20
ふて寝をして気付いたら翌朝。
ひんやりとした空気に頭が冴え渡る。
今更、何で気づかなかったのか。
おかしいとは思っていた。
元々俺が責任者などというたいそうな立場になるなんざ。
リーダー的な役割や仲介役として名を馳せていたマーフィスやアライエルなら誰もが妥当と思うだろう。
しかし、俺は単に名の売れ始めた傭兵。
言って見れば半分は師匠のせいでもある。
弟子を採ったことの無いあの悪名高い師匠の弟子と言うのは、それだけで気になるらしいからな。
でも、奇妙なのはそれだけじゃあない。
これだけ沢山の傭兵が居て、魔術師は俺だけ。
傭兵の世界に、確かに魔術師は少ないが希少というほどではない。
高名な人はもっと沢山いる。
それでも此処にいないというのは、きっと一人前ではなくて名前が売れていたのが俺くらいだった、ってとこか。
一人前であればルゲルの禁忌に気付いて近寄らなかったのだろう。
しかし、俺はそこそこ名が売れていながらも、ルゲルの事を知らなかったから来た。
これは一体誤算だったのだろうか。
まあとにかく一人ならば、近くに居れば目が届いて管理できる、或いは俺くらいならすぐに押さえられるとかいう立場なんだろうな。
悔しいことに。
だが、事実でもあるのだろう。
夜空を作る。
しかも半端じゃない広さに信じられないほどの長時間それを保つ。
かなり難易度が高いし、魔力も必要だろう。
師匠でも、・・・まああの人は規格外かもしれないが、ちょっとはてこづるだろう。
俺は、その足元にでも及ぶだろうか。
若干気が滅入って来たので、出かける事にした。
まあこの用事も気が滅入る物だが。
というのも、イオが昨日帰り際に言ったのだ。
「すごく、協力した。疲れたから、関谷から薬貰ってきて、明日頂戴」
単なる嫌がらせだ。
しかし、あいつはこのイベントに欠かせないだろう。
仕方がないので兄貴のところに薬を取りに行くことにした。
頂戴、というのはつまり『届けて頂戴』ってことだ。
贅沢なあの小娘はわざわざ兄貴のとこまで薬を取りに行かせたあげく、あのタナトス博士の家まで届けろという意味を込めて言ったのだろう。
しかし、タナトス博士の異常なまでの愛情というか、妻と娘の為に小国、いや大国にも匹敵する堅牢な防壁と警備は傭兵の間でも有名なのだ。
正直言って、中に入りたくない。
ということで、素直に玄関の前にぶら下げて置いた。
どうせセンサーなどで家の周囲は探知してあるに違いない。
イオも気づいて自分でとりに出るだろう。
というか、これ以上は俺の管轄外だ。
そしてエクリプスに戻ることにした。
すっかり日が暮れていた。
やたら疲れた気がした一日だった。
開園前日、目覚めると昼頃に成っていて、アライエルにたたき起こされた。
傭兵の皆に段取りを話すということで集まってもらって居たのだった。
忘れていた。
マーフィスと二人から殴られたあと、本部に行った。
既に大勢の傭兵が集まっていた。
そうそうたるメンツにアライエルが説明をする。
「・・・大まかなスケジュールや班分けは以上。あとは班長にしたがってくれ」 マーフィスから説明を受けた班長が散らばる。
最後にアライエルがこう締めくくった。
「爆弾を使う可能性が高いと考えられる。
当日は多くの人が居ることだろう。そんな中爆発物を仕掛けられたら、多くの死傷者が出る。
戦いが無くて詰まらないかも知れないが、爆弾処理を頑張ってくれ。 報酬は、翌日に振り込まれる予定だ」
さすがプロ、みな頷いた。
全てはすごく静かにスムーズに終わった。
さあ、あとはパーティーが始まるのを待つだけだ。