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「完璧令嬢」と言われた私が婚約者から「ハリボテ」と罵られてからの一週間  作者: 真岡鮫


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9.花の名は…2日目②

「そう。だって、君にはこんな訳のわからない本よりも、好きなものがあるはずだろう?」


 アランは持っていた本をそっとテーブルを置き、ソファーにもたれた。


「好きなもの、ですか」

「ああ、そうだな……たとえば、クマのぬいぐるみとか?」

「アラン様……それはいつのお話ですか」


 冷ややかなリリアージュの視線にも、アランは微笑みで応える。


「ほら、白くてふわふわのクマだよ。ルーベンスが誕生日に送った」

「確かにお兄様からいただきましたが、あれは好きというか……」

「あれ? いつも枕元に置いているって、聞いているんだけどなぁ」

「なんで知って……まさか、そんなことまで話していらっしゃるの?」


 リリアージュは少し目をつり上げ、アランを見つめた。


「それはそれは、嬉しそうに自慢していたよ。我が親友殿は」

「まぁ。それを言うなら、悪友の間違いではございません? 私はもう、子供ではありませんから。」

「なら、今のリリア嬢は一体、どんなものが好きなのかな」

「どんなって……」


 ふいに顔を背けたリリアージュの目に飛び込んできたのは、華やかな白と控えめなアイスブルー。


「カサブランカとブルースター……あの花は、どちらも私の大好きな花です」

「花か……あれは、シロツメグサだったかな。ほら、子供の頃によく作った……」

「シロツメグサの冠、ですね。飽きずに二人で作り続けて……付き合ってくださった護衛騎士様方が、全員花の冠姿になってしまって」

「そうそう。もう庭からシロツメグサがなくなりそうだったね」

「確かに……」


 クスリと笑い声を漏らしたリリアージュに、穏やかに目を細めるアラン。

 そんなアランの視線に気付いたリリアージュは、一度深呼吸をしてから静かに微笑んだ。


「アラン様、もしよろしければもう一度図書室に行ってもよろしいでしょうか」

「リリア嬢、それは……」


 立ち上がったアランに首を振り、リリアージュはまっすぐ彼を見つめた。


「こちらは全て返却させていただきます。その上で新しい本を、お借りできればと」

「それは……どんな本なの?」


 わずかに視線を揺らしたアランに向かって、リリアージュは静かに微笑んだ。


「花の図鑑です。実は、いつも気になっていたんです。部屋の窓から見える花壇に咲く小さな花が……」

「それはいい。知らないことをそのままにできないのも君らしくて、すごくいいよ」

「アラン様……」


 パンッと大きく手を叩き、アランはわざとらしく腰に手を当てる。


「さぁ、そうと決まれば善は急げ、だ。リリア嬢、とりあえずそこの本を持ってくれる? 残りは私が持っていこう」


 ウインクと共にあっという間に分厚い本を何冊も抱えたアラン。


「まぁ、アラン様ご無理なさらず……」

「大丈夫、こう見えて力はあるからね」


 まるで飛び跳ねるような軽い足取りで、アランは部屋のドアを開け放つ。


「さぁ、リリア嬢。図書室までは私がエスコートさせてもらうけど、いいかな」

「もちろんです……アラン先生」

「先生って……」

「あら? この一週間は私にとって『先生』だって言ったのは、アラン様ですわ」


 イタズラっぽく微笑みながら、リリアージュは図書室に向け歩き出した。

 背筋を伸ばし前を向いたその背中に、アランはそっと呟く。


「先生、か……ねぇ、リリア嬢。本当は——」


「アラン様? どうかされましたか」

「いや、なんでもないよ……まだね」

「……はい」


 首を傾げるリリアージュに歩み寄ると、アランは彼女の歩幅に合わせ歩き出した。

 時折笑い声を上げながらゆったりと廊下を進む二人を、侍女のアンナは少し後ろから穏やかに見守っていた。


 そんな彼女のさらに後ろ。

 誰もいない廊下の角から、わずかに覗く赤毛。

 拳をきつく握りしめ、食い入るように二人の背中を追うその男の視線が鈍い光を放っていた。


「リリア……君が誰のものか、忘れたわけじゃない……だろ?」


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