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傭兵に敵や味方など意味は無い
「祕稀、まだ生きてたのか」
物騒な言葉とともにばんと後ろから肩を叩かれた。
「ああ、悪かったな。死にかけはするんだが、なかなか悪運が強くてな。
アライエル、お前こそもうとっくにくたばってたと思ってたが」
振り向きざま肩に置かれた手を掴み鳩尾に一発打ちこむ。
しかし俺の数倍ありそうな頑健な体をみごと軽やかに宙に浮かし、捕まれた手はそのままにひらりと交わす。
所詮ただの挨拶。
手を離した。
アライエル・ハドソン、もともとは何処かの軍の大尉だかなんだかだったらしい。
しかし、詳しい事情は知らないが今は傭兵となり、やはりその有能さ故名を馳せている。
傭兵を集めての作戦のときは指揮官的役割を果たしていることが多く、俺も何度となく仕事をともにしたことがある。
優秀で有能かつ慢ることなくさばさばした性格で付き合いやすく、外聞も内聞もよい。
俺も一緒に仕事をするのは悪くないと思う。
「お前も呼ばれたのか。ってことは、今回は結構物騒ってことだな」
服を払いながらアライエルがいう。
「そうだろうな、俺とお前が呼ばれるのはそういう話だろう」
そう答える俺の後ろから声がかけられた。
「やぁ祕稀、アライエル、軍師と魔術師がお揃いとはおっかないことで」
振り向くと金髪碧眼の美しい俳優のような男が立っていた。
「マーフィス!」
久々に会う馴染みの顔に思わず駆け寄ると、
「あっちにはほとんど集まってますよ、そこも凄い顔触ればかりです、早くいきましょう」
と挨拶もそこそこ、マーフィスにひっぱっていかれた。
「うわ…」
ホールに連れていかれた俺は言葉が出なかった。
「なんだ、戦争でも始める気か?」
後から付いてきていたアライエルも驚いたように洩らした。
戦争、確かにそんな感じだ。
しかもかなり大規模な戦争。
そんなものができそうなくらいな顔触れだ。
軍師と呼ばれるアライエル、魔術師と呼ばれる俺、策士と呼ばれるマーフィス、などなど二つ名をもつものがごろごろいる。
二つ名は傭兵のなかでも強い人物に対して称賛のようにつき、噂のように広まるものだ。
だから二つ名をもつものは少ないし、会うことなど滅多にない。
会っても敵としてであったりする。
二つ名をもつものが二人同じ軍に属するだけでも戦いの規模が大きいということなのだ。
なのに、ここには二人どころじゃない。
まるで世界中の猛者を集めたようだ。
「いったい誰を相手に戦うんだ?」
マーフィスに尋ねるが、やつも首を振り答える。
「さあ?私にもまだわからないんですよ。もうすぐ雇い主が説明にくるそうなので、そしたらはっきりするとは思いますよ」
情報に精通し人の心を読むのが巧い策士の言葉はあてになるのやらならないのやら。
でも、ここで隠しても仕方がないのだから、本当にわからないのだろう。
別にわかったからといって状況が変わるわけではない。
俺は久々に顔をあわせる面々と話をして時間をすごした。
しばらく経ってからホールの壇上に小太りの小さい男がマイクを持ってたった。
「みーなーさーん、こんにちわー」
何を血迷ったのか、その男はマイクに向かって叫びやがった。
高性能な集音マイクが余すとこなく声を拾い増幅する。
煩い。
なんだ、あの馬鹿、と殴りに行こうとしたらマーフィスにとめられた。
八つ当りにマーフィスを睨む。
「あれが今回の雇主だよ」
状況からかんがえると確かにそうだろう。
とりあえず、邪魔せず話を聞いてやることにした。
我慢の続く限り。
「ごめんなさい、緊張してしまいまして、つい、大声が、
あ、あの、私、今回皆様をお呼びさせていただいた、テーマパークエクリプスの園長、イン・ユエと申します、よ、よろしく。」
園長はたどたどしいながらも話し始めた。