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タナトス  作者: とも
ワンダーランド
14/29

和菓子談義







やっぱり紫苑の用事はろくでもない。



そう思いながら、

祕稀にいつのまにか増えている椅子をすすめ

いつのまにか置かれたティーセットに紅茶を注いで渡した。



「やぁ、兄貴。久しぶり」



長いことあっていなかったが、弟は…祕稀はより傭兵らしくなったようだった。

引き締まったしなやかな体付き。

音を立てない仕草。

それでも、声や話し方、雰囲気は変わってない。



「ああ、久しぶりだな。元気そうでなにより」



本当に久々に会う。

ともにテーブルについたなんて考えたらそれこそ10年じゃ足らない程昔だ。

だからより一層ありきたりな言葉しか返せない。



「やあ、まただね」


イオも漸く声をかける。

こいつはもともと話すのが好きではないし、俺や紫苑相手でないのでなおさら不得手だろう。

寧ろ、こうして会話に入ってきただけでも合格、というか祕稀を存外好いているのだと思うが、なんにせよ有り難い。



「やあ、イオ。こないだのあんたのお陰で面白い事がわかったぜ。有難う」



そう返すと祕稀は足元に置いていた袋から何かを取り出してイオに渡した。



「開けてい?」



不思議そうに受け取ったイオに祕稀は頷く。



丁寧に開かれた包み紙の中には『ふゆのひとひら』が入っていた。



「っ!わっ、有難う」



人前で余り感情の動かないイオも驚いている。

それもそうだろう。

俺もめーいっぱいびっくりだ。



『ゆきのひとひら』とはいろんな意味で物凄く有名な高級和菓子の名前である。

通常では絶対手に入らないと言われている。

というのも店自体がとても辺鄙な処にあるうえ時期や時間に異常に制約が有り、

更に注文したら出来上がりまで半日程待たねばならないという入手困難さ、

そのうえ値段は目を見張る程なためである。

俺もずいぶんと前に一度か二度食べたことが有るくらいだ。

しかし、その苦労に見合う、或いはそれ以上の味に出会えたように覚えている。

…すごくおいしかったのだ。



「ちょっとしたお礼さ。一緒に働くマーフィスってやつに買ってきてもらったのさ」



祕稀は事もなげにいう。



「それはお気の毒に」



イオが言う。



まったく同感だ。


基本的に一人一つしか買えない。

だから、そいつは赤の他人のために苦労を強いられたわけだ。



「しかも、マーフィスってあのマーフィス・グレンダだろ?白の策士と呼ばれた」


と、俺もついコメントしてしまった。


「何それ、関谷?」


イオが既に美味しそうに頬張りながら尋ねてくる。

羨ましい。



「マーフィス・グレンダって傭兵はな俺が聞いたことあるやつだとすると

そいつが絡むとそいつの策略やら話術やらで、

結局は争いが起こらず一滴も血が流れる事無く問題が解決するって有名なのさ。

だから無血の策士、白の策士って呼ばれてる」



「ふうん」



余り興味がなさそうにイオが返事をした。


まあそのお菓子の美味しさに比べたら致し方ない。



「よく知ってるな。その通りだよ。相変わらずあんたは情報通だ。

でもやつが気の毒な事はない。あいつには十分な情報が入るしな。」



「入る?入ったではなく?どういう事だ」



思わず尋ねた俺に祕稀が向き直る。



「つまりはな、俺が今日此処に来たのは兄貴に話を聞きにきたんだよ。

 エクリプス、『ルゲルの平野』の詳しい話をさ」


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