第24話【続々・エイジ】
学園恋愛ファンタジーです。軽くBL臭い部分も後々出てきます。お嫌いな方はご遠慮ください。ソフトエロも後々出てきます。こちらも苦手な方はご遠慮ください。内容に偏りがあることをあらかじめご了承ください。
第24話 続々・エイジ
放課後の椿山学園大学美術学部の武道場に、ナギは黒帯を締め、正座をしていた。その向かいには、ユズハが同じように黒帯を締め、正座をしていた。
「……高等部の美術科の武道場の方が、手入れが行き届いてたな……。何だってこんな時間にやるんだ。夜だったら、あっちの武道場を使わせてもらえたのに」
普段ほとんど使われていないらしい武道場に、不満の声を漏らすユズハ。昨日は夜に練習したのに、と続けたら、ナギに睨まれた。
「今日はカナタ達に教える約束をしてるから、この時間なの。あいつらを夜、学園に呼ぶのはいろいろ面倒なんだよ。まだ高校生なんだから」
「教えるってなあ……。おまえ、一応地元じゃ金取って教えてんだからさあ」
「もう、うるせえな。文句があるなら、いちいちついてくんなよ」
「時間がもったいないから言ってるだけだよ。オレ、今日は夕方から飲み会入れられたし。……夕飯はいらないけど、夜食が欲しい」
「要求するんじゃねえ。そんなのまでいちいちオレに作らせるな」
やっとバリケードをとってもらえたと思って安心していたのだが、あの日以来、ナギの機嫌はすこぶる悪い。
当然と言えば当然の結果だし、ユズハにとってもそれは予想の範囲内だったのだが、判っていてもやっぱり辛い。
「……型稽古、しようか。どうせあのガキども、素人同然なんだろ?あいつら来たら大したこと出来ないし。何から教えるつもりだよ。歩き方?」
「心からだよ」
「師範みたいなこと言うね、お前」
「当たり前だ。オレは、あの人の後継者なんだから」
「そうだったな」
だからこそ、彼は自分に負けたことを気にしている。ユズハはそれも十二分に承知している。
『ナギ!良いからとりあえず、勝て!何とかしろ。まずその剣をたたき落とせ!』
『おう、任せとけ!最初からそう言や良いんだよ』
元々、師範に咎められるほど勝ちにこだわっていたナギだ。ユズハの強さを認めていたとはいえ、結果に満足しているはずがなかった。
『ナギ!いったん退け!』
『退くのは嫌だ!』
退くことと、負けること。それが違うのは彼も自分も判っているけれど。
こだわってることが良いとも悪いとも、今のユズハには判らない。
あの、隠居から全てを見透かしているような師範なら、答えを知っているような気がしたけれど。
「来週、道場には戻れそうか?」
何もかも判っていて、あえてユズハは道場の話をナギに振った。
「……オレは大丈夫だけど」
「そっか。オレも大丈夫だ。またバイク出せよ」
「お前、車あるんだから出せよ!」
「やだよ。オレが運転すんの嫌いだって知ってて、そう言うこと言うか?!車も小せえんだぞ?お前はミニで東名上りに乗れってか?!」
「バイクよりはマシだろうが。雨降ったらどうすんだ!?」
「でも、大型じゃねえか。下り坂も上り坂も余裕じゃねえか」
大声で言い争う二人を、カナタとエイジが遠巻きに眺めていた。
「だから、来てるんなら声かけろって!!」
「……入れないですよ、ねえ?」
カナタの隣で、エイジが頷いた。
「オレさあ……合気道って、すごく精神を大事にするって……昔なんかの映画で見たことあるんだけど。武道経験無いからあれだけどよ」
「……仕方ないんじゃない?」
「だよなー。そういやお前、マドイ連れてくるって言ってなかった?」
「何か、数学の補修があるって言ってた。おかしいな。オレ、かなり真剣に教えたんだけど……」
「普通科が一般課程で美術科に教えられてるのってどうなんだ?」
ひそひそと二人に言いたいこと言われて(半分くらいナギの話ではなかったが)、やっぱり不愉快になっているナギ。
「お前、ホントにあいつらに『心』から教える気か?」
「当たり前だ!しつけてやる。特にエイジ!」
「いや、バカにされてんだと思うよ、お前」
ユズハにだけは言われたくないな、と思いつつ。
確かに、今の自分は落ち着きがなかったけれど。それすらも、誰のせいだよ!!と思いつつ。
「お前ら、稽古着持ってる?お古でよかったら貸してやるよ。白帯だけどね。オレの昔のだから、ちょうど良いくらいじゃないか?」
「そんなの持ってきてたのか?ユズハ」
「一応ね。何があるか判んないし」
ユズハにも体の小さい時期があったのか、なんて思いつつ、ありがたく受け取り、着替えに向かう二人。特にエイジは、ユズハが木の股から生まれたくらいに思っていたので変な感じだった。
「……何か、不思議な感じだよね。どうして田所さんとナギさんて、普通に一緒にいられるのかな?」
着替えながら、その言葉がカナタから出てきた事態にエイジは驚いた。
カナタが興味を持っていること自体は嬉しかったが、あんまりあの二人の間に首突っ込んで欲しくないなあとも思っていた。
「ナギさんが……かわいそうだ」
「かわいそうねえ?自業自得って気もするけど」
「片道切符?」
「あー、何かそんなような話もしてたな、以前。あの人ら、大騒ぎしてたけど、言いたいことは判らないでもないや。だってさ、何をどう頑張ったって、時間は過ぎてくし、自分が動いたようにしか、何かは変わらない。自業自得への片道切符って、そう言うことだろ?……だからこそ人は……」
曖昧なモノにすら、すがりたくなる。
望む力なんて曖昧なものでも、万に一つの可能性があったら、叶えられる希望があったら、すがってしまう。なんて愚かで弱いのか、と自嘲気味に笑うエイジを不審そうな目でカナタは見つめた。
「ナギさんは、手の中にあるものと関係を築いていくので今は精一杯だって、その中には田所さんも入ってるって、そう言ったんだ。あの人は、なにも求めてないのに、それを壊すような真似しなくても良いんじゃないかなって。なにもわがままは言ってないのに」
「何で?中緒兄はなにも求めてないわけじゃない」
「え?」
「田所さんは変化を求めてるのに、中緒兄はそれを受け入れたくなかった。それは、田所さんから見たら我が儘だろ?中緒姉妹のことだってそうだ。彼女たちは、ここに残ることを望んでいるのに、彼は実家に戻ることを望んでる。それは彼女たちから見たら自分たちの望みを妨げてることになる」
エイジの言葉に、またナギに傾倒しすぎていた自分に気付く。ナギの弱さを、ナギの辛さを聞かされてから、感情移入しすぎてしまっていた。
そして、その辛さを自分のことのように感じるとき、カナタはマドイに会いたくて仕方がなかった。
「変化を望まないことも、欲望だし、人の思いだろ」
「……じゃあ、なにもしたくないって言うのも?」
「欲望だな。願いだろうと、欲望だろうと、人が持つ欲求だし心だろ」
願いも欲望も一緒だと、そう言ったイチタカの言葉を、何度も心の中で繰り返す。
「おい、お前ら。ナギが待ってるからさっさと行け」
「あ、田所さん……。稽古はしてかないんですか」
「お前ら待ってる間に少しだけ型稽古はしたよ。今日はこれから用事があるんだ。先に戻る」
そう言って簡単に着替え、稽古着をバッグにしまうとさっさと出て行ってしまった。二人はユズハと入れ替わりに武道場へ向かった。
「おせえぞ。着方が判らなかったのか?……変だぞ、結び目とか」
初めて着るんだから仕方がないだろうとエイジは文句を言っていたが、仕方なく直す。さすがにカナタは着慣れていた。
「袴じゃないんですね」
「白帯だからな。さて……今日は歩き方からやろうか」
「……てっきり、心の話からするのかと思いました。さっきも、田所さんとそんな話してたし」
「お前ら、いつから覗いてた」
少しだけむっとするナギに、カナタが慌ててフォローをいれる。
「覗いてませんよ。ちょっと、声がかけづらくて……。それに、ナギさんはこの間ゲームに行く前も吾勝の話とかしてくれたじゃないですか」
「良いから、今日は歩き方から!」
とてもじゃないが、心の話をするような余裕は、ナギにはなかった。
いつまでも負けたことと、ユズハの言葉を気にしている自分がいやで仕方がない。
歩き方を習いながらも、ナギの様子がおかしいことは、カナタにもエイジにも伝わっていた。二人とも仕方がないかと思ってはいたのだが。
「いっそやめちゃえばいいのに。そんなに気にするなら」
歩きながら、ナギの動きを見ながら、エイジはそう呟くようにナギに訴える。
「何が?文句があるならはっきり言え、エイジ!」
「文句じゃねえって。だって、中緒兄は別にゲームなんかどうでも良かったんだろ?ただ、中緒姉妹のことをあやしげなカードで脅されて、参加する羽目になっただけだ。だけど、あれに勝ち続けたって、『望む力』に興味があるわけでもないし、勝って主催者に近付いたら彼女たちの意志が変わるかって言ったら、そうとは限らない。それどころか、ゲームのせいで田所さんとの関係も変わってきちゃって、納得いかないって顔してるし。挙げ句の果てには負けちゃうし、師範代なのに」
ナギは答えない。繰り返し繰り返し、同じ動作を行うばかり。
「エイジ!全然判んないし。何でナギさんのこと責めんだよ?」
「別に、責めてない!」
そう言うエイジの口調は強かった。
「責めてるように見えるけど?」
エイジをまっすぐ射抜く。まるでナギがするように。
「責めてない。やめちまえって言ってんの。やめて、さっさとカナタと手を切れって言ってるだけ!」
エイジの言葉に、ナギは立ち止まり、腕を組んでしばし考えた。そして、その場に正座をする。
「座れ」
自分の目の前をぽんぽんと叩き、睨み合う(性格にはカナタに睨まれるエイジ)二人に座るよう促す。
「エイジ、正座」
渋々あぐらをかくのをやめ、正座する。隣でカナタがまたナギのように『背中を正して』なんて言うのに腹が立った。
「カナタ。これからきちんと稽古はつけるけど、お前とはもうゲームはやらない」
「……何言ってんですか、ナギさん?!もしかして今、エイジが手を切れって言ったからですか??」
ナギは答えない。
「……もしかして、やめろっつったの、真に受けた?……いや、何つーか、その……へこみ過ぎじゃないか?だとしたら」
ナギの心はずっとここにはなくて、彼の様子がおかしいのも分かってた。だけど、彼の言葉が突然すぎて、攻撃できなくなってしまうのが、カナタの知ってるエイジだった。
彼にほんの少し感じていた違和感が消えてしまって、少しだけほっとするカナタ。
「間合いの取り方……って言うのは、すごく大事でさ。それは、戦いのなかで、身心の極地に追いやられた経験なんかから、具体的方法や心の持ちようを覚え、学んで、少しずつ覚えていくんだ」
カナタがその言葉を聞いて頷く。その横でエイジは戸惑う。
「なにそれ。何で突然そんな………あんたはいつもそう……」
「人と人の関係も、同じコトだよ」
「自分のことか?」
エイジはナギの言いたいことが判ってて、ナギを攻撃した。ナギは自分がカナタとコンビを組み直したいと思っていると、判っているのだと。
「そうかもな」
あっさりと認めるナギの穏やかさに、エイジは拍子抜けする。カナタにとっては普通のことだったのだけれど。
「だけど、人との関係は、短い時間で終わるわけじゃない。一生ついてまわる。一瞬すれ違うだけの関係もあるかもしれないけれど、いつどこでまた会えるか判らないし、会えないかも判らない」
『それはお前、そいつらに甘えてるよ』
どちらに……いや、二人に言っているであろうナギの言葉を受け、カナタは俯く。
もっと簡単に、もっと楽に。ただ一緒にいられればいいと思ってたけれど、そうじゃない。
ナギの言葉はあまりに重い。
重くて気持ちが悪いとは思わなかったけれど。
「だから、一瞬一瞬を大事に、明日がないつもりで生きたら何でも出来る……。やる気がない人間を叱咤激励する決まり文句だな。死地に向かうのに、異常なほど前向きで、何だか機械みたいなヤツがよく言うじゃないか」
家族を、大事な人を前に、笑顔で旅立つ戦士。その勇ましい英雄っぷり。エイジはそんな話は好きじゃなかった。
「かっこいいじゃないか」
「人間はもっと、弱いよ……」
すがるモノを見つけた人間は、それを正当化しようとするものだ。
エイジは、頭をかすめたそんな自己否定の思いを、必死でうち消しながら呟いた。
「弱いよ。だから何かにすがりたくなる」
「どっちなんだよ!あんたの話はわけが判らん!!」
「でも、すがるモノを作る勇気くらい、持っていても良いと思う。同じ明日が見えないなら。一人でいるより、隣に一緒に歩けるやつがいた方が楽だ」
「何なんだよ、あんた。矛盾してるよ!自分はどうなんだ、自分は!!」
ナギの表情は変わらない。
酷く落ち着いていて、普段のナギからは想像がつかない。
「うん。矛盾してると思う」
「て言うか、気持ち悪い!!何なの、この人!!話には聞いてたけど!普段のあのバカでお子さまでオレ様でバカなところからは、想像つかない!!」
「……何で、バカだけ2回言った?!」
静かにすごんでみせるナギが、いつもより余計に怖い。
「……ナギさんて、実はバカだったんですね」
「てか!お前までそれを言うか!?」
正座したまま微動だにせず睨み付ける。いつもなら勢いよく立ち上がり怒鳴りつけてるところだ。
「だって、ナギさんがたくさん喋る時って、お説教か、自分の考えがまとまってないときだから。迷ってる感じがする」
ナギの前に、ナギの言うところの道があっても、薄暗かったら迷うときだってある。
「ほら、人に喋りながら考えが変わったり、まとめたりする人っているじゃん」
「……女だろ?」
「え?」
エイジは、彼の目の前にいる男と同じ顔した女を思い出す。
「要するに、このちっこい人は、たまたま今いろんなことを思いついちゃったから、オレ達を正座させたと」
「そう」
「バカだな」
「だからバカって言うんじゃない。目上の人を敬えっての!」
また畳をばんばんと叩き、怒鳴った。しかし正座は崩さない。エイジはいいかげん足が痺れてきたので、ナギの制止を無視してあぐらをかいた。
「……ったく、すぐ怒鳴るんだから。武道家って、もっと落ち着いたもんなんじゃないの?落ち着いてないヤツは、異端者扱いされるのが常だ」
「エイジの知ってる武道家って、テレビとか、漫画とか、映画とかの中の人じゃん……」
「お前だって、オレの知ってる武道家だよ?」
「オレはもう随分前に辞めたの。今からやり直し」
そう言ったカナタの顔が何だか嬉しそうだったので、それ以上は何も言わないエイジ。
「前から思ってたけど、お前って知識偏ってるし、ひねくれてるよな……偏屈って言うか」
「中緒兄にだけは言われたくないんですけど……」
「おまえなあ!!」
実は、エイジは正座を崩さないナギを立ち上がらせるのに、ちょっとだけ意地になっていたのが、それは叶わなかった。怒鳴り散らすだけ怒鳴り散らした後、涼しげな顔で目を伏せた。
『でも、すがるモノを作る勇気くらい、持っていても良いと思う』
エイジには、本当はナギが言いたいことが判っていた。
そしてそれは、ナギの中にはあるけれど、自分の中にはないものだと。そんな気がしていた。
手を切れと、自分から遠いナギには行為を強制できるくせに、自分に近いカナタには言えない。
カナタの心に、いつものようにナギの言葉が残る。
すがるモノを作る勇気は、とっくにナギの中にあるのに、あるように見えるのに、彼は言わない。
ユズハのことを自分にはあんな風に言って見せたくせに、どうして彼はなにも言わないのだろう?
不思議で仕方がなかった。
胴衣がオレンジ色に染まっていた。
カナタもナギもなにも喋らない。じっと黙って、正座を続ける。
オレンジ色の空気が、エイジに何か錯覚を見せているような気を起こさせた。
静寂をうち砕くように、突然、空が暗くなった。
この広い武道場の真ん中からでもそれがはっきりと判るほど、窓の外には暗雲が立ちこめていた。そして、バケツをひっくり返したような雨音が響く。
「夕立?こんな季節に……まだ梅雨もあけてないのに。オレ、窓を閉めてきますよ」
すっと立ち上がるカナタの姿勢は綺麗なモノだった。
その姿を見て、エイジはまだまだ痺れる足をさすりながら、再び姿勢を正した。
「……あれ?中央広場が……?」
「どうした?」
ナギも立ち上がり、窓に向かう。それをエイジも追うが、うまく立ち上がれなかった。
「いえ。何か、布みたいな……」
工事現場のような囲いが出来ていた。ただ、その囲いには真っ白い布がかかり、広場のドームがどうなっているか見えなくなっていた。
「何だ、外壁工事でも始めるんじゃないのか?」
「でも、一昨年してましたよ。外壁工事。そんなに頻繁にするんですかね?美術科の校舎なんか、年季入ってて味出過ぎですよ?それに、あそこは……」
ナギもカナタも、口を噤む。
「何かあるんじゃねえの?」
結局立ち上がれずに、4つんばいのまま窓際まで来たエイジ。
「……そう考えるのが妥当だな」
ナギがじっと、広場を見つめる。
「あのドームを工事するにしては、囲いがでかいし、高すぎるな。外壁工事じゃなくて、拡張でもする気かな?だとしても……あの中のボードは不自然なんだよな」
「そんなの別に良いじゃん。確かにおかしいけど、こうなったらなんでもありなんじゃないの?だって、得られるものが『望む力』なんだし。ファンタジーだな、魔法だな。神秘の力だな」
あり得ないものだからすがれるのだと。
望む力だなんて、そんな夢のようなこと、あるわけがないけどあるんだから魅惑的なんだと。
「現実だ」
「でも、それくらいでもなきゃ、逆に『望む力』なんて言われたって、信用ならねえじゃんに。曖昧で不確定。だけど、あんだけあり得ないことがボードでは行われてる。だからありそうな気がする」
「なら逆に、そんな『望む力』なんて無いと思ってるから、オレはボードで行われてることに、いちいち突っ込んでるってことになるのかな?」
「……たまに難しいこと言うね、兄は」
「だよねー」
ナギは答えなかった。黙ったまま、広場を包む覆いを見つめる
ユズハなら答えを出してくれるかも、いや、今までは出してくれていた。その答えに納得するかどうかは別にして、ちょっとだけナギの考えに光が見えて楽になっていた。
だけど今、そうはしてもらえないことが、ナギは不愉快だった。
「……続き、しましょうよ。8時までに学園出ないと、オレ達まずいんで」
「めんどくせえな、高校生は……」
ぼやきながら、窓を閉めようと手を伸ばすナギ。
「あー、待て待て、閉めんな、ナギ!!」
「あん?……なにやってんの、お前?て言うか、何でここにいんの?」
窓から上半身を乗り出し、誰かと話していたナギ。こんな土砂降りの中、一体誰がいるのかと思って、同じように覗くカナタとエイジ。
「げ、バカ兄貴!!」
「え?!なに?エイジ、お前今なんつった?!」
「……あれ?何でエイジがナギと一緒にいんの?!」
土砂降りの中、武道所の軒下で座り込んで雨宿りしていた男とエイジは、互いに指さしていた。