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タナトス  作者: とも
タナトス
3/29

関谷の受け持つ患者はイオただ一人であり、また彼に関しては如何なる制限も設けられていないため、


外出は好きに出来るのだが、それを渋ったのは単に面倒くさかっただけだ。


しかし、取りあえず着いていくことにしたのは他ならぬイオの頼みであるということと久々に三人で会うかと思ったからだ。


還らずの森の悪魔に会うのはなかなか至難の業である。


彼は有像無像の区別無くありとあらゆる事行う事の出来る魔術師である、と本人はそう話している。


確かに彼に不可能な事は無いように思われる。


一体どうやって身に付けたのか怪しい程に。


病院の外に出て関谷の隣に並ぶとイオは微かな声で歌らしきものを詠う。


不確かな旋律と意味。


軽く関谷の外套の端を引く。


と同時に二人の周囲の空間が一瞬ぶれたと思ったらその姿がかき消えた。


そして二人が現れたのは、狭く位部屋であった。


目前に長い黒髪の人物が立っている。


イオは歩みよると声をかけた。


「久しぶり。有難う、しぃちゃん」


しぃちゃんと呼ばれた黒髪は応じる。


「久しいな、イオ。別に移動させるなんてたいした事では無い。


なんだったらそこの黒いのはどっかに捨て置けば良かったな」


厚顔不遜、傲慢で尊大な魔術師。


それを聞いてイオは微かに笑い、また黒いのと呼ばれた関谷は完璧に受け流し返事をする。


「腐れ魔術師め、ついに脳まで腐り溶けて無くなったのか?」


それを聞いて魔術師は


「違うさ。まっとうな人間として有害廃棄物を捨てようと思うのは当然だろう。一応燃えるごみでだしてやる」


と応酬する。


このようなやり取りは二人の間ではいつもの事で悪意や敵意などない挨拶のようなものだ。


しかし時間が勿体無いとイオは関谷が何か言う前に割り込んだ。


「二人共、遊ぶのは後にしなよ。仕事なんだ」


軽口を止めた二人と共にイオは部屋の隅の寝台に近付いた。


確かに、女性が寝ている。


大変美しい女性で一見ただ眠っているように見える。


呼吸など生命維持は自発的に行われているがタナトスは見当たらない。


イオは言う。


「タナトスが無い。この人、死ぬよ」


その時、部屋の扉が開いた。


「だっ、だっ、誰だー」


酷く狼狽した男性が駆け込んでくる。


そしてイオ達と女性の間に立つと睨んだ。


「どうやって入ったんだ?ククに近寄るなー」


嗚呼、とイオは思い出す。


自分達は玄関から入ったのではなかったと。


見つかった。


しかし今更後悔しても遅い。


魔術師と医師はさも無関係の如く静観している。


「貴方は誰だ?私はその女性の調査を頼まれた。その女性の姉に」


イオはまるで悪気なくくりだす。


「えっ、ムムが?」


男性は狼狽するが一歩も引かない。


「そう。双子の妹が目覚めないからって。タナトスが無いからそれが原因じゃないかって」


男の顔からは血の気が引き冷汗まで浮きはじめた。


「そ、そんな筈は…」


「有るわけ無いって?そりゃ信じられ無いよね、自分でムムが死んだのを見たから」


イオが全く静かに述べると、男は黙れと叫びながらイオに飛びかかった。


しかし、それまで傍観していた二人が禦ぐ。


「関谷、殺るか?」


魔術師は物騒な事を呟く。


「止めとけ紫苑、貴重な証人だ。


しかもこいつ自分の悪事がばれたからってイオに手をだそうとしたんだ。


俺の実験で使う。死にたくなるほど後悔させてやるさ」


男は魔術師、紫苑に魔術で床に投げ出され、関谷に頭を足蹴にされ、更に追い討ちのような台詞をかけられた。


そこでイオが言う。


「馬鹿だな、あんた、ほんと。でもさ、なんでムムを殺したんだ?言えよ」


関谷は足を退けるが男は答えない。


腰が抜けたのか立ち上がろうとするものの、叶わない。


イオは更に言葉を紡ぐ。


「自分の口で自分の意思を語るんだ」


男はようやく脅えた風に喋り出す。


「…そ、そんなつもりじゃ…。…殺す気はなかったんだ。」


話しているうちに落ち着いたのか、はいつくばった姿勢から床に座り直した。


そして反省した様子で続ける。


「そう、ちょっとした手違いだったんだ。先日私は骨董品の店である不思議な硝子瓶を見つけた。


つい衝動買いを為てしまったが、それがどんなものなのか知らずククに贈ってしまった。


不幸にも彼女は気に入ってそれを飾っていた。


しかしそれはタナトスを中に封じてしまうものだったらしく、


知らずその瓶の蓋を触ったムムはタナトスを取り込まれてしまった。


私はククから連絡を受けて急いで駆け付けた。


私だって何とか助けだしたかった。


しかしどうすればよいか分からず…そうこうしているうちにタナトスを失ったククの身体、


コギトは冷たくなっていった。


その後、今度はククが蓋に触ったら、


ムムのタナトスが出されククのタナトスが吸い込まれたのだ。


僕は、でも、どうしたらよいかわからず、


かといって自分が取り込まれる勇気もなくただククの体を守ってるのだ。


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