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タナトス  作者: とも
タナトス
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歴史が進み、科学や魔術が、人類や世界が改変を重ね進歩を刻みやがてのっぴきならない最先端という末期に達したとき、それは発見された。


タナトス、と呼ばれる。


タナトス教授により発見され概念付けられ為そう呼ばれるが、奇しくも死を表す名前であり、ある意味ではその本質を言い当てている。


肉体は魂の有機的入れ物に過ぎず、生命の本質は魂といういわゆる一種の信号伝達の現れである、


という仮説から出発した教授は高々数年のうちにその信号を計測することに成功した。


当初は周囲からも学会からも、世界から見放され嘲られ見下されていた仮説も、


教授がタナトスを測定しやがては信号を変換し可視化することに成功した時には人類史上に名を残す発見とまで称賛されるにいたった。


両手を返したような周囲の態度に対して、しかし、教授は只、


総て世に存在する限りにおいて如何に無用な物と云えど有益な存在価値を備えていると謂うことが証明されたというわけだ、と最愛の夫人に洩らしただけだそうだ。


しかして、ここからタナトス学が始まったわけである。


現時点に於いて学問の主眼は如何に魂と呼ばれる信号状態で周囲に影響を及ぼすかということにある。


それはまるで電磁波に似て、やりようによっては場を作り力を作用させたり波動として伝達を行う事が出来る。


もはや可視化という段階はとうに過ぎ、装置を用いて誰もがタナトスを見る事が出来、またタナトス状態に至ることも可能だ。


だか、タナトス状態で某を行うということに関してはまだまだ発展途上にあり、タナトスに外部から影響を与える方法もまだ確固たるものではない。


タナトス状態における肉体を教授の夫人の名をとりコギトと言う。


このコギトに受けた影響はタナトスに波及する、それだけがわかっているのである。


この分野の第一人者はタナトスの系列であるイオという年若い少女である。


イオ・タナトス。


この名はしかし伝説或いはおとぎ話のように広がっている。


様々な噂が飛び交い中にはもっともらしい物もあればまったく冗談のような話もある。


それだけ彼女には目覚ましい業績があり、一方でまったく世界に姿を現していない。


いくつか彼女に付けられたあだ名がある。


弾き者。


まさしく然り。


このイオという少女は好んでタナトス学を研究しはじめた訳ではない。


ただ、せざるを得ない状況に陥った為、仕方なく始めた、


そしたら思いもかけず色々なことを発見してしまい辞める事も出来なくなったしまった、というのが真実に近い。


かつ、彼女はタナトス学を研究するにあたり有効な性質を備えている。


先天的なものか或いは後天的なものかは今となっては知りようがないが、彼女はタナトスを自由に扱う事が出来るのだ。


自己も他者も限らずに。


それは一種の才能であり、彼女はなるべくして研究者になったと言われる所以である。


殊に公になっている事実といえばタナトス教授とコギト夫人はイオを激愛しているということである。


偏愛。


愛しているからこそ、彼女が癌になることを畏れてその子宮や片肺、片腎などの臓器を出生後直ぐに摘出したとの逸話すらある。


事の真偽はともかく、そんな噂さえ生まれる程二人のイオへの愛情の注ぎ方は尋常ではない。


また、確かにイオは定期的に通院している。


そして、そんな物騒な噂を否定しないくらいに彼女は自らが多くの物を欠損していると自覚し信じていた。


通院も彼女のホルモン疾患に由来する。


不足するホルモンを補充しにいくのである。


このホルモン疾患は彼女の才能、タナトスを自由にする能力に少なからず関与していると言える。


補充を怠ったばかりに生死の堺をさ迷うということを幼い頃から幾度となく繰り返すうちにタナトスという状態、


通常では有り得ない状態に慣れていったのだろう。


タナトスではない状態、即ちタナトスとコギトが一体となっているいわゆる通常の状態をアモいう。


愛する、という言葉からとったという。


タナトスとアモには境界があると言われる。


アモからタナトスに移るには乗り越えるべき壁が存在する。


その壁は高く、乗り越えるのは想像を絶する苦難をうけると謂われている。


イオには、しかしその壁がほとんどなかったのだ。


それが幸か不幸かは判じ難い。


或いは判断の必要も意味もない事だろう。

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