25.劣等感の代償
「リリア……冗談だよな? この婚約は国が決めたことだぞ。お前のわがままなんかで、覆るわけがないだろ?」
震える指先を強く握り、ガブリエルは無理やり唇を引き上げた。
「ガブリエル様、先ほどもお伝えしたように、このことはすでに陛下にもご納得いただいております。ご自分のお言葉には責任が伴うと……これまで何度もお伝えしてきたはずですが」
「もっ、もしかして拗ねているのか? まさかエスコートしなかったくらいで、ここまで大事にするとはなぁ」
大袈裟に肩を揺らすガブリエルの笑い声が、虚しくホールに響き渡った。
「拗ねる……それほどの愛情がまだ私の中に残っていれば、こんなことにはならなかったかもしれません」
「……どっ、どういうことだ」
「私がどんなに努力をしても、ガブリエル様は笑顔の一つも向けてはくださらなかった。それどころか、いつしかガブリエル様のおそばには、別の女性が……」
リリアージュは立ち尽くすカトリーヌをじっと見据えた。
「なっ、何か文句ある! 自分がガブリエル様に相手にされなかっただけでしょ」
「たとえそうだったとしても、貴女が立場を弁えたご令嬢だったら、私も少しは理解できたかもしれませんね」
「リリア……お前、何を偉そうに! そこまで言うなら、愛妾の一人くらい認めたらどうだ!」
「ちょうど一週間前——私はこちらの庭に参りました」
「一週間前……庭……」
途端にガブリエルの顔色が青ざめた。
「……どうやら、ガブリエル様は覚えていらっしゃるようですね」
「いや、あっ……」
「先ほども申しましたように、お二人が立場を弁えられるのなら、悩むこともあったかもしれません。ですが……近衛に見張りをさせてまで、恥知らずな行為に及ぶ婚約者など、悩む余地すらございません」
「まっ、待ってくれ!」
「ガブリエル様がご決断されないのであれば、致し方ございません。私から申し上げます……」
「私の人生に貴方は必要ございません」
ガブリエルは体を震わせながらゆっくりと膝から崩れ落ちた。
「……リリア……リリア……」
俯いた彼の睫毛から、ぽたりと涙が落ちた。
だが、兄であるアランは慰めることなく、ただじっと彼のそばに佇んでいた。
「陛下、お約束通りガブリエル様との婚約はなかったことに……よろしいですね」
「あぁ……リリアージュ嬢、そなたの思うようにしてくれ」
「ありがとうございます。この場をお騒がせいたしましたこと、深くお詫び申し上げます……では、これ以上の混乱を避けるため、これにて失礼いたします」




