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第31話【続・レイ】

 立ち上がったついでに、カナタの隣に座り直すマドイ。ヒジリはエイジの横に座った。


「どこまで進んだの?マドイちゃん」

「……えっと……」


 突っ込まれ、ノートとヒジリから目をそらすマドイ。カナタは隣で苦笑い。ヒジリもかなり困った顔をしていた。


「ヒジリさんはいいの?やらなくて」


 余裕たっぷりのヒジリに突っ込むエイジ。


「夜、マドイちゃんと一緒にやりますから」


 夜もやるのか……と、マドイが少しだけ嫌な顔をする。


「……ヒジリちゃんに、教えて欲しいな。普通科の方が先に進んでるんだろ?」


 エイジの頭を乗り越え、ヒジリに話しかけるレイ。頭上から必死さが伝わってきて、レイがかわいそうになってきたエイジ。


「でも、そろそろ戻らないといけないんじゃないですか?もう7時半過ぎてるし」


 時計を見ながら、心配そうにしてみせるヒジリ。彼女の携帯が鳴り響く。


「ごめんなさい、ちょっと」


 席を外し、携帯片手に店を出るヒジリ。名残惜しそうにレイが見送る。


「……残念。相手、誰だろ。オレも番号……」

「ユーちゃんだよ、今の着メロ」


 判りやすく嫌そうな顔をしたのはエイジ。その隣で、レイも落胆した顔を見せる。


「……なあ、マドイ。お前はもしかして、みんな判ってて、何も言わないのか?」


 エイジが真剣な顔して、マドイに詰め寄る。それを見てカナタは少しだけ動き、彼らに手を伸ばしたが、困ったような表情を見せながら引っ込めた。


「……判っててって?」

「だから……ヒジリさんのこととか」

「……私は……」

「知ってるんだよね。ヒジリさんが誰を思い、何を考え、君の知らないはずの場所で何をして、何を目的で動いているのか」


 カナタの言葉に、マドイは戸惑いながらも頷いた。


「意味わかんねえ。だって、ヒジリさんて……」


 そこまで言って、隣のレイに気を遣った。


「いいの。ヒジリが決めたことだから」


 彼女はまっすぐ、エイジを射抜く。やっぱりエイジはその行動をずるいと思ってしまった。

 あの、小さくても強い兄に惹かれる彼女たちの気持ちは、分からないでもないけれど。


「マドイは、ヒジリさんのために動いてる。彼女を守るためだけにね。マドイにとって、ヒジリさんは全てだ。そうだろ?」


 マドイはカナタを見つめながら、彼の言葉に頷いた。


「どうして?カナタはなんで、私のこと判っちゃうの?私、そこまで言ってないのに、どうして?」

「どうしてだろうね」


 カナタは苦笑いをする。その顔を、エイジが少しだけ切ない思いを抱きながら見つめる。

 今の彼が、まっすぐに彼女だけを見つめていることを、エイジは理解した。


「他の人が何を考えてるか、オレには全然判らないんだけど……マドイのことなら、判るよ」

「私のことだけ?」

「うん。会ったばかりのころは、全然判らなかったんだけどね」


 穏やかなカナタの顔に、少しだけ悪意が表れる。


「だから、君がヒジリさんのことばかり考えてるのも、判ってる」

「……私には、カナタが何を思ってるのか、カナタが私のことを理解してくれてるほど判らないけど……私もカナタのことは知りたいよ」


 彼女の言葉に、エイジが目を伏せた。

 カナタも少しだけ躊躇したが、ゆっくりと重い口を開く。


「そう言ってくれると……」

「マドイちゃん!」


 ヒジリの声に、カナタはそれ以上言うのをやめた。彼の表情は変わらない。


「もう帰ろ?遅いし。ね?」


 突然戻ってきて、突然そう言うヒジリに、マドイは少しだけ驚いたが、笑顔で頷いた。


「カナタ、また明日ね。エイジも」


 こころなしか後ろ髪引かれるような表情で、彼女は手を振り、ヒジリに引っ張られるように店を出ていった。


「……つーか、何さ今の。エイジって、なんかすごくない??」

「なんでオレがすごいとか言う話になる?カナタの態度が恥ずかしいって話じゃねえのかよ」

「え?!オレやっぱ恥ずかしい態度だった!?かなり考えたんですけど」

「てか、確かにつき合ってないけど、それ以上に恥ずかしいカナタはとりあえずおいといて!」

「……それ以上に恥ずかしいんだ……。しかもおいとくんだ。なんか酷くない?」


 少し落ち込むカナタを無視して、レイはエイジに話を続ける。


「何あれ。君はどこまで彼女たちの秘密を知っているのだ?あの、意味深な会話はなに??しかも、ヒジリさんともフツーに仲良さげに喋ってるし。確かに、エイジって顔広いけど、ひねてるじゃんよ」

「ひねてるってなんだ?!しかも、関係ないし!」

「だってさ、ヒジリさんて、カナタとはほとんど喋ってなかったのに、エイジとはすげえ普通に喋ってたんだよ?オレも結局一言かわしただけだし。それだけでもすごいのに、何、マドイさんに対してのあの突っ込み。オレは何でも知ってます、みたいな」


 レイにそう言われて、カナタとヒジリがほとんど会話を交わしていないことに初めて気付いたエイジ。


「カナタって、ヒジリさんと喋る?なんか覚えてる?」

「ぜんぜん?」

「……つーか、どっちかっつうと、敵視されてる気がしてきた。警戒してるだけじゃなかったんだ」

「敵視?うーん……されてるかもね」

「なんでカナタが敵視されなくちゃいけないんだよ?」

「だって、カナタはヒジリさんからマドイを奪う、悪人だからってことだ」

「奪うって!!別に、姉に彼氏が出来るくらい、いいじゃん。だって、あの子本命いるんだろ?田所さんと出来てんだろ?!」


 そこまで自分で言っておきながら、その言葉に大きく落胆するレイ。仕方がないのでエイジとカナタが慰めてやる。

 慰めながら、ヒジリがわざわざ、カナタとマドイの仲を自分の所に探りにきていたことを思い出した。


「……まあ、カナタもヒジリさんのことは敵視してるし、お互い様か」

「別に、オレは敵視なんてしてないよ」

「でも、彼女がいるせいで、マドイがお前のことを全く、全然、顧みようともしてないことくらい、さすがに気付いてるだろ?あんだけマドイのこと理解してるなんて言い切る位なんだから」


 少しだけ嫌味の混じったエイジの台詞に、カナタはやっぱり苦笑いしかできなかった。


「そんなこと無いよ。彼女はオレのことも見てる。でも、何かあったら、彼女は迷うことなくヒジリさんを選ぶ。それだけだよ。そんなのは、オレと出会う前からそうだったんだし」

「じゃあ、なんでそんなにヒジリさんのこと警戒してるんだろうね」

「エイジこそ」

「お前ほどじゃない」


 エイジの表情が、不気味なくらい真剣で、端で見ているレイは怖かった。


「なんで、カナタもエイジもそんなに怖いんだよ。どうして敵を作っていこうとするかなあ?そんなに戦いたい?」

「戦いたい訳じゃないって、ただ、カナタが……」

「でも、オレにはあえて二人が敵とか戦いとか、そう言うもんでいろんなモノを誤魔化そうとしてるように見える。別にいいじゃん、ヒジリさんを警戒するとか、しないとか。敵視するとかしないとかさ。単純に、カナタはマドイさんが好きなんだろ?エイジはそれが心配なんだろ?それで良いじゃん、もうめんどくさいな」

「君は良いこと言うね」


 その声の主を3人で一斉に見つめる。カナタの隣に座り、悠々と煙草を吸っているユズハだった。


「……田所さん、いつからいたんですか」

「その子が『そんなに戦いたい?』って言うところくらいから。いいね、君は。地に足がついてる感じで。なんて言ったっけ、君?たまにこの二人と一緒にいるよね。ゲームの終わりにも」

「……周藤励です。一応、話を聞いてましたから」


 横柄で、図々しくて、自分勝手で、我が儘な子供だ。しかも、興味のない人間に対して容赦がない。

 レイの中にあった田所柚葉像は、ますます悪くなった。元々、エイジ達の話を聞く限り、ユズハは彼から見てけして良い人間ではなかったのに、余計に。


「人生をめんどくさくするような真似、しない方がいいに決まってる。自分がしたいことは単純明快、まっすぐの道だけ」


 レイはそのユズハの意見におおむね賛成だったが、この子どものような人の言葉には、素直に賛同できなかった。


「そうだなあ。マドイももう高校生だもんな。早いよなあ、月日がたつのって」

「おっさん発言ですよ、田所さん」

「でもさ、オレはあの子達が生まれる前から道場に通っちゃってるからね。なんか親のような気持ちなわけよ」


 娘だか妹だかのように思っていた女に、手を出すのかあんたは!!と力一杯突っ込みたかったが、怖くて出来ないエイジ。


「なんか、ナギも気付いてるみたいだし。まあ良いかなって。でも、あの子に酷いことしたら、オレもナギも黙っちゃいないけど」

「……随分、姉妹で扱い違うんですね。マドイのことは溺愛してるんだ」

「マドイはヒジリみたいにひねくれてないし。素直で可愛い、いい子だよ。知ってるだろ?だから、オレだって、あの子のことは目の中に入れても痛くないさ」


 エイジの言葉に、人の悪い笑みを浮かべて答えるユズハ。エイジの不愉快さは増し、嘔吐感が襲ってくる。

 ユズハが二本目の煙草に火をつけ、ゆっくりと吸い込む。窓の外を見つめていた。


「まあ、遅かれ早かれ、あの子達には嫁に行ってもらわんとね。ナギの肩の荷が下りないから」

「……保護者か、あのちっこいおっさんは」

「相当過保護のね。あの子達が無事に嫁に行くまでは、安心できない訳よ、あいつは。バカだねえ、出戻ってくる可能性だってあるのに、いつまで責任を抱えるつもりなんだかね」

「ナギさんは……」

「お前の話は聞かない。橘はナギを孤独な英雄にでもするつもりか?」


 ユズハの言葉の意味をきちんと理解は出来なかったが、カナタは自身の今のナギに偏っている心を指摘されたのは理解できたので、黙ってしまった。

 おそらく、何を言っても、ユズハは彼に宣言したとおり、彼の言葉は聞かないだろうし。


「聞かないって、酷くないです?」


 責めるエイジの言葉も、当然のように無視。


「田所さんて、子供っぽいですね。なんか」

「そんなこと言うのは、君かナギだけだよ。いいね、周藤君は」


 笑い飛ばす。何だかバカにされたようで不愉快な気分になり、レイはふてくされた。


「誉めてるんだよ。言ったろ?地に足がついてる感じがして、良いねって。重いモノも、浮き足立つようなモノも、君は背負ってない。だから、きちんと地面に足をつけて歩いている。人はよく、自分を見失うからさ」

「誉めてるんですか?それ。なんかオレ、つまんない人間みたいに聞こえるんですけど。何も持たないっていう」

「誉めてるよ、しかも手放しでね。持ってないわけじゃなくて、バランスが良いんだよ。限界を超えると言うことは、成長のためには必須だけど、破綻することだってある。破綻したときに、君は支える側の人間になれる」

「皮肉たっぷりに聞こえます」

「それは、オレが君を羨んでるからだね」


 そう言われて、何だか腑に落ちないけれど、手放しで誉めてるという言葉だけ納得できたレイ。


「人が悪いですね。なんか田所さんって」

「何を今さら」

「悪びれないところが余計に」

「開き直ってるんだよ」


 レイの言葉に、笑顔で応対するユズハが、余計に不気味に見えてきたエイジ。


「エイジ……?」

「なんだよ。何でそんな顔してんだよ」


 明らかに心配そうな顔でレイに覗かれていたエイジは、思わず彼を突っぱねた。カナタも、そんなエイジに手を伸ばしかけるが、やはり引っ込めてしまう。


「何しに来たんですか?」

「何しに来たと思う?」


 煙草をくわえたまま、質問するレイの顔を見ずに、窓の外ばかりを見ていた。

 エイジには、彼がここに来た理由が判っていたのだけれど。

 そして、ユズハには、エイジがそのことに気付いていることが判っていたのだけれど。だからあえて彼の目を見なかった。


「……あ、そうだ。ついでだからさ、木津兄の携帯、教えてよ」

「うちのバカ兄貴の番号なんか知ってどうするんですか?」


 彼もまた、ゲームの駒だから。

 ユズハがそう言うのは判っていたけれど。


「ほとんどつながりませんよ」

「なんで?」

「よく電池切らすんですよ、あのバカ兄貴」

「音信不通?!そんなんで良いのか?」

「勝手なんですよ、昔から。連絡もほとんどしてこないし、してきたと思ったら、いきなりだし、わけ判らんし、突然また音信不通になるし。今だって、どこにいるんだか判んないし。この辺にはいるらしいですけど、神出鬼没だし」


 頭を抱えるエイジ。思わず納得してしまうユズハ。


「てか、エイジにも教えてないの?お兄さん」

「つーか、突然過ぎんだよ、あのバカは」

「ナギさん、知らないのかな?」

「ナギは東山のユースホステルにいるっつってたけど、そこにそんなヤツはいなかったし」

「わざわざ調べてんすか?!なんか、ストーカーぽい」


 自分が嫌がって言わなかったことを、あっさり本人に突っ込むレイに驚くエイジ。


「ストーカーじゃないよ。敵情視察だよ。戦略の基本だろ?」

「あ、そっか。敵だよね。そっかそっか」


 ゲームのことをしきりに聞いてくるわりに、時々そのことが頭から抜け落ちているようだった。


「だって、明らかに怪しいし、木津兄は。木津は兄から何か聞いてない?」

「何かって?」

「ヤツが昔、組んでたパートナーだよ。一個上の奴だって言うから、オレと同い年のはずなんだけど、当時木津と仲の良いヤツで、めぼしいヤツがいないんだよね」


 そんなことを言われても、エイジには判らなかった。エイイチロウからそんな話は聞かないし、話す機会もなかった。彼の兄は、いつも一方的だったから。       

 

「なんで、あのうちのバカ兄貴が怪しいと?どういう意味で?あいつ、ホント考えなしですよ?行き当たりばったりだし、人の迷惑考えないし。そんなこと考えて、こんな所に来るとは思えないし」

「そうだな。でも、ずるさはあるし、考えてるつもりらしいし、世渡りもそこそこうまそうだけど。弟よりはね」

「あいつよりはマシですけど?」


 明らかに怒っているのが判っていたから、ユズハはエイジの顔を見なかった。そして、そんな顔を見られるのを恥じているのも判っていた。

 彼は、そんなエイジの微妙な心の変化を、不思議に思っていた。


「君はさ、兄貴が嫌いなの?好きなの?どっち?」

「別に、兄ですから」

「3年音信不通でも?」

「まあ、そう言うヤツですし」

「ふーん。判らんなあ、その感覚は。でも、確かにナギの持つ兄妹感は重すぎる気がするし、橘じゃ兄妹がいるのかすら判らんし」


 彼は人数だけなら多いはずなのに、家族がいる匂いすらしない。ユズハにはそう見えていた。


「エイジは口が悪いし偏屈だから、なんか兄弟仲も口より手を出した方が早いって感じだけど、でも、こんなモンって感じもする」

「口が悪いとか、いちいち五月蠅いって」

「だって、手も早いけど、口も思いっきり出すじゃん。兄弟喧嘩時のあのマシンガントークっぷりは見てて清々しいくらいよ?」


 レイの言葉に、カナタが黙って頷いた。


「清々しくはないが、まあ、あれくらいの距離感てのは健全な気がするな。その健全な距離感から生まれる、あの兄貴に対するフィルターを取り去って、あいつを見れないのか、お前は?」


 煙草を取り出すついでに、ちらっとエイジを見たが、すぐさま窓の外に視線を戻す。


「フィルター?」

「そう。お前は、あの男をかばってる。同じように、ナギも彼をかばってる。数少ない友達だから。でも、端から見たら、彼は怪しすぎる。周藤君なんかはどう思う?見てたんだろ?木津兄弟と、ナギと橘が戦ったとき」

「……変だけど」

「どうして変だと思う?」

「なんか……ルール違反って言うか……ルールを作ってる側にいる感じがするって言うか……」


 レイの言葉に、エイジの顔色が変わる。

 ユズハは彼の顔を見ていないのに、その表情の変化を敏感に感じとっていた。

 思い沈黙が、彼らの間を流れる。ユズハですら、手に持った煙草を灰皿に捨てることすら躊躇っていた。


「気にすることない」


 沈黙を破ったのは、カナタだった。


「別に、お兄さんが何してようと、エイジに敵対してるわけでも、害をなそうとしてるわけでもない。それどころか、エイジの望みを叶えて、一緒に戦ってくれたんじゃないの?」


 カナタの言葉に、何故か喜んだのは、レイだった。黙っていたけれど、彼にもっと喋るように、体を使ってアピールする。


「お兄さんは、確かに田所さんの敵かもしれないけど」

「ナギの敵かもしれないけどー」

「ちょっと黙っててください!」


 レイに一喝され、思わず彼らの方を振り向いてしまうユズハ。驚いた表情だったが、一瞬の後、吹き出していた。


「エイジにも多分、腑に落ちないところはたくさんあるのかもしれないけど。でも、エイジには関係ないんだから」


 カナタの言葉に人の悪い笑いを見せるユズハを、レイが睨み付ける。それを見て、ますます笑いが止まらないユズハ。


「……お前が、そんなこと言ってんなよ……ったく」


 バツが悪そうに、彼は頭を振った。カナタの顔を見ることが出来ない。

 そんなエイジに、レイが大きな溜息をついた。


「なんだよ」

「なんでもない。てか、田所さん、その木津兄の先輩の話って、どっから聞いてきたんですか?」

「ナギだよ?」

「……田所さんと中緒兄って、そう言う話するんだ。敵同士じゃん!」

「敵同士だけど、するよ、あいつは」

「バカ正直ですね!」

「かわいかろ?」

「女の子だったらね。浮気とか絶対しなさそうだし、わかりやすくて」


 何気なく言ったレイの一言に、嫌そうな顔で頭を抱えていたのはエイジだった。


「そんなバカな女は嫌だよ。ちょっと判らないところがある方がそそられる」

「へー……」


 ヒジリのことを思いながら、不愉快そうな顔でユズハを睨み付けるレイ。エイジがその二人から必死に目をそらしているのを、カナタが不思議そうな顔で見ていた。


「ナギだから、良いんだよ。バカでかわいかろ?」

「ちっこいおっさんじゃないですか。躾に厳しくてえらそうな」

「そうだね」


 レイの言葉に、ユズハは満面の笑みを見せた。


「惚気てんじゃないですか……」


 小声で呟いたエイジの言葉を無視して、彼は突然立ち上がった。

 煙草を消し、席を出て、急いで店を飛び出した。


「……ホントに何しに来たの、あの人?」


 エイジが嫌そうな顔のまま、窓の外を指さして見せた。レイが身を乗り出し窓の外を覗くのを追うように、カナタも動いた。


 コトコと一緒に店を出てきたナギを、ユズハは捕まえていた。

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