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第20話【レイ】

学園恋愛ファンタジーです。軽くBL臭い部分も後々出てきます。お嫌いな方はご遠慮ください。ソフトエロも後々出てきます。こちらも苦手な方はご遠慮ください。内容に偏りがあることをあらかじめご了承ください。


第20話 レイ


「何それ、マジで?!カナタのヤツ、そんなこと言ったの?」


 学園からほど近いマックで、制服のまま語っていたのはレイだった。向かいにはエイジ。レイは本当は窓際の明るい席が好きなのだが、エイジに連れられ、一番奥の座席に座った。雨が降ってるから一緒だよ、なんて言いながら。


「……てか、まだ梅雨入ったばかりなんだけど、もう夏バテ?最近本気で顔色悪いぞ、エイジ」


 そう言った後で、エイジがてりやきバーガーを2個も食べた上に、ポテトを平らげ、コーラのLを飲み干していることに気付いて、前言撤回した。


「別に体調とか悪くねえって。なんつーの、オレって繊細だから、悩みが多くてねー」

「冗談にならないからやめとけば」


 エイジの顔も見ずにそう言い放ち、アイスコーヒーを飲み干した。


「……オレ、そんなに変かねえ。カナタにまで心配されるくらい」

「あー?ぶっちゃけ、めっちゃくちゃ変!!市ヶ谷とかも言ってたし」


 そう言われて、少しだけ反省するエイジ。


「まあ、若者ですからあ?それくらい仕方ないと思いますけどねえ。で、さっきの話だけど、エイジはそんでどうすんのさ」

「……どうって言われても。カナタがそうしたいって言うんだから、オレにはどうしようも出来ないだろ。中緒兄と比べたら、オレなんぞ戦力にもならないし」

「でも、カナタだって、エイジが結構強かったから、驚いてたし」


 エイジは片肘つきながら不愉快そうに答えた。


「それは、あれだろ。たんに経験者でもないのに思ったより……て言うレベルだろ?カナタも中緒兄もついでに田所さんも、武術経験者でそれなりの鍛え方してるから基礎力が違う。それ以上にやたらケンカ慣れしてるしね。どの口が教えだの、心だの道だの言ってんだよって感じだけど」

「カナタはとっくにやめてるし」

「でもやっぱ、ガキのころからの運動量とか違うって」

「へー。てか、中緒兄はそんなすごいの?カナタもすげえべた褒めだったじゃん。あいつの場合、どこまで本気なのか判んないけど」

「いや、半端無いね!あの体格で、なんで?って感じ。最初にカナタがぼっこぼこにされたときなんか、メチャクチャだった。鬼だね、あれは。あんなちっこいくせに」

「エイジやカナタがでか過ぎなんだよ。中緒兄は標準よりちょこっと小さいくらい」


 あくまで標準は自分であるレイ。


「……うーんと、難しいんだけど、エイジってさ、そのうさんくさい『望む力』ってヤツが欲しいの?それともただのつきあいなの?」

「だから、つきあいだって」

「つきあいなのに、なんでそんなにへこんでんの?意味判んない。よもやカナタに置いてかれてることにへこんでんの?」

「なんで?カナタの自由だ」


 うーん……と、夕方に再放送してるドラマの刑事のマネをして、シンキングタイム。レイには答えが判っていたのだが、それをエイジの口に出させないとダメなような気がしていた。

 そのタメに、彼は彼なりに必死に考える。


 カナタもエイジも、レイにとってははっきり言って腐れ縁だ。入学したときからかれこれ11年目だ。その間に2,3度クラスが変わることはあったけれど、結局こうして連んでいる。

 だから、ゲームの話も彼は自然に聞いていた。


 嬉しいとか、嬉しくないとか、そんな思いはもう無かったけれど。秘密を共有している感覚は、レイにとっても何だかくすぐったくて気持ちがよかった。

 彼は彼なりに、その感覚を守るために、エイジのために動こうと思っていた。


「……じゃあ、カナタが、やっぱエイジがいいっつったら、元に戻るんだ」

「戻るけど」


 戻るのかよ!と心の中で突っ込むレイ。


「戻るけど、それは言わないんじゃない?どっちかっつうと、カナタが遠慮してオレとコンビを解消したのに、今さら戻ってくると思う?」

「いや、カナタなら判らんよ。なんかなんにもなかった顔して中緒兄に捨てられて戻ってくるかも」

「……ありそうだな」


 そもそも、そのナギの傍にはユズハがいる。

 人の部屋であんな大騒ぎして痴話喧嘩の末、決別宣言をしたくせに、未だに同じ部屋で一緒に暮らしてるって言うんだから、おかしかった。

 惚気なのか自慢なのか判らないが、毎日のようにユズハはナギの作った食事の話をする。ユズハにそんなことをしてやるナギの真意が判らなかった。


 でも、問題はナギじゃなくてユズハにあるとエイジは思っていた。


 以前見た自分の夢は、案外間違ってないんじゃないだろうかと思い始めた。

 あの夢はまだ引っかかってる。

 でも、レイに話してすっきりするわけにもいかない。……いやむしろ、あまりナギとユズハに関わっていないレイだからこそ、無責任に話せるんじゃないのかとも思った。

 ただ、自分のこの黒く色付いていく欲望までは話せなかった。


「今だから言うけどさ、オレ、話を聞いたとき、カナタよりエイジがそう言う『望む力』みたいなモノをほしがると思ってた。エイジはちゃんと欲しいものを欲しいって言うか……そういう、なんというか欲求みたいなものがちゃんとあるからさ、フツーに。でも、カナタってそう言う感じしないじゃん。別になーんもいらない、なーんも興味ないって言う。オレ、びっくりしたもんね。中緒兄とか姉とか、その望む力ってヤツに対するあの食いつきっぷりに。イメージにないって言うか」

「そうだな。あいつ淡泊なとこあるからさ」

「でも、カナタにもなんかあるんだな。自分ではどうしようもなくて、そう言うモンにでも賭けたくなるくらい、欲しいものが。何か聞いた?エイジは」

「さあ。自分から言わねえから」


 そう言えば、あのカナタがこんな曖昧なモノにすがってまで欲しがるモノってなんだろう。彼にどんな望みがあるんだろう。


「そういやさ、カナタと中緒姉ってどうなの?カナタは普段おとなしくしてるからそうでもなかったけど、やっぱあの子といると目立つよ。すげえ噂になってる」

「……結構二人で会ってるみたいだな。オレや、妹の方を交えて会うことも結構あったけど、こないだも二人でサボってたし」


 最初のころ、カナタはやたらエイジを連れて行きたがった。マドイが何を考えているか判らなかったから。でも、だんだんそれはなくなり、いつの間にか二人の時間が増えていった。

 少しずつ、カナタの世界が広がっているのが判った。

 彼の世界を知ったのは、突然だった。


「それ、つきあってんじゃん!もー確実にやってるね!」

「オレもそう思ったんだけど、否定すんだよな。そう言うんじゃないんだとさ、あの子は。でも、わからんでもないよ?なんかマドイとカナタって、女と男の関係に見えることもあるけど、なんか男友達同士に見えることもあるし。なんか、中緒兄の追っかけ仲間みたいな所もあるし」

「……追っかけ仲間って!なんじゃそれ」

「なんかさー二人して、『ナギさんはかっこ悪いよねー』『でも時々かっこいいよね』とか言ってんの。何?!あのちびっ子大魔王の何がいいの!?意味わかんねえし!」

「ちびっ子大魔王て!?そんなにあの人酷い?こないだの校外実習の時とか、確かにちょっとわがままかな?て思ったけど、そんなに酷くは……」


 レイのフォローに、エイジは無言で首を振って、ため息をついて見せた。


「まあ、中緒兄は良いや。問題はカナタと中緒姉だ。オレ、あいつら絶対つき合ってると思って、どっちから行ったのかな?ってちょっと心配してたんだよね」

「心配?何を?」


 エイジは不安になることはあっても、二人のつきあいを心配はしなかった。でも、レイは心配だという。


「ほら、カナタってさ、いつだったか、彼女出来たじゃん。小学部の時だっけ?」

「6年の時だよ」

「そうそう。そのとき。あいつあのころからでっかくて、顔もまあまあ良いし、勉強も運動も出来るし、大人びてたからやたらもててたじゃん。……まあ、あいつのモテ期はそれから中2くらいまでがピークだったけど」

「本人にその気が全くないからな。興味ないコトしても仕方ないって思ってるし」

「だよな。あいつ、性欲とかないんかな?いや、あるんだろうけど。で、彼女出来たときに、いっさい連絡とかしてなかったじゃん」

「それで振られたんだったな。半年も続いたのが奇跡だ」

「そん時言ってた台詞がさ、すげえ引っかかってんのよ、オレ。なんか、トラウマになっちゃいそうだった。カナタみたいなヤツって、そんなもんなんかなって思って」


 エイジには思いつかなかった。


「ほら、彼女となんでつき合ったの?って聞いたら『みんながしてるから、一回くらいはした方がいいのかと思って』だってさ。だから、『彼女のことはどうでも良かった』って言うんだよ。なんかさ、カナタってオレ達には結構気も使うし、天然ぼけだけど、良いヤツじゃん。なのに、何でそんな冷たいこと言えるんかね、と思ってさ」

「なんだよ、そんなこと。早く女作らねえと、って焦ってるヤツなら言いそうじゃんよ。まだ子供だし。なんか、ヤったら好きになった気がするとか、飽きたとか、勝手なこと言ってるヤツらと一緒だろ?」

「それは、そう言うヤツもいるって話だろ。オレはそう言うの嫌なの。それに、カナタが言ったからこそ、オレは気になるわけよ」


 熱弁に対して気のない返事をしたエイジを、眉間にしわ寄せながら真正面から見つめるレイ。


「そういやさ、エイジって彼女いたって話聞いたこと無いな。お前、結構もててんのに」

「……もててんのか、オレ?」


 エイジの顔が判りやすく明るくなったのに、思わず引いてしまう。


「普通よりは……、多分」

「言えよ!そう言うことは。もっと判りやすく!アピールしろ!」

「言ったら、オッケーすんの?」

「それは、人に寄るだろ」

「てか、エイジって好きな女とかいないの?」

「うーん……特に?」

「マジで?中緒姉妹は?あんなに可愛いのに」

「……お前、もしかしてヒジリさんのこと探ってる?」

「ちょっとだけ」


 誤魔化したような、照れたような笑顔で答えるレイ。


「いや、ヒジリさんはやめとけって。以前、屋上で田所さんといるの見ただろ?」

「でも、つき合ってないって言ってたじゃん」

「言ってたけど……あの女は手に負えないって」

「なんで、あんなに可愛いのに。フリーなわけでしょ?蝶よ花よと育てられてるお嬢様☆って感じじゃないか。言葉遣いが丁寧なのも良いよね。今どきなかなかいないからさ。近付けたら、何とかなる……かも!」


 拳に力を込める。


「田所さんて、ヒジリさんに気があったりすんのかな?」

「いや、多分無い。本命が他にいるって言うか……その人以外は人とも思ってない感じ。木の股とかから生まれてそうだもん、あの人」

「……鬼畜だな。何その酷い評価。他に女がいるってコト?」

「そう言うわけじゃないけど」

「何その、誤魔化す感じ。何か知ってるならはっきり言えって。正直言うと、オレ、かなりヒジリちゃんてストライクなのね。廊下で会うとちゃんと挨拶とかしてくれるし。オレとはほとんど面識無いのに、友達の友達っつーだけで、あんな可愛く!!」

「ヒジリさんはつき合ってないし、田所さんの本命はヒジリさんじゃないけど……やめとけって」

「だから、なんで?なんでさ!」

「ああ、もう!田所さんとヒジリさんはつき合ってないし、本命がお互いにいるけど、二人でこそこそホテル行くような仲なわけ。だからそんなめんどくさい女はやめとけってこと!!わかった?」


 レイがきょとんとした顔でエイジを見つめた。その後、力つきたように机に伏せた。


「……いや、あの……ええと……。まあ、変な女に引っかかる前で良かったじゃん?……な?な??」


 思った以上にショックが大きかったレイを、必死に慰め(宥める?)エイジ。


「か……可愛い子だと思ったのに……」

「……中緒姉妹なら、マドイの方がいい女だ。あいつ、良いヤツだぞ。乱暴だし、すばしっこいし、喧嘩っ早いけど」

「そんな乱暴な子、やだ……。それに兄と似すぎ。可愛いけど。大体、あの子はカナタが……」


 そこまで言って、がばっと顔を上げた。


「本題を思い出した。オレの話じゃないよ、エイジの話だ。お前、話そらしただろ。そのおかげで……こんな所で失恋。……旅に出たい……」


 再び机に伏せる。仕方ないのでエイジが再び必死に宥めた。


「エイジ、彼女は?」

「……いたら、楽しいんじゃない?でも、今はオレ、自分で手一杯だし」

「自分で手一杯だから作るんじゃんよ?!カナタより淡泊な男がいたよ!」

「いや、淡泊なわけでは……ないですが。だって、お前が言ったんじゃんか。どうでもいい女とつき合うのとか嫌だって」

「だってこのままじゃお前、ずーっとカナタに振り回されることにならないか?!」

「振り回される?オレが?なんで?」

「自覚無しかよ!!」


 振り回されてるようなことはない……と少なくともエイジは思っていた。しかし、傍目には違ったらしい。


「ゲームのことも、中緒兄妹のことも、田所さんのことも、元々カナタがらみじゃん。エイジはどっちかっつーとめんどくさそうだから距離とろうとしてたのに?どうよ、そこんとこ。カナタのためって所がないか?」


 さすがにこれだけ近いと判ってしまうのか。

 レイの言ったことは、エイジには無自覚の部分があったとしても、ほぼ図星だ。はっきりと言葉にされたら、エイジだって自覚する、現実として受け入れざるをえない。


「カナタってさ、確かに危なっかしいというか……ちょっと、変わった所あるからさ。てか、ああいう優等生の顔して、普通の顔して、ちょっとどこか足らないってヤツが一番危ないし厄介なんだけど……。だからエイジがほっとけないって気持ちも分かるよ。特に、ゲーム始まってからは部屋まで一緒だし。でも、エイジはそれで良いのかよ?お前、最近ホントに辛そうだからさ。カナタの話聞いてたら余計に心配になってきたし」

「……カナタの?」

「そ。エイジがなんか時々悩んでふさぎ込んでるっつってた。でも、本人にどうやって聞いて良いか判んないって。違ってたら困るしって。心配なら心配って、言えば状況は変わるだろうよ」


 レイは頭を抱える。エイジのこともカナタのことも心配なのだ。


「……お前、なんでそんなに心配してくれてんの?」

「ゲームに参加したころから、心配してるっつーの、ずっと」

「だから、なんで?」

「友達だからだろ?言わせんなよ、こんな恥ずかしいこと。もう、だっせえな。心配するに決まってんじゃん」


 彼の気持ちをエイジは嬉しく思ったが、少しだけ引っかかった。


「なんで、ゲーム?」

「だって、そのゲームの話とかって、どう考えても危ないしおかしいもん。そんな話に乗っちゃうなんてさ、カナタもエイジもどっか切れちゃったのかと思っちゃったけど、オレにだけ話してくれたんだから、オレがしっかりしなきゃ、と思って……」

「確かに、曖昧で不確定で……」

「そう言う話をしてるんじゃないの。そんなモンにすがってまで、一体何が欲しいんだよ?オレから見たら、エイジもカナタも充分恵まれてるって」


『オレは、欲しいモンくらい、自分の力で手に入れるよ。そう言うくだらないことには興味ない』

『奇跡なんてもんはありえねえんだよ。不可能だと信じていることを、どこのどいつが達成できると言うんだ』


 ナギとユズハの言葉を思い出す。

 おそらく、あの二人だけはあのゲームにいながら、唯一自分自身の中に『望む力』を見いだしていた。


 欲しいものは自分で手に入れると言ったユズハ。

 彼はそのために動き、変化も辞さない。欲しいものを一旦手から離しても、彼はその絆を確固たるものにするために動いているように見える。


 望みを叶えるということは、自分が可能だと信じるコトだと言ったナギ。

 奇跡を否定し、自分の道は自分で切り開くと宣言していた。彼はそのためにおそらくこの学園に来て、戦っている。


 でも、あの二人は充分すぎるほど恵まれている。強い心、強い体、全てに裏付けされた大きな自信。だから、欲しい絆、欲しいもの、欲しい人のために、自らが動くことが出来る。


 でも自分は?


「……恵まれてなんかない。オレにもカナタにも、足りないものがある。オレにだって……叶わない可能性の方が高いけど、それでも手に入れたいものがある。『望む力』だなんて曖昧なモノにすがってでも、叶えたいと願っている。手にいれたいと思っている。……多分、カナタも同じなんだ。だからあいつは、先に進むことを選んでる。恵まれてないんだから、足りないんだから、あんな台詞は吐けるわけがない」


 ずるい。ナギもユズハも、ずるい。

 彼らにも何か求めるものがあると、完璧なわけじゃないと理解しているけれど、それでもやっぱりずるいと思う。


「なら、カナタにそう言えばいいのに。カナタのつきあいだなんて言ってカッコつけてるから、捨てられるんだ。普段、欲しいものは欲しいって言うくせに、ホントに欲しいものは言わないから、毒になるんだ」

「……なんか、小島さんみたいなこと言うのな、お前」

「誰、それ?」


 イチタカの容姿を簡単に説明するエイジ。男の顔なんかいちいち覚えてないと切り替えされてしまう。


「てか、オレは欲しいものは欲しいって言うのはいいことだと思うけど、あんまり大声で言うのもどうかと思うわけよ」

「……どっちだよ。さっきと言ってること違うじゃねえか」

「だって、そこまでして頑張って手に入れなくても良いと思わない?この手の中にあるもので、ちょっと手を伸ばしたら手が届きそうなもので、満足してようよ。その方が幸せだって」

「……それはまた、魅惑的な話だな」

「だろー?てか、それが普通なんだって。世の中の人はそうやって頑張って生きてるの。何をどう頑張ったって、世の中、勝ち組になるのは一握り」

「でも……」


 エイジは、まるで子供のような笑顔で、レイに言い放つ。


「もう無理だな。欲しくなったからさ、そのために出来ることは全部したいって」

「なら、頑張りなよ。オレは面倒だからしないけど、本気で頑張ってる人間て嫌いじゃないし。オレくらいは味方になっといてやるから、感謝しろよ?何が欲しいかは知らないけど」

「そか」

「……てか、半分くらいはカナタが気にしてたから、なんだけどね。『エイジはホントにしたいこととかは黙ってるから、オレよりたちが悪いよ』ってさ。カナタにたちが悪いって言われてるようじゃ、エイジも随分落ちたもんだな」


『ごめんごめん。言い方が悪いか。なんて言うのかな……うらやましそうって言うか。あんまりそう言う所見たこと無かったから』


 自分には言わないけれど、カナタはずっとエイジのことを気にかけていた。自分を見ていた。彼なりに頑張って、彼の世界にいれてくれていた。


 少しだけ、手が届くような気がしてきた。


「感謝してるよ」

「エイジからその言葉が聞けるとは思ってなかったな☆季節はずれの台風が来そうだ」

「失礼な」

「感謝してるなら、もっと可愛い女の子紹介して……」


 エイジが思ってる以上に、レイはヒジリの件でへこんでいたのだった。


「……可愛い女の子、来たぞ」

「え?どこ?どこどこ!……って、確かに可愛いけど!!」


 レイの後ろに立っていたのはマドイとカナタだった。外から来たばかりなのか、肩が少し濡れていた。よく見たら、カナタだけが傘を持っていた。


「やっぱりエイジ達だった。外から見たら、多分そうかと思って」

「……えっと……」

「あーマドイ、コイツは周藤励。クラスメートね。紹介しなかったっけ?」

「え?見たことない……ごめん」

「ヒジリさんとは面識あったのにな」


 自分に食いつかんばかりの勢いの知らない人を前に、戸惑うマドイに説明するエイジ。彼らの隣の座席に向かい合わせで座るカナタとマドイ。


「なんだよ、用があるからってさっさと一人で帰ったくせに」

「いや……雨降って来ちゃったからさ。傘一本しかなかったし」


 外を見ると、さっきよりも随分強くなってきた。


「……どこいたんだよ」

「公園?」


 いやそうな顔で二人を見るエイジ。


「健康的……まだ5時だよ」

「何が健康的?レイの言ってることはよく判らないよ」

「……あ、ちょっとごめん。……もしもし?ヒジリ?」


 携帯片手に席を離れたマドイの電話相手に反応するレイ。


「ヒジリちゃん……好みなんだけどな。しかも、いけそうな気がしてたのに」

「その行けそうって感覚がわかんねえ。しょっちゅう言ってるじゃねえか。B組の桜井、オレに気がある!って。先月?」

「ええと、たしかそれは4月くらいじゃなかったかなあ……。去年は中等部の子がオレに気がある!って騒いでたし」

「何、なんで二人ともそんなこと鮮明に覚えてんだよ!!特にカナタ!!余計なことばっかり!……でも、たまには当たってるじゃないか!!」


 カナタとエイジ、二人して考え中。


「1割くらいかな?でも、数うちゃ当たるって感じだな。そう言う女が多すぎるんだって」

「酷!鬼っ子だよエイジは!!」


 マドイが戻ってきたのを確認して、椅子を勧めるカナタ。


「ごめんね。私、もう帰らなくちゃ。兄さんがご飯食べに来いって言ってるらしいの」

「そう。……良いな、ナギさんのご飯……」

「カナタも来る?」

「良いの?てか、そんな家族団欒に!?」

「あはは……確かに団欒かな。何もおかしなコトはないんだから、私たち。でも、まだ兄さんは怒ってるけど」


 カナタはマドイに、ナギ達が帰ってきて欲しいと思っているという話をしなくなっていた。他にたくさん話すことがあるから、と言うのもあるけれど、マドイがその話をすると怒るのが判っていたから。

 彼女を怒らせたくなかった。


「エイジも来る?」


 マドイは当然のように、エイジを誘った。


「……当然、田所さんやヒジリさんもいるよね?」

「もちろん」

「……オレ、今日は先約が。男二人で悲しい夕食。カナタに土産を持たせてください。肉系希望」

「なにそれー。良いよ、頼んどく。いこっか、カナタ」


 マドイはまるでナギがするように、カナタの背中をぽんと叩いて一緒に店を出ていった。


「……可愛いね、中緒姉……。てか、エイジまでいつの間にそんなに仲良くなったの?」

「かわいきゃなんでも良いのか、お前」

「でも、あれでつき合ってないか?家族ぐるみのおつきあいってヤツ?家族じゃない人も混じってるけど」


 二人の距離が前よりも確実に近付いていることに、エイジだって気付いていた。悔しいし、辛いけど、それでも、相手がまだマドイだったから良かったと思う。


「マドイって、良いヤツだよ?まっすぐで、ピュアで、憧れてるモンへの想いとか綺麗だと思うし、気も遣えるし、だけど変に女っぽすぎないから見かけよりは随分取っつきやすいし。乱暴で気が強いからわかりにくいけど、あれで優しいとこあるし。育ちもいい感じするしね」

「うーん……噂よりは取っつきやすそうだね、確かに。でも、珍しいね、エイジがそんな」

「オレ、マドイのこと好きになってたら、良かったのにな」

「……良いじゃん、可愛いし」

「あり得ない」


 ため息をつくエイジの真意が、レイには判らなかった。

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