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魔術師 の 手品
「祕稀は…元気そうだったか?」
他に尋ねる事もなく、とりあえず当たり障りのないコメントを返す。
「ぎこちないな、関谷」
笑いながら紫苑が横槍を入れてくる。
黙れ、と睨むが気にした風もない。
「調子はまあまあなんじゃないかな。
エクリプスの園長は沢山の傭兵を雇ったみたいだけど、その指揮をとることになったみたいだ」
「珍しいな。集団行動は苦手だと思ってたが」
「ははは。私もそれは突っ込んじゃったよ。
そしたら本人もそういってた。でも、仕事だからって。」
「関谷に似ず、真面目な事だ」
紫苑がからかう。
俺もそう思う。
でも。
「てめぇに言われたくない」
「兄にも師匠にも似ず、だね」
冷静にイオが言った。
言い返す気も失せた。
「それで…祕稀の事はいいとして、紫苑、あんたは何できたんだ?」
滅多に外に出ないやつなのだ。
そのうえ人に会うのもうざいと嫌がるやつな筈だ。
それでもきたのだ。
しかも、俺の処に。
きっと何か用が有るに違いない。
それもまた格別に厄介な用だろう。
「別に。たいしたことじゃないさ」
嘘つけ。
「まあちょっとね」
早く吐け。
「会いに来たのさ」
バタンと扉の開く音がした。
この部屋に近づこうなんて人間なんて限られてる。
見ると…件のそれはもう久方ぶりに会う弟が立っていた。
「祕稀にね」
魔術師は手品を成功させたように微笑んだ。