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タナトス  作者: とも
ワンダーランド
26/29

21



開演日当日。

外に出ると朝なのに真っ暗で、かつて数年いた白夜の町を思い出された。

最初俺たちは園長に挨拶し、その後アライエルはパレードに、マーフィスは中央広場に向かい俺はその場に残る。

全て計画どおりに動いている。

程無くして、待ちに待っていた開演の時間になった。

一斉に大勢の人が入ってくる。



しかしおかしな事に、俺の機械には雑音一つ入ってこない。

周囲の思念を、いつもうざったいくらいに勝手にひろいやがるはずなのだが。

これほどの人混みにいて、まるで誰もいないかのように。



そんな違和感を抱きつつも、半からの園内放送のために園長に付き従って本部棟に入った。

園内が一望出来る高い棟。

夜空の下、外套がともり、ひしめき合う人々。


それから一時間経って今度は園長が園内を歩きたいというのでそれについて外に出た。

実際こんな人混みの中を動くくらいなら本部に居て貰った方が楽なのだが、仕方ない。

と、そこに恐ろしいことに、イオが人込みを平然とあるいていた。

あの人間恐怖症が、…やれば出来るじゃないか。

少し人が居ないところで園長と俺が立ち止まるとこちらに気付いたイオが人をかき分け近寄ってくる。

勿論俺から話しかけないと話しは始まらないのだが。

「よぉ、お前、よくこんな人混みの中歩けてるな」

そういうと、イオは一瞬複雑な顔をしたが、直ぐいつもの顔になった。

「別に、平気」

次に園長が声をかけた。

「タナトスさん、カシオペアの方はいかがですか?」

イオは少し考え込みながら答える。

「今のとこ、大丈夫。何かあっても直ぐわかる」

すると園長が言った。

「タナトスさんも一緒に回りませんか?」

珍しいことにイオが頷いた。

てっきり一人で居ることを選ぶと思ったのだが。

しかし、さりげなく園長の後を行く俺の後を歩いている。

園長はそんな事は気にせず歩いていく。

とりあえず、俺とイオがそろっていれば用は事足りるのだろう。




様々な施設の様子を見ながら歩いていると、正午が近づいて来た。

「もうすぐ花火ですか?」

園長に声をかける。

彼は振り向くと、にこやかに笑いながら言った。

「そうなんです。暗闇で眠くなっていても目が覚めるほど盛大に打ち上げますよ」



そして、花火が打ち上がった。



誰からの連絡も無い。

何処も、何も、問題は起きていないようだ。

イオを見る。

目が合うと、首を横に振った。

つまり何も問題ないと言うことだろう。


園長がにこにこしながら言った。

「モニュメントの方へ行きましょうか?」

言われるが間々についていく。

特設会場の近くに大きな不思議なモニュメントがある。

月蝕をテーマにしたものと言われたが、俺には理解できない。



モニュメントの少し手前で、突然体が動かなくなった。

声を出そうとしても、声すら出ない。

後からイオの思念が飛んできた。

(動かない。イン・ユエの仕業。魔力?) ああ、畜生。やられた。

悔しさがこみ上げて来たが、直ぐに冷静になる。

こういうときは焦った方が負けだ。

(魔力だ。俺なんか太刀打ちできないくらい強えーよ)

園長を見ると、モニュメントの下に行き何事か唱えている。

(花火で始動出来なかった魔術を詠唱で始動させようとしてるんだろう)

イオに伝える。まあ、魔術にあまり詳しくないイオには何がなんだかわからないだろうが。

でもおかしい。何もおこらない。

園長自身も何故魔術が始動しないのかわかっていないみたいだ。

今度は指で空中に円陣を書きながら何かを唱え始めた。

多分、ルゲルを起こす魔術を最初からやり直しているのだろう。

真下を中心に俺たちが居るあたりの空気が歪み始めた。

ルゲルの眠っている場所がここなのだ、きっと。

(イオ、やばい、ルゲルが起きる)

と、思念を飛ばすとそれにかぶってイオから届いた。

(もう、起きてる)


園長の傍にあったモニュメントが溶けるように消えた。

変わりに真っ黒の空間が浮かんでいる。

ルゲル、か。

冷や汗が出るほど強く歪んだ魔力の固まり。


そこで、体が自由になった。

もう、束縛は必要ないということか。

確かに、この魔力には太刀打ち出来ない。

俺なんかじゃどうしようもないだろう。


歪みが一層濃くなった。

ルゲルが生命を吸収する魔術を発動させようとしている。


しかし、何も変化が無い。

おかしい。

園長、イン・ユエも不思議そうな顔をして居る。




そのとき、脳天気な声が響いた。




「わりい、遅くなった」




まるで、映画のヒーローみたいなタイミングに兄貴が登場した。

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