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そして 物語は 始まった
「新しいおもちゃを作ったんだ」
イオが唐突にそう切り出してきた。
此処はいつもの診察室。
イオもまたいつもの如く注射を打ちにきた。
そして今は治療を終えてお茶でも飲んでいるところだった。
心地好い沈黙。
生み出しそしてそれを壊すのは、いつもイオだ。
俺は大体黙っている、か、軽く相槌を打つだけだ。
彼女はまたぽつぽつと語る。
「新種の玩具、或いは兵器みたいなものを作ったんだ。
その、あの、父様と私で、ということなんだが」
そしてまた黙る。
意図的なのか無意識なのかはわからないが、これ以上を彼女が進んで話すことは無いだろう。
先を促さない限り。
しかし興味深い話ではある。
「んで、どういう種類のおもちゃなんだ?」
すると彼女はまたしゃべりだす。
「えと、あの、えー、タナトスを外から干渉して引き剥がすの、好きな時に」
「無理矢理にでも?」
「強制的に」
それで『兵器』でもあるのか。
でもまだ『玩具』がわからない。
「んで、それをどう使うんだ?」
「えと、んと、遊ぶの、タナトスのままで」
「…すまん、わからない」
「だから、タナトス状態を人工的に作り出して、その状態で遊ぶんだ」
段々冗舌になってきた。
あとは軽い相槌だけでも話すだろう。
「関屋も知ってるだろ。
タナトスだとかなりの制限が無くなるから今までに無かったほどの、
それこそまさに非現実的なアトラクションが作れるんだ。
タナトスとは一種のエネルギー体の実像だ。
光と同じで触れないけど見える。
或いは音と同じで実体を持たない振動みたいなものだ。
だからアトラクションにしたって、そういうのを作ればタナトス状態で遊べるんだよ。」
まぁ何となくわかったかわかってないかというとこだな。
とりあえず頷く。
イオは紅茶を二口のんでまた続ける。
「アトラクションに於いて注意しなければならないのはタナトスの安全。
どういうファクターがどういう風に影響するかはまだよくわかってないけど、
とりあえずタナトスが傷ついたら死んでしまう。
それから時間。
離れすぎると死んでしまうから。
つまり、注意事項が致死的問題に直結してる。
それがアトラクションとしての実用化に向けての難点なんだ」