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机上の空論は続く
「実は見切り発車な感じだな。
で、タナトスを剥がしたり戻したりって具体的にはどういう技術なんだ」
「タナトスとコギトはどうやってアモの状態を保っているかと言えば同調してるんだ。
個々の生命で微妙に異なるのだけど。
それでね、まずその個体の同調律を感知してちょっとだけずらしたものをあてるんだ。
タナトスはコギトより影響を受けやすいからタナトスが引きずられてる。
すると同調が乱れ繋がりが弱まる。
そこでタナトスがくっつくものでタナトスを引っ張る。
金属と磁石みたいな感じでね。
それで剥がせる。
また、戻すときはね逆なんだ。
離れたタナトスはやがて安定した律を持つ。
だから剥がして安定したら其の律を記録するんだ。
それをもとに、タナトスを呼び戻してコギトの律をタナトスにあてるとアモに戻る。
そういう感じかな。
それでね、律を検知する機械を父様が作ったの」
「律ねえ。なんか眉唾だな。実感が湧かない」
「関屋、勿論今のは例えだよ。分かりやすく言っただけ。実際の理論はもっと論理的だ」
「認識はしてるがか理解には至らないという感じなんだよな。
まぁそれを言うなら紫苑の方が嘘臭いよな。魔術師だということもその存在もさ」
さり気ない俺の暴言に紫苑が反論する。
「嘘臭いとは失敬な。大体、私は意匠が本職であって魔術は趣味さ。
しかし魔術だって理論に理論を積み重ね数と式とに表される論理だよ。
そういう点ではタナトスと同じだ。ただ発現形が異なるだけだ。
物理学の延長にタナトスがあり化学の延長に魔術がある、そういうことさ」
「ああ、何か似たような事を祕稀もいってたな」
「彼も一応私の弟子だからな。お前の弟にしては筋が良いよ」
「どういう意味だよ、煩いな」
結局話が二転三転してしまったが、仕組みの概要は何となくわかった。
本当は医師の端くれとしてコメントしたいが、何とも言えないのが正直なところである。
タナトスに関しては未知数な部分が大きいのだ。
「そういえば、祕稀が帰って来るときいたのだが」
紫苑が言う。
「さあ。どちらにしろ俺には何も連絡しないのじゃないかな。あいつ俺の事嫌ってるから」
原因はわかっているがどちらが元凶なのかは分からない。
とにかく祕稀は俺の事を嫌っていて、俺は祕稀だけではなく一般に誰も相手にしない。
話すのはイオと紫苑くらいだ。
「祕稀?昨日会ったよ」
イオが事もなげに言った。
「はぁ?」
驚いた。
とても。
思わず声が出るほどに。
何処に居て何をやってるか全く分からない祕稀に会ったと言うこともだが、
家族や俺や紫苑以外の人間と会うことが皆無に近いイオが会ったということも驚愕だ。
「さっき話したエクリプスを開園の日、
イベントのクライマックスの時に壊すという予告状が園長さんに届いてて、
それの阻止の為に園から幾人か傭兵を雇ったらしいんだ。
その中に祕稀もいたみたいだね。
傭兵の初顔合わせが昨日エクリプスであって、
私は父様と一緒に装置の最終調整の為にエクリプスに行っていて、偶然ね」