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兎にも角にも仕事は始まる
園長は続ける。
「報酬はイベント終了後にお支払いいたします。
それについてはあとからお配りする資料を参考にしてください。
また陣頭指揮は策士マーフィスさん、軍師アライエルさん、魔術師祕稀さんにとっていただきます。」
厄介なことになった。
指揮を執れと。
俺には単独行動が向いてるのに。
「マーフィス、てめぇ計りやがったな」
睨み付けると平然とした表情で奴はいった。
「勿論」
しかし俺が何か仕掛ける前に俺の口を手で覆い、
「これも仕事のうちですよ」
と畳み込むように言った。
釈然としない。
…仕方ないか。
アライエルの元に行く。
「あんたに任せるから、よろしく」
アライエルも苦笑しながら頷く。
園長のほうを見やると舞台のそでに戻って誰かと話しているのが見えた。
イオ?
博士もいる。
ああ、確かタナトスを利用したアトラクションもあったか。
最新鋭の設備の整った施設。
その中の一押しアトラクションの一つがそれだった気がする。
会話の途中で園長がマーフィス、アライエル、そして俺の方を見やった。
恐らく警備の責任者だと説明してるのだろう。
園長に続いてイオとタナトス博士も視線を動かす。
一瞬に満たないくらい、僅かに、だが、確かにイオの視線が俺の上で止まり、
また園長のほうに戻っていった。
(祕稀、久しぶり)
突然、必要の無いときは断っている筈の装置の回路を利用して、イオの言葉が飛んできた。
一体どうやって、等という疑問はもう捨ててしまった。
とにかく、イオにはそういう芸当が可能なのだ。
タナトスとはそういう技術なのだ。
しかし、イオは滅多に他人と会話したりしない。
家族か、関谷か、紫苑か、仕事か。
久しぶり、なんて『挨拶』を寄越すことが信じられない事だ。
(聞こえてるだろ、祕稀、久しぶりだな)
慌てて俺も言葉を返す。
(ああ、聞こえてる。久しぶりだな、イオ)
どうやらタナトス博士と園長が話をしているらしく、
イオは話を聞いてる振りをして俺に意識を飛ばしているらしい。
(祕稀、あんたが警備の責任者らしいな。聞いたよ。てっきり一匹狼が似合うと思っていたけどな)
(全くだ。俺も今聞いたのさ。馬鹿馬鹿しい。でも、まぁ、仕事だからな)
(ふうん。ところで、関谷やしーちゃんには連絡しないのか?)
(紫苑には何もいわずとも伝わるさ。関谷は別に知りたくもないだろうし、言わないさ。)
(じゃあ、私が言ってもいいか?)
(・・・別に構わない)
何なんだ。
イオは一体何の用が在って話しかけてるのか、全く判らない。