4.意外な答え
リリアージュの口から零れ落ちたその言葉に、先に反応したのはルーベンスだった。
「そんなこと、当たり前だろう。こんなに可愛くて聡明で兄思いな妹が他にいるか? 私にとってリリアは、この世で唯一の完璧な令嬢だ」
涙ながらに彼女を抱きしめようとした彼の腕は、無情にも空を切った。
「お兄様……ありがとうございます。でも、今はアラン様にお伺いしているので、少し黙っていていただけますか」
彼女の微笑みに、目を泳がせるルーベンス。その横でアランは唇を緩めながら、わざとらしく一度咳払いをした。
「リリア嬢……それは世辞などいらない、そういう意味で合っているかな」
「はい。ぜひ忌憚ないご意見をいただければと思います」
まっすぐにアランを見つめ、リリアージュは小さく頭を下げた。
「なるほど……それなら一つ、条件があるんだ」
「条件、ですか?」
「あぁ。君は一体、何を隠しているの?」
口元には微笑みを貼り付けたまま、アランは冷ややかな視線をリリアージュに向ける。
「やはり、アラン様には隠し事なんてできませんね……」
この人には敵わない。
まっすぐに自分へと刺さるその真剣な眼差しに、リリアージュは静かに息を飲んだ。
彼女がアランと初めて出会ったのは、三歳の頃だった。
正妻の子である次男のガブリエルと長子ながら側室の子であるアラン。
諍いが起きないよう一歩引いた聡明な立ち振る舞いも、時折暴走しがちなルーベンスを笑顔で諌める愛嬌も、あの頃から何も変わってはいない。
「……わかりました。正直にお話いたします。ですが、非常にデリケートなことですので……」
「もちろん、私の胸だけに留めておくよ」
深く頷いた彼を見据えたまま、リリアージュは一度目を閉じ大きく息を吸った。
「……私はガブリエル様の婚約者として、ふさわしくないと考えております」
「はぁ?」
声を裏返すルーベンスを一瞥しつつ、アランはリリアージュに向け小さく頷く。
「あの方をお支えできるのは、私ではない。そう、思っております」
「何を言ってるんだ、リリア! これまでどれだけ……」
「ルーベンス、少し黙ってくれ。今はリリア嬢の話を聞きたい」
彼は悔しそうに顔を歪めたまま、静かに俯いた。
「ごめん、続けて」
「はい。私はこれまで『完璧な令嬢でいてほしい』というガブリエル様のお気持ちに、いつも寄り添ってきたつもりでした。でもそれは……独りよがりだったようです」
「リリア嬢、はっきり言っていいよ……見たのだろう?」
リリアージュは一瞬目を見開き、頷くように瞼を閉じた。
「王城の庭から聞こえてきたのです、仲睦まじく戯れる男女の声が。男性の方はガブリエル様、女性はカトリーヌと……」
「よりにもよって、相手があのダストン男爵家の女狐? 信じられん」
拳を震わせるルーベンスとは対照的に、アランは眉すら動かさずリリアージュを見つめていた。
「つまり、二人を恋仲だと疑う何かが?」
「疑うも何も……口付けなどされていたら、疑いようもございません」
ついに、アランも堪えきれず大きなため息を吐いた。
「リリア嬢、弟が不誠実なことを……本当に申し訳ない」
「いえ、私が至らなかったばかりに。現にガブリエル様は、私のことを『ハリボテ』と……」
「そんなわけあるか! リリアがここまで頑張っているのに、労いの手紙一つ寄越さない。そんな不誠実な男に何がわかる!」
ルーベンスは覆い被さるように、彼女を抱き寄せた。
「リリア、お前は私にとって完璧な妹だ。あんな男にとやかく言われる筋合いはない」
「お兄様、ありがとう。でも、私はアラン様にも正直なご意見をお聞きしたいのです……」
そっと兄を引き剥がしドレスを整えたリリアージュは、じっとアランを見据えた。
「改めてお伺いいたします。アラン様から見て、私は完璧な令嬢でしょうか」
「……わかった、正直に言うよ」
時計の針が交わるように、二人の視線が静かに絡み合う。
「リリア嬢、君は決して完璧な令嬢ではないよ」




