4
そこまで話終えると男は黙って下を向いた…所をイオが軽く蹴る。
「嘘吐き」強く鋭い言葉で男を非難する。
関谷達は黙して見守る。
男は何が起きたのかとほうけた顔で見上げる。
「嘘だ。全部知ってる。ムムから聞いたんだ。
助けたくともどうしたらいいかわからなかった?
助ける気もなかったくせに。
ククの見てくれが気に入った。でも中身は気にくわない。じゃあタナトスを封じてしまおう。
そのためタナトスを閉じ込める瓶を買った。外見も中身も好みじゃないムムはその実験台に。
タナトスとコギトは長く離すと死んでしまうと知っていながら、
そして瓶の使い方を知りながらムムのタナトスを戻さずに見殺しにした。
ククの時は時折戻してるんだろう。そしてまた瓶に入れる。
…最悪な嘘吐きめ」
イオは全く静かに断ずる。
そしてククの側に寄り瓶を手に取ると紫苑に向かって放った。
男はやっと慌てたが、動く前に全てが終わった。
紫苑は何処からともなく水を注ぎ、瓶が一杯になると中からククのタナトスが出てきた。
それはコギトに戻ると、ククは目覚めた。
「…有難う」
小さくでも柔らかいククの声。
イオは少し目を細めて言った。
「御礼はムムに。タナトスだけの状態で限られた時間しか存在出来ないのに、知らせてくれたから」
いつの間にか関谷が側に来ていた。
医者らしく軽く脈を取ったり呼吸を診たりしたあと
「大事は無い。取りあえず寝な」
と休ませる。
それを聞いてイオはようやく安心し、男の方を振り向いた。
紫苑が瓶をもて遊びながらさりげなく男に話かけ束縛している。
「この我が侭な瓶はいっつもお腹が空いてるから何かを入れて満たせば満足して吐き出すって説明うけたはずだよなぁ。
まさかタナトスまで食うとは考えなかったが」
男はこの言葉に腰が抜けたらしい。
「じゃ、じゃ、お前が悪魔…」
と恐怖混じりにかろうじて呟く。
「…あの古物商の言った事は本当だったとは…」とぼんやりと吐く。
「悪魔とは失礼な。大方悪魔の手に因るから何でも閉じ込められるとか言われたのだろう、こんな使い方をするとはな」
と魔術師は瓶の中の水を捨てる。
そして今度はイオが会話に入ってきた。
「やっぱりしーちゃんが作ったんだね、その瓶」
特に責めるでもなく静かなイオの声には確実に怒りが内包されている。
紫苑はしかし、平然と答える。
「ばれてたか」
「うん。じゃなきゃ君来ないだろう。でも、なんで?」
なんでそんなの作ったのかと尋ねる。
「作りたかったから。私は意匠さ。物を創る存在だ。ただ魔術も使えるからこんなものになってしまうが。ただ作りたかった」
魔術師の言葉は響く。
罪悪感も反省も無く平然と。
魔術師はイオに近づき瓶を渡す。
「でも、作ったら、要らないから売ったのさ」
そして、イオの髪をくしゃと撫でて姿を消した。
「…逃げた」
少し悔しげに呟くイオの肩を関谷が軽く叩く。
「いつもの事だろ、帰るか」
そして男を立ち上がらせる。
外に出ると既に連行用の係がいた。
紫苑が呼んだらしい。
男を引き渡す。
去り際、男が悪いのはあの魔術師だと言っているのが聞こえた。
一理あるなと思いながらも、イオはこう考える。
道具は道具に過ぎず。
使う人の意思によりいいものだったり悪いものだったりする。
結局使い方を誤ったあんたが悪いんだ。
イオの言葉は届く事無く、あの男はずっと回りに責任転嫁していくのだろう。
「関係無いさ」
イオは病院に戻り中断したお茶会を再開しやがて帰宅した。
結局瓶は関谷が引受ける事になった。
今でも関谷の部屋にある。
金魚が中を泳いでいる。