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第11話【続・ナギ】

学園恋愛ファンタジーです。BLではないですが、臭い部分も後々出てきます。お嫌いな方はご遠慮ください。ソフトエロも後々出てきます。こちらも苦手な方はご遠慮ください。

 ユズハの真意が判らなくなってきた。

 あのカードをもらって、誰か連れてこいと言われたときユズハしか思いつかなかったのは事実だ。その程度には彼を信用してる。

 確かに、妹達のことを調べるときも、相談する人間はユズハしか思いつかなかった。彼は一緒に来ると言ってくれた。強制はしなかった……と思う。


 ナギは眠れなかった。今夜のユズハのコトを思い出すと。

 ゲームの後、彼と別れ、部屋に戻った。二人部屋に一人でいたので普段は気楽なモノだったが、こんな時は誰か話し相手が欲しいとも思った。

 でも、その相手もユズハくらいしか思いつかない自分に、何だか腹が立ってきた。


 電気もつけず、着替えることもなくベッドに座り込んだ。


 どうしてこんなコトになったのか、彼なりに必死に考えていた。

 あのカードが全ての原因ではないかと、彼はゲームの主催者に責任転嫁しようともした。


 あの日、部屋に帰ってきたらあのカードが置いてあった。彼はそれを握りしめ、ユズハの元へ向かった。指定された時刻まで、あと僅かだった。


「どうした、ナギ。こんな時間に」


 ユズハは同じ研究室の学生と同室だった。もう夜も遅く、その学生は寝るところだったらしい。突然押し掛けてきたナギを不審そうに見ていた。


「良いから、オレに着いてこい。お前の力が必要だ」


 ユズハは黙って頷いた。ナギはよく見てなかったが、今思い出すと笑顔だったような気がする。

 自分では事実しか言ってないつもりだ。もちろん、今でもそう思ってる。

 だけど、ユズハからそんなに重たいモノも、たくさんのモノも奪うつもりはなかった。


 ユズハは何も聞かず、ナギに着いてきた。そして、彼と共にためらうことなく塔に入ったのだ。


 今さらながら、ユズハがそこまでしてくれる理由が判らなかった。ただ、ナギは今まで全く疑問を持たずに、常に彼の側にいたユズハを当然のモノとして受け止めてきた。

 マドイやヒジリは、本当は彼の方がつきあいが長い。だから、彼女たちのためかとも思った。でも、それは違う。だったら、彼はナギに「彼女たちのため」かどうか確認をする行為があっても良いはずだ。しかし、それはなかった。


 彼はそもそも、あんなに面倒見が良いというか、気を使うような人間ではなかったはずなのだ。少なくとも、ナギが初めてユズハと会ったとき、彼はとてつもなく態度が悪かった。


 まだナギが10歳になったばかりのころ、両親が事故で亡くなり、あちこちの家を転々としていた。1年くらい経ったころ、それを知った中緒の父が、男の子を欲しがっているということで、彼を引き取ってくれた。


「何も遠慮することはない。取引だと思えばいいんだ。僕は男の子が欲しかった。この道場の跡取りに。君には住む家が必要だ。だから、何も遠慮することはない。大手を振って、うちの子だという顔をすればいい」


 たかが11歳の子供に『取引』だなんて、面白いことを言う人だと思った。

 この1年で、ナギはすっかり摺れてしまっていた。親戚連中の汚さみたいなモノを受け入れるほど大人にはなれなかったが、きれい事ばかり言う人間を信用できるほど子供でもいられなかった。

 彼は、充分すぎるほど、その年齢にしては大人だった。

 中緒の家に来たときも、まるで借りてきた猫のようだった。裕福な中緒家では、本当にナギをかわいがってくれた。それに彼は遠慮を見せた。子供らしからぬ遠慮だった。それを見かねて、中緒の父はそう言ったのだった。

 ナギはその時、中緒の父に「対等に扱われている」ように感じた。それが何より嬉しかった。


 だから、彼にとって中緒の家は現在唯一の家族であり、全てを投げ出してでも守るべきモノになっていた。自分を兄と慕ってくれる妹達も、彼にとって本当の妹になっていった。


 中緒の父はウソを言わなかった。


 ナギに強制したのは彼の持つ「合気道の道場」の跡を継ぐことだけだった。だから、ナギはその期待に応えるため、中緒の父に合気道を習うことにした。中緒の家に入って、一年が過ぎようとしていた。


 その道場にいたのが12歳のユズハだった。ナギが初めて合気道を始めるのに対し、ユズハは5歳からこの道場で習っているという。


 中緒の父が、ナギと年も近いし、学校も一緒だし、ユズハには目をかけているという理由で紹介してくれた。その時のユズハの愛想の悪さといったら、酷いモノだった。


 しかし、不思議とナギの妹達は、ユズハに懐いていた。

 もう7年もこの道場にいる彼にとっても、彼女たちは妹のような存在だった。何しろ、彼女たちが生まれる前からこの道場にいたのだから。


 ナギの妹達はユズハに懐いていたが、当時のユズハが彼女たちをどう思っていたのかは、ナギにとっては判らない。

 いつごろからか全く覚えていないが、彼が今のような人物になっていたのは、確かナギが高校生ぐらいの時だったように思う。そのころには「あの子達はナギの妹だから」と言っていた。だから「大事にしないと」とも言っていた。


 ユズハは、どういうつもりで今のゲームに参加しているのだろう。まさか彼が『望む力』に興味を持つとは思えない。

 しかし、昨日のユズハは、何だか引っかかることでいっぱいだった。


『王の言うことは聞かないとな。立ち上がられても困るし』


 ナギがその状況では勝負に関係なく立ち上がってしまうだろうコトを見越していた。それも気になるが、何より彼は『言うことは聞かないと』などと言って、ナギの言うとおりにした。ナギが望むように。

 彼の様子を見る限り、横井に対して剣を振り落とすことなんか、ためらいもしなかったはずだ。それが、「精神の死は肉体の死」だと言った張本人だったとしても。それはあくまで自分やナギに危険が及ぶという意味で、自分に関わりのないモノがどうなろうと、彼は知ったことではないのだ。


 彼は幼なじみで友人で、道場ではよきアドバイザーであり、アシスタントであり、パートナーだ。

 それ以上でもそれ以下でもない。


 でも、ユズハは?


『オレのやり方がいやなら、お前が騎士をやればいい。俺は座って見ているよ』

「……あの席は、歯がゆくないか?」

『お前がダッサイ戦い方をしてたら、歯がゆいかもね』


 黙って一人で帰ったナギに、ユズハは電話をしてきた。

 彼の必死さが、それだけで判ってきた。

 でも、その時の彼の台詞はそれだった。


 彼は、カナタ達と戦ったとき、ナギの戦いを見ながら必死だった。彼もまた、あの席で歯がゆかったはずなのに。


「なあ、ヒジリが言ってたこと、覚えてる?」

『なんのことだ?』

「王は抵抗が出来ない。何も出来ない。無抵抗の王を引きずり降ろしたらゲームには勝てる。あの席は危険だ。だから、騎士に自分自身を守る力を与え、王は無抵抗な的になるんだと」

『騎士が、死ぬ気で守ればいいじゃねえか』

「抵抗できる騎士よりも、王を狙った方が確かに勝負は早くつく。騎士が戦いを挑むから、騎士同士が戦うことになる。しかし、騎士が、目の前の騎士を無視して、王めがけたら?」

『危険だな。それは、自分とこの王だって、倒される可能性がある』

「何も出来ないまま?」


 ユズハは何も言わなかった。

 ユズハはいつも言っていた。沈黙は肯定のサインだと。


「確信はない。無いけれど……」

『なんだ』

「騎士である者の力を信用し、王は自らその玉座に座る……」


 ナギはそこまでユズハに言ってから、昼にエイジと会ったときに話したことを思い出していた。

 ナギはカナタにもエイジにも聞きたいことがあったのだ。


「お前さ、なんで『王』になんの?いくらカナタがそれを望んだからと言って」

「なんですか唐突に。楽なんだから、いいじゃないですか。座ってみてるだけ。だから、今はたまたまカナタがケガしてるから……」


 エイジの隣では、カナタがいつもの笑顔で聞いていた。イチタカはコーヒーを注文している最中で、ここにはおらず、受け取りカウンターで待っていた。


「でも、あの席って、何だか困っちゃうよねえ」

「……なんで困んの?意味判んないし」

「いや、だって。エイジがピンチになったら『あ、危ない!!』何つって、何度か立ち上がっちゃいそうになるんだよね。オレ、向かないのかな、座ってるの」

「何だよそれ、オレの戦いを信用できないってか?」

「そうじゃなくて、フツーは心配するし?自分の身内だったら。あとはあれかな。格闘技の試合を見てると盛り上がって立ち上がったりするような感じ?」

「その二つを同列に扱うのはどうよ」


 エイジがわざとらしくそう言い放った。


「なに話してんのや?」


 イチタカがラテを手に戻ってきた。エイジの分も注文してくれたらしく、片方を手渡す。


「おごりや☆」

「あ、ありがとうございます」

「……さっきから気になってたんだが、この暑苦しい関西弁のにーちゃんは何者だ?」


 不審そうにイチタカ(の中途半端アフロヘア)を見つめるナギに、カナタが当たり障りのない説明をする。


「ユズハの後輩か。あの学部、いっぱい人がいるからわかんねえんだよな」

「……オレ、相当目立つと思うんやけど。院にもしょっちゅう顔出しとるし」

「いたっけ?」


 いぶかしげな顔をするナギに、イチタカは全力でつっこむ。


「何やこれ!周り全く見とらんのかい!!失礼な人やな!」

「指さすな。目上の人には敬意を払わんか」

「目上?誰が目上なんや!?」

「オレの方が年上だろうが、4つも!!」

「……あ、忘れてましたわ、先輩。て言うか、橘達と同じくらいに見えるよなあ……。妹達と3つ子って言われても、信じるかもしれへんわ」

「あるかそんなこと!もう22だというに!」


 机を叩きながら激昂するナギ。年のことと見かけのことは、なんだかんだ言って相当気にしているらしい。


「何だ、このうざい男は!カナタ!ちょっとコイツ連れ出せ!」

「え?!オレですか?」

「いいから!」


 吠えるナギに、カナタは仕方ないですね、と言う顔をしながら、笑顔でイチタカに謝った。


「何や橘……お前ほんま、ええヤツやな……こんな『オレ様』の言うこと聞いて。何か弱みでも握られてんのか?」

「別に何もないですけど。ナギさんて、こういう人ですから。その内機嫌も治りますよ。結構、すぐ忘れるんです。根に持つ人じゃないし。小島さんも痛い所つきすぎですよ」


 そう言いながら、カナタはイチタカを誘導し、別の席に移動する。


「……あーあ。これで、小島さん達が戻ってきたら、にこやかに受け入れないといけなくなったし?カナタにあんなこと言われた手前」

「わかってる。そんなこた。カナタがああいう態度に出るのも予想できてる」

「……へえ」


 意外だな。と思ったのが顔に出てしまい、一瞬エイジは焦ったが、その時、ナギの様子がおかしいのに気付いた。

 ふさぎ込んでいるようにも、考え込んでいるようにも見えた。彼にはいつもの覇気がないように見えた。


「逆らう、とか、我を通すってコトにも興味がないんだな、あいつは。いろんなことがどうでも良いって言う感じだ。淡泊すぎて拍子抜けするよ、よく」

「中緒兄とは正反対だからな、そう言う意味では」

「いや、オレも割と淡泊な……」

「どこが!?」


 思いっきり、心底いやそうな顔をしたエイジに、同じくらいいやそうな顔で返すナギ。


「……あんた、我の塊みたいな人じゃないですか。うっとうしいくらい熱いとことかあるし。自分自分って。そこまで強く、はっきりと、自分がどうしたいとか、自分の目的のためとか、プライドとかアイデンティティとか、そんなモンのために突き進める人はいないと思いますけど。悩みとかあっても即決即断しそうだもん、あんた」

「そうでもないぞ。悩むことはある」


 ナギはその時、いやな顔はしなかった。エイジはてっきり不愉快にさせてしまったかと思ったけど。


「何を?」


 この男に自身を暗くするような悩みがあるのか半信半疑ではあったが、カナタを呼び出したり、自分と二人だけで話す状況を作ったりするところを見ると、本当にあるのかも……などと思ってしまう。


「『玉座に座ることの意味』……ホントはどう考えてる?」

「どう?って、なんで?」


 エイジには意味が分からなかった。


「玉座に座る王を騎士が守りながら戦う。一見、あの戦いはそのように作られてる。でも、それはあくまで外からの見解であり、戦う騎士の見解でもある。……じゃあ、王は?あの玉座で何を考えている?」

「いや、まあ、騎士に頑張ってくれって言うしかないっしょ?」

「お前、カナタが戦ってるのを見て、そんな程度ですんでたか?オレに負けていくカナタを見て、お前は相当怒ってたじゃないか。ルールがある、カナタの立場がある、何より彼の視線がある。だから立たなかっただけで」

「……そう……かもしれないけど」

「だから、オレはお前のことは嫌いじゃない」


 こんなまっすぐな目で、こんなに簡単に、でも、こんなに重たく彼がそう言い放つのを聞いて、エイジはずるいと思った。

 何も知らないフリして、自分が全ての顔して……いや、彼にとっては自分が全てだと判ったからこそ、その彼の世界に自分が息づいていたことに少しだけ心が躍る。

 こうして、じわじわと人の心を浸食していくのかもしれない。この人の本質は、そこかも知れない。エイジにはずっと側に居続けているユズハの気持ちが分からないでもなかった。


「……ルールを理解した上で、『王』を選択する。それは戦わずにすむから?」

「じゃないのか?」

「いや、その選択も有りだろう。ヒジリとマドイがそうだからな。あの子達が、役割を交代することは考えられない。元々、ああやって生きている子達だし」

「他の側面があるってコト?」

「『王と騎士』なんて言うから、守るものと守られるモノって言う図式が出来る。でも、言葉を換えてみたらどうだ?王という言葉ではなく、騎士……いわゆる守護者が守る、アイテムとか、的とか」

「いきなりぞんざいな感じになってきたぞ、玉座が」


 頭の中に、イメージが出てきた。何だか急に安っぽくなった。

 ちょっと色を付けて、ロープレっぽく宝箱みたいにしてみようかとも思う。何だか欲望の権化が戦ってるみたいで気分が悪かった。


「騎士が『王』というアイテムを置いて、そこを餌にすると言う戦略は考えられないか?実際、王はほとんど動けないんだから、騎士が強うそうだった場合、騎士を無理矢理ボードから落とそうと考えるよりも、玉座でじっとしてる王を落とした方が楽だし早く決着が付く」

「そうだな。実際、そう言うコンビもいたし。中緒姉妹みたく、両方未知数に見える二人もいるけど、玉座に弱そうな奴が座って、騎士が見た目強うそうなヤツって言うコンビは結構いた。そのなかで、わざと騎士が鈍い動きをして、王を狙わせ、その隙をついて騎士を攻撃するって言う作戦をとってたヤツもいたけど。まあ、そいつらはカナタの敵じゃなかったんだけどね」

「自分とこの王を狙わせといて、相手の王をそのスキに狙うヤツとかは?」

「破れかぶれって感じで狙いにくるヤツはいたかな。でも、先に王を落とされたら負けちゃうし」


 いつの間にか手に鉛筆を持ち、紙ナプキンに落書きをしながら説明をするエイジ。既にぐちゃぐちゃになってて、何が何だか判らない状態だが。


「……まあ、確かに危ないけど」


 エイジは、ユズハの名前を出すのを躊躇ったが、核心に触れたかった。


「田所さんが、王になってる理由を悩んでるってコト?」

「……あいつは、充分すぎるくらい戦える。どちらかというと、オレより積極的に戦う方なんだ。口ではそんなに血の気が多くないって言うわりに、な」

「それなのに、『戦うのがめんどくさい』って言って、王になる?」

「他に目的があるんじゃないかって思えてきた。なんて言っていいか判らないけれど」

「……あの、何でその話、オレに?同じ話をカナタにも?」

「いや、カナタには同じ話だけど、違うことを聞いた。お前は、カナタとは違う。騎士である者を信用し、玉座に座る……」


 エイジは答えなかった。


「しかし、騎士を案じている。守られる立場にありながら、自らが前に立つことに抵抗がない。騎士は自由に動ける。自分を、騎士自身を守ることが出来る。しかし、王にはそれが出来ない。騎士が戦闘不能になるまで、的で居続けるしかない。でも、それを全て理解した上で、その場所を王が望んでいたら。自分の意志で、餌になることを望んでいたら。餌になることで、危険を全て承知の上で、騎士の身を守り、騎士に自由を与えていたのだとしたら」


 吐き気がする。

 エイジは思わず口元を押さえてしまった。


「どうした、エイジ?……そういやお前、体調悪くて寝てたっつってたのに。飯食いに出てきただけなんだもんな。長いことつき合わせて悪かったな」

「いや……ちがう」


 違うと言ったくせに、彼の顔は真っ青だった。


「リスクがある場所なのは、オレも理解してる。カナタも理解してる。それでも、彼が自由に出来る。王であるオレを守ると言った」

「エイジ?」

「彼はそれを望んだ。だから、オレは玉座に座った」



 その時のエイジの表情を、ナギは忘れられなかった。

 彼が自身の心を隠すことなく、出していた。それが痛いほど伝わったから。

 カナタの鈍さを、あの暖簾のような手応えのなさを、少しだけ腹立たしく思った。


『なんだよ。お前、知恵熱でもでたんか?調子悪いならそっちに行ってやろうか?』


 ナギの沈黙に、ユズハは落ち着きのない声で必死で語りかけた。


「騎士である者を信用し、玉座に座る……。しかし、王という名の生け贄になることで、危険を全て承知の上で、騎士の身を守り、騎士に自由を与えていたのだとしたら」


 ほんの一瞬だった。1テンポ違う、それだけ。

 ナギはそのユズハの沈黙を、重く捉えた。


『なんだよ、それでそんなに暗くなってたのか?オレがそんな下らんことのために玉座に座ってるって?』

「くだらんことじゃない」

『くだらんだろう。オレがどういうつもりで座ってようが、お前が気にするコトじゃない。作戦を立てる上で、重要かもしれんが、そこにある思いなんて、どうでも良いことだ。大体、そのつもりでオレがそこに座っていたからって、お前が悩む理由がない』

「理由?」

『そうだ。仮にオレがそのつもりで玉座に座ってたら、お前は悦べばいいんじゃないか?お前の目的のため、お前が動きやすいように考えてるってコトじゃねえか。オレって良いヤツみたいだぞ、それ』

「嬉しくない」

『は?』

「だから、そんなつもりだとしたら、全然嬉しくない」

『……いやだから、仮に、の話だろ?オレはそんなつもりじゃ……』


 そんなつもりじゃない。

 ユズハがそう言うのが判っていたから、否定するのが判っていたから、ナギは電話を切り、部屋の隅に投げた。

 彼がこうしていろんな方法を、言い方を使って、本音を隠しているのに気付いていた。気付いてしまえるほど、彼との距離が近かったことを、ナギは当たり前のこととして受け止めていた。

 だからこそ、彼の行為に腹が立った。


 部屋の隅に投げられた携帯から、メールの着信音がする。こんな時間に一体誰なのか。音でユズハじゃないことは判ったのだが。

 ため息をつき、彼はのろのろとした動きで携帯を拾いに行った。作業台の下に転がっていた携帯を屈んだままその場で確認する。


「迷惑メールかよ。うぜえな」


 ますます気が滅入る。

 立ち上がって、作業台の上に見慣れない物が置いてあるのを確認する。


『私は、最後のステージにいる』


 例の青いカードだった。

 それを見てナギは確信した。主催者だか首謀者だか知らないが、コイツは確実に『ナギ』を狙っている。

 

 自分だけを。

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