」


 普通科で有名な中緒姉妹だった。高等部の制服に身を包んでいた。エイジは何度か見たことがある、もちろん話したことはないけれど。

 前を歩いている凛とした雰囲気の少女をみて、思わずカナタは『ナギ』と言ってしまった。顔の作りがそっくりだったのだ。しかし、与える印象が全く違う。


 健康的な肌色で、少年的な印象を与えるナギに対して、同じ顔の作りにも関わらず、少女の与える印象は女性そのものだった。


 長くのびた漆黒の髪、雪のように白い肌、血のように赤い唇。すらりと伸びた手足もあわせて、何だかおとぎ話に出てきそうな女だと思った。


「前を歩いてるのが双子の姉の『惑』だよ。後ろにいるのが……」

「『聖』です。はじめまして。ナギのことを知ってるの?二人とも」


 姉の後ろを3歩下がって静かについてくる様は、深窓の令嬢といったところか。マドイやナギとは顔は似ていないけれど、彼女もまた、充分すぎるほど可憐で美しい少女だった。こんな少女が二人揃っていたら騒がれるのも無理はない。


「ナギさんとは、こないだ第1ステージで戦って負けちゃったんで」

「そう。ナギは強いから仕方ないわ。ね、マドイちゃん。でも、マドイちゃんは油断しちゃダメよ?」

「うん。わかってる。あの人、強そうだもんね」


 そう言って、マドイはカナタを指さした。


「あ、ごめん。でもオレ、今回騎士じゃないんだ」

「あんたんとこの兄貴にやられた傷が癒えないんでね」


 嫌味っぽくエイジがそう言うと、マドイは苦笑いした。


「だったら、余計にだわ。兄さんが加減しないってコトは、それだけその人が強かったってコトだもの」


 彼女の瞳はまっすぐカナタとエイジを射抜く。


「……うーん……。やりにくいな。美少女だよ。どきどきするねー。しかも、あのスカートはどう?よくない?」

「そうだね、見つめられちゃったしねー。あんまり変なこと考えてると、ナギさんにまた殴られるよ?」


 二人が笑い飛ばしていると、一本橋の真ん中、ちょうどエイジとマドイの間に『審判』の柱が現れた。どこから生えているのか、下部から徐々に光が登ってくる。


『カードの確認を行います』


 柱から聞こえた。やはり女の声だった。


『王カナタ、騎士エイジ。各0ポイント、今回が初戦になります。相違ありませんか?』


 どうやら第2ステージに上がると、第1ステージで稼いだ分はなくなってしまうらしい。それを了承して、カナタ達は返事をする。


『王ヒジリ、騎士マドイ。各5ポイント。相違ありませんか?』


 あれ?とエイジは違和感を感じた。その正体はすぐに分かった。

 ポイントの確認を行ったくせに、彼女たちには何ゲーム目かを審判は告げなかった。


「相違ありません」


 マドイは答えず、ヒジリが柱の声に答えた。


『武器を取ってください』


 エイジは一瞬ためらったが、武器を手にした。

 前と変わらない。長槍が現れる。

 マドイの手にはダガーがあった。


『柱が消えたら、開始になります。王は玉座に移動してください』


 審判の声と共に、カナタとヒジリの後ろにそれぞれ一つずつ、肘掛けのついた椅子がせり出してきた。二人はそれに腰掛け、それを合図に柱から色がなくなり、姿を消し始める。そして、柱と同時に、彼らが入ってきた出入り口も消えた。


 エイジは、油断をしたつもりはなかった。それどころか、彼女たちに警戒すらしていた。


 柱が言った微妙な違い、そして、この第2ステージで既に5ポイントとっている。これだけでも、彼女たちがただ者ではないことが判る。

 だから、慎重に向かっていったつもりだった。


 しかし、それは通じなかった。


 彼女は軽やかにステップでも踏むかのようにエイジの横に現れ、スカートからのびる白い足で、彼の背中を蹴り飛ばした。そのまま彼を土台にして、カナタの元へ走った。

 カナタもまた、思わず構えたが、ルール上、動けない。


 マドイの蹴りが、カナタの座っていた玉座に炸裂する。


「ウソだろ……」


 思わずカナタが呟いてしまったのも無理はない。スカートが翻るのも気にせず繰り出された彼女の蹴りは、カナタが座っていた玉座を破壊していた。その勢いで、カナタは玉座から転げ落ちた。


王手チェックメイト。勝者、ヒジリ・マドイ組』


 一本橋の真ん中から、マドイを追いかけようと起きあがったばかりのエイジの動きが止まった。あんまりな決着の付き方に。


「スゴイ……」


 カナタはふるえていた。


「こんなことって……、あるんだ!なんで?マドイさん、これって、ナギさんに習ったとか?」


 転げ落ちたカナタに、マドイは手をさしのべた。カナタはためらわずにその手を取った。


「ごめんね、ケガしてるのに酷いコトして。この方が早く決着が付くから。酷くなってない?」

「いや、これくらいなら慣れてるし。そうだね。王は動けないから、この方が効率的だしね……。そうじゃなくて、何でそんな動きを?」

「そうだよ。兄さんに習ったの。あの人、すごいんだから。かっこいいのよ」


 そう言って笑った彼女の笑顔は、とてつもなく可愛かった。少なくともカナタには。


「そうだね。ナギさんは、かっこいいよ」

「……かっこいいかあ?あの人」


 一本橋の真ん中で、座り込んだまま、エイジがいやそうな顔でつっこんだ。


「かっこいいのはマドイちゃんよ!今日もすっごくよかった、素敵ね!」


 手放しに誉めてくれるヒジリに、マドイは顔を赤くして照れた。


「ナギがかっこよくないって言うのには、同意するわ」


 穏やかで柔らかそうな少女は、そのままのイメージでエイジに微笑んだ。

 エイジは、その少女の笑顔を心から信用する気にはなれなかったのだけれど。

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