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第19話【続・ユズハVSナギ】

学園恋愛ファンタジーです。軽くBL臭い部分も後々出てきます。お嫌いな方はご遠慮ください。ソフトエロも後々出てきます。こちらも苦手な方はご遠慮ください。内容に偏りがあることをあらかじめご了承ください。学園恋愛ファンタジーです。軽くBL臭い部分も後々出てきます。お嫌いな方はご遠慮ください。ソフトエロも後々出てきます。こちらも苦手な方はご遠慮ください。内容に偏りがあることをあらかじめご了承ください。



第19話 続・ユズハVSナギ


 カナタが寮に戻ってきたのは、夜の9時を過ぎたころだった。

 普段は何もない食卓に3人分の夕食が用意され、エイジが一人でカナタを待っていた。


「何これ、ナギさんが作ってくれたの?エイジ待っててくれたの?てか、ナギさんは?」

「小島さんとこ。戻ってきたら呼ぶように言われてるんだ。座れよ」


 カナタの顔を見ずに、ナギにメールを打っていた。カナタは奥にある机の前から椅子を持ってきて用意されている食事の前の座った。


「……もしかして飯食ってきた?」

「いや、お昼は食べたけど、何も。もう、おなか空きすぎておかしくなりそうだよ……。悪いね、待っててくれて」

「……そうだな。オレはもう、なんかお預け食らった犬の気分だ。すごく……すごくうまそうなんだ……」


 食卓に用意されたのはハンバーグとポテトサラダとトマト。サラに半分残ったゴーヤチップ。ぼんやりしたままエイジがコンロから降ろしてきた鍋には空豆のポタージュ。


「なんで小島さんとこに?」

「ミキサー返しに行って話し込んでるっつーか……捕まったかな?」


 ポタージュを注いでいる最中に、ナギが勢いよく扉を開けて入ってきた。後ろからはイチタカもついてきていた。


「悪い悪い。よし、食うか!」

「なんや!ほんまにオレの分ないんか?酷い!酷すぎる!オレも飢えた子羊や。かわいそうや!」

「お前はもう食ったろうが。それに部屋にツレがいただろう。あの暗いメガネの……」

「テッシーや。勅使河原潤。ちゃんと紹介したやん。あんなすごい名前なんに、覚えられへんの?」

「だって、オレ、ものすごーくちゃんと挨拶したのに、ずっと台所で本読んでんだもん。印象がそれしかない」


 入寮時に一度しか見たことがなかったけれど、いかにもおとなしそうで無口な勅使河原と、このマシンガントークの二人では合うわけがないのは明らかだった。イチタカの部屋での出来事が手に取るように判ったエイジ達は、二人してうっかりため息をついた。

 ついでにイチタカのアフロがほとんどとれていて、後ろで一つにまとめているのがあまりに極端な変化過ぎて突っ込みたかったのだが、この二人はそのスキを与えてはくれなかった。


「そんなわけで、なんか食いモン!」

「……ゴーヤチップくらいしかないけど……」

「あ、ごめん、耐えきれずに半分くらい食べちゃった……」

「いいや、良いんだよ、元々お前が腹減らしてたからつまみの代わりに作っただけだし」


 とりあえず残ったものを、イチタカに皿ごと渡した。


「おー……苦そうや……」

「いらないなら返せ!」

「いやや!後でつまみ作って上に来てな。あ、橘と木津もたまには一緒に飲もうや」

「ネッシーは良いのか?」

「テッシーや!大丈夫や、今夜は用事があるとか言うて、お出かけやから。だからベッドも空いてるで。今夜はオレの部屋で寝たらええわ」


 いったい何の用があるのか、想像もつかなかったが、ナギは了承してイチタカを見送った。

 扉の外で話し声が聞こえたかと思うと、入れ替わりで別の人物が入ってきた


「……ユズハ……!!何しに来た?」


 誰も何も言えない妙な空気の中、ユズハは後ろ手に扉を閉めた。


「どこに行ってるかと思えば、こんな所にいたとは。なんか用があるわけでもないなら、部屋に戻ってくれば?迷惑だろ?」


 ユズハの口調は落ち着いていたが、顔は不機嫌きわまりなかった。


「……お前ら、先食ってろ、ちょっと話がある」


 そう言われて、カナタとエイジは顔を見合わせる。先に部屋に戻ったイチタカに、戻ってきて欲しい気分だった。


「……食べてる?」

「うん。とりあえず食べないと、オレもう無理」


 エイジは無視することに決め込んだらしい。


「外、出よう。ここじゃ……」


 そう言ってユズハの前に立ったナギを、扉を背にしたまま蹴った。


「いってえな!!何すんだ?!」

「すぐに話は終わるから、ここで良い。逃げられたら困るからな」

「……逃げたりなんか!」

「いつものお前ならな」


 だからって人前で痴話喧嘩を始められても困るんですけど……と言った顔のエイジ。まるでお母さんのように、カナタに向かって『見ちゃいけません』と冗談を言う。

 実際、あまり見て欲しくはなかったのだが。


 ただ、異常なほど気にしていたのはエイジだけのようで、カナタはさほど気にすることなく普通に夕食を食べていた。そう言うところがカナタらしいなあ、と思ってしまった。

 とりあえず、ユズハが余計なことを言わないようにとだけ願うエイジ。


「話ってなんだ。オレにどうしろと?」

「話は二つ。一つは……どうせすぐに部屋に戻ってくるんだから、さっさと部屋に戻ってこいってこと。今すぐにでも」


 ナギがゆっくりと一歩ずつ下がりながら、ユズハから距離をとる。


「……もうなんもしないから」


 その言葉に反応して、ナギと、何故か隣にいたエイジが同じようにして、びくっと体を震わせたのに驚き、持っていた箸を落としてしまったカナタ。

 エイジはその後、箸をくわえたまま微動だにしなかった。ナギは顔を真っ赤にしてさらに3歩下がって、キッチンを抜け部屋の真ん中まで移動する。

 予想以上のナギの動揺っぷりに、思わず吹き出すユズハ。しかし、すぐに真顔に戻って話を続ける。


「戻ってこないなら……ここで続きをしようか」


 やっぱり同時にユズハの言葉に反応するエイジとナギ。


「どしたのエイジ?なんかうっかりドラマの濡れ場を家族で見ちゃったお父さんみたいになってるよ?」

「何、そのものすごく的確な表現!判ってんの、お前?」


 変な汗が流れて困る。どこまで天然なのか、わけが判らない。天然であって欲しいと願うばかりだ。


「バカか!お前は羞恥心とか、常識とか……どっかおかしくないか?!」


 顔の火照りがとれないまま、ナギはとにかく叫ぶ。カナタ達がいるのが余計に恥ずかしい。


「おかしくなんか無い。どっちにする?どうせ戻る羽目になるだろうが?」


 荷物をとりに戻ったとしても、そこには多分ユズハがいる。誰か連れて行ったとしても、コイツはこの調子だろう。いない時間を狙っても、コイツは部屋に多分いるだろう。


 冷静に考えたら、そう予想できてしまう彼の行動は、常軌を逸しているような気がしていた。ただ、ユズハにはずっとそう言う部分があったのだけれど。

 昔のことをたくさん思い出しすぎて、知恵熱が出そうだった。


「この話に関しては2択だ。戻るか、戻らないか」

「……戻る。でも、今日はイチタカと飲む約束してる……」


 逃げたのは誰の目にも明らかだった。目をそらして申し訳なさそうにしてるところがナギらしかった。


「あ、そう。なら、そこにはオレもついていくよ」

「……意味が分からないんですけど」


 ユズハは気持ち悪いくらいの笑顔を返した後、扉の前に座り込み、煙草に火をつけた。

 何だかヤンキーみたいだな、とエイジもカナタも思ったが、黙っていた。少しだけ、ユズハが怖かった。


「……話が終わったなら、いったん帰れ!まだ飯を食ってないんだ」

「終わってないよ?2つって言っただろ?」


 笑顔でエイジに灰皿を要求するユズハ。エイジは彼と思わず目が合わせてしまったが、彼はにこやかな のに、自分は背筋が凍るような思いがした。

 わざとゆっくり煙草を消し、さらにもう一本火をつけた。その様子に、ナギがいらいらしてるのが判る。


「なんだよ、これ以上なんなんだよ!!」

「あ、わっかだ」


 ユズハの出した煙に、喜んでみせるカナタ。夕食はすっかり食べ終わっていた、カナタだけは。エイジはちっとも箸が進まなかった。あんなにお腹がすいていたのに。


「お前とはもう組まない。オレは別のヤツと組んで勝ち進む。オレは一人で、主催者に近付く。以上だ」


 エイジが思わずユズハの方に振り向いた。椅子がガタッと動き、大きな音を立てた。


「……な!?何言ってんだ。て言うかそりゃこっちの台詞だ!!お前とはもう組まん!!」

「そうだな。一人では参加できないけど」

「……う……。なんだよ、お前はあてでもあんのか!?」


 ユズハは黙っていた。黙っていたけれど、誰かは判らないがあてがあるのは明白だった。それに、彼のことだから、他にもいろいろ自分の知らないことをいっぱい知ってるだろう。


「あ、じゃあナギさんは、オレと組みましょうか。第2ステージに上がったんですよね、こないだ。オレもまだポイントないし」


 全てを意に介さず、二人分のコーヒーをいれていたカナタは、ナギに向かって笑顔でそう言った。

 口を開けたまま、ユズハからカナタへ視線を移したエイジに、コーヒーを差し出す。

 エイジは何も言えなかった。


「ちょっと待て、橘。お前には木津がいるじゃないか」

「でも、エイジは元々オレにつき合ってくれてただけですし。望む力になんか興味がないですから、ねえ?……あ、牛乳出さなきゃ」


 何か問題でもあるのか?と言わんばかりに、冷蔵庫から買ってきたばかりの牛乳を出した。


「あのうたい文句に踊らされてるのは、お前だと?」

「踊らされてる……そうかもしれませんね。でも、オレはあの望む力ってヤツが欲しい。本当に望みが叶うなら」

「木津は違うってのか?そんなものに興味はないと?」

「そう言ってましたから。ねえ」


 エイジは頷くしかなかった。彼の心で燃えさかる炎を消そうとしているのは他でもない、カナタだ。

 でも、目の前でこうして決別する二人を見せられたら、何も言えるはずがない。これ以上、こじらせるのはいやだ。

 カナタがナギと組むと言ってるのだから、別にそれで良いじゃないか。そう言い聞かせるしかなかった。

 しかしその言葉は、エイジの中を循環する。


 こうして、欲望が黒くなっていくのだと、彼は体感しているような気分だった。

 でも、どうしようもないこともあるのだと、彼は思う。

 だから人の欲望は、ため込まれていくのだとも思った。


『欲望が願いのうちに、吐き出した方がええ』


 それが出来ないから、人は曖昧なモノにすらすがってしまうのだろう。そう思った。


「……勝手にしろ。どちらにしろ、オレの敵じゃない。オレがさっさとポイントを溜めればいいだけの話だ。お前らとぶつかったら、倒すだけだ」


 ユズハは煙草をくわえたまま、カナタを睨み付けた。カナタはそれを笑顔で受け流すが、隣にいたエイジは気が気じゃなかった。

 ユズハが本気なのは、痛いほど伝わった。彼の持つわけの判らない大きな自信が、怖かった。

 ナギの後ろにいたから気付かなかっただけで……、彼の充分すぎるほど、我の強い人間だった。自分と は違う、違いすぎる。その事実にエイジはほっとしたが、恐怖も感じていた。


「話はそれで終わりか?てか、なんでお前とコンビを解散したのに、オレはお前のいる部屋に戻らないといけねえんだ」

「それとこれとは別だ。お前が帰る場所ってのは、そこにしかない」

「自信過剰だ」

「事実だ」


 ユズハは、カナタにコーヒーを要求した。その行為の図々しさに、エイジはさらにわけが判らなくなっていた。


「さっさと飯を食え。待っててやるから」

「……気のせいか、監視されてる気がする……」

「知らなかったのか?」


 歪んでる。

 エイジは座り込んで煙草を吸いながらコーヒーを飲む男の深淵を、ちらりとだけど見た気がした。


 こんな男とは違う、自分はこんな風にはならない。


 欲望を大事なはずの人にぶつけるような真似、出来るわけがない。全てを失うのは自分だ。

 その行為が悪循環にはまっているとは気付かず、エイジは黙ってカナタの言うとおりにすることを決めていた。


「エイジ、今までごめんな。つき合わせちゃってさ。オレがケガしてるときとか、騎士やらせてたし。相手が格闘技経験者とかのときは、きつかったろ?エイジは強かったけど」

「……あ、当たり前だろうが。ルール無用だし、武器もあるし。ケンカみたいなもんだろうが。お…お前こそ、……オレじゃないと困るんじゃねえ?中緒兄とお前じゃ、突き進むしかできなさそうだし」

「そうそう。それは心配だけど。でも、もうエイジに迷惑かけなくて済むかと思って」


『カナタがさ、お前とはつきあい長いから『心配してる』って言いにくそうだった』


 ナギの言葉を疑ってたわけじゃないけれど、真実であることをはっきりと確認できた。それがこんなにも、エイジの心を満たす。

 例え、カナタのその気遣いが、多少ずれていたとしても。

 そんなことはよくあることだ。これで丸く収まると思えば、そんなことはどうでも良かった。


「……木津が本当にそれで良いなら、良いけど?」


 ここに来て5本目の煙草に手をつけながら、上目遣いでそう言ったのはユズハだった。


「ユズハ、用が済んだんなら黙ってろ。今日のお前は感じが悪い」

「いつもだろ?」

「よく判ってんじゃねえか」


 エイジとユズハの間に入るように椅子を移動し、ナギは食事を始めた。





 あからさまに険悪な雰囲気のユズハとナギを見て、イチタカは怪訝そうな顔をした。してみたものの、さすがに二人にそれを聞くわけには行かなかった。


「……橘、木津はどうしたんや?」

「あ、エイジはなんか顔色悪かったんで、寝てます。あんなにお腹空いてたって言ってたのに、全然食事にも手をつけないで。オレも残ってようかと思ったんですけど……」

「うん、お前だけでも来てくれてありがとうな。ホンマ嬉しいわ……」


 自分より10センチ近く高いカナタの肩を掴みながら、何度も頷いた。この二人の間に入って酒を飲むのはいやだった。


「イチタカ、声がうわずってる!」

「ほならもっと、ソフトな顔して!お願いやから!!」


 と言って今度は同じ目線のナギの肩を掴む。しかし、そんなイチタカでもユズハの元には向かえない。


「空豆を唐辛子と炒めてみました」

「そか、さすがやな、兄さんは。うまそうやな。入って入って……一応」

「……小島くん」

「な……なんですか、田所先輩?!」


 動物的な勘が備わっているらしく、呼ばれた途端、妙に迫力のあるユズハから距離をとり、カナタの後ろに隠れるイチタカ。


「いや、髪が……アフロじゃないなと思って」

「あ、今日美容院行ってきまして。伸びてたんでいっそのことアフロやめようかと思って」

「今度は何色にするんですか?」


 空気が読めてるのか読めてないのか、カナタが笑顔でそう聞いた。


「色?」

「小島さん、オレ達がここに入ったばかりのころ、茶色と黒の2色使いだったんですよ。その後、突然アフロ」

「髪傷みそー……はげるぞ」


 そう言われて、学部との合同コンパに、頭が2色の男がいたことを思い出すユズハ。そう言えばアフロのヤツがいなかったから、ホントにイチタカがいたか疑わしかったのだが、髪型が違うなら仕方がない。一つ疑問が解けてちょっとすっきりした。


 妙な空気の中、酒盛りを始めることになった4人。イチタカの言うとおり、夕食前にはいた勅使河原がいなかった。


「テッシーは夜中に徘徊する癖でもあんのか?」

「さあ。あいつつきあい悪いからわからへんわ。高等部からここの寮におるけど、ちっとも出てこうへんし。学園内引きこもりやな」

「引きこもりは徘徊なんかしねえよ!」


 二人してユズハの目を見ないようにしながらマシンガントーク。何だか必死に話してる様子がおかしいのか、カナタはそれを見て笑っていた。

 ユズハは黙って焼酎を飲んでいた。時々、ナギをじっと見る。それに気付かないナギではなかった。怖いのと気恥ずかしいのと、本人にもわからない何か大きな感情が、彼を支配する。ナギは緊張したまま、いつもより多めに酒を飲んでしまったせいか、まわりが早くて辛かった。普段なら、ユズハがいる場なら安心して飲めるのに。

 安心できるはずの場所が、今は少しだけ怖かった。


「橘、眠いんなら布団出したろか?」


 年下だからか、イチタカはカナタには優しかった。ナギはその様子をうとうとした顔で見ながら、自分にも布団をくれと思っていた。


「……イチタカ、お前、強いね」

「兄さんは見かけ通り弱いな。テッシーのベッド空いてるで?橘と一緒でええか?ちょっと狭なるけど。こいつもう限界みたいやから」


 床につぶれてしまったカナタの処理に困るイチタカ。自分よりでかい男を担ぐのは大変だなあ、なんて考えていた。


「いや、ナギは連れて帰るから。そこの茂みを通ればすぐだろ?小島くんが近道だって言ってたろ?」

「夜は危ないで?あの道。電気無いから」

「……えと……今日はここで寝るから……良いから、ユズハ……」


 怖くなったのか、10センチ以上でかいカナタを担いで勅使河原のベッドに押し込め、自分はそのベッドの下の床に横になって布団をかぶった。

 お父さんのような気持ちで二人を眺めるイチタカ。その横をユズハがナギに向かって歩いていた。


「田所先輩は見かけ通り強いなあ。お湯、もうちょっと用意しましょか?」

「いや、もう良いよ。ちょっとテンション上げてるだけだから」


 イチタカにはユズハの言ってる意味が分からなかった。そのユズハは、ナギの横に屈むと、彼の頬に手を伸ばし、撫でた。


「……ナギさんが、何か?」

「いや、よく寝てんなと思って、確認しただけ。ちょっと2時間くらい抜ける。コイツ迎えに来るから」

「いやいや、一人で帰れるやろ?子供じゃないんやし」

「コイツ、酔うと朝まで起きないから」


 ほとんど自分の言ってることを聞いてくれてないんじゃ……と突っ込みたかったが、怖かったのでやめておいた。


「小島くん、いつもこんな風に一人で飲んでるの?」

「いやあ、一人だったり、人呼んだり、出かけたり。まあ、大抵飲んでます。ざるなんですわ」

「彼女とかいないの?」

「あ……痛い所つきますね。卒業と共に別れたという、聞くも涙、語るも涙……って!!」


 扉の向こうでイチタカが突っ込んでいたのは聞こえたが、無視して寮を出るため階段を下りる。

 携帯をかけながら、いったん寮に戻った。停めてあった車に乗ってから、学園の正門前に向かった。


 待っていたのはヒジリだった。彼女を助手席に乗せ、まっすぐホテル街に向かう。彼女の顔も見ず、話すこともなかった。彼女も何も言わない。

 口を開いたのは、部屋に入ってからだった。


「珍しいわね、車に乗ってくるなんて。飲酒運転じゃない?」

「急いでたし……。早く戻らないと」

「じゃあ、誘わなきゃ良いのに」

「でも、乗ってくるじゃねえか。お前だって」


 ベッドに座るヒジリのそばに近付き、頬に触れる。


「……お前、こうして見るとナギに似てるよ」

「今ごろ何言ってるの?当たり前でしょ」


 彼女の首筋を撫でながら、その手を服の中へ入れる。


「本物にはうっかり噛みつくことも出来やしない」

「ふざけたこと言わないでちょうだい」


 彼の両手を体で受け入れながら、彼女は彼を睨み付けた。


「そんなこと、私が絶対許さないんだから……!」

「お前に、何が出来るって言うんだ」


 ユズハには何も言わず、彼女はゆっくり目を閉じ、兄の顔を思い浮かべた。

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