26.気合いの一発
「ガブリエル、後悔しておるのか」
静かな王の問いかけに返事はなく、ただ咽び泣く声だけが広間に響いていた。
「……お前は本当に儂に似ておる。凡庸で、肝心な判断をいつも間違う……」
そう言って、王は大きく息を吐いてからゆっくりと頭を上げた。
「だが、リリアージュ嬢はそんなお前に寄り添い、自らの力で支え続けるための努力を惜しまなかった……なのに、お前はどうだ?」
地を這うような低い声に、ガブリエルは恐る恐る顔を上げた。
「醜い嫉妬で彼女を傷つけたあげく、欲で大切なものを見失うなど、それがこの国を背負う人間のすることか!」
空気が震えるほどの怒号に、ガブリエルはただ項垂れるしかなかった。
その姿を王は静かに見つめ、厳しい面持ちでスッと立ち上がった。
「ガブリエル・レダール、お前のしたことはリリアージュ嬢を傷つけたばかりか、我が王家すらも貶める卑劣な行為であり、決して許されることではない。処分は後ほど伝える……連れて行け」
「はっ!」
騎士達に脇を抱えられたガブリエルは、そのまま静かに会場を出て行った。
「そして、カトリーヌ・ダストン。所詮男爵家と黙認してきたが、ここまですれば話は別だ。明確な意思を持って王家の婚約を破談にしようなど、許されると思うな……行け」
「待ってよ! ガブリエル様に愛されてるのは私なの! ねぇ、ちょっと……」
騎士に引きずられていくカトリーヌの喚き声は、扉の閉ざされるその瞬間まで続いていた。
「愚息がこんな騒ぎを起こしてしまい、本当に申し訳ない」
訪れた静けさの中、王は吐き出すように言葉を紡いだ。
「見ての通り、リリアージュ嬢には非がないことは明らかだ。皆、これからも彼女に力添えしてやってくれ……以上だ」
そのまま王は会場を後にし、最後まで見守っていた貴族達も静かに散らばっていった。
「……アラン」
「ルーベンス……すまない。私がいたのにこんなことになって……」
「お前は本当に優しすぎるんだ。だからこそ、ここぞと言う時に判断が鈍る……いつも、そう言ってるだろう」
「あぁ、その通りだ……」
「……それで、リリアのことはどうする?」
「どうするって……」
「諦めるのか」
「いや、でも、ここまで彼女を追い詰めたのは、私達王家の……」
「ったく……いい加減腹を括れ、アラン」
「うっ……!」
ルーベンスは重い拳をアランの腹に叩き込んだ。
「リリアのことだけじゃない、この国の未来だって、お前次第なんだ……この意味、わかるだろう」
「ルーベンス……」
「リリアならまだ城の前だ。御者には、理由を付けて馬車の出発を遅らせるよう言ってある」
「いや……今さら、彼女に何かを言えるような立場じゃ……」
「立場? だったら、自分で作れ!」
ルーベンスは扉を開け放ち、アランの背中を思いきり叩いた。
「行け、アラン・レダール!」




