24.リリアージュの手紙
——突然このような手紙をお送りする無礼、お許しください。
そんな一文で始まるリリアージュの手紙が届けられたのは、アランによる「王妃教育の特別講義」が決まった次の日。
それは、ルーベンスの手によって直接王の手に渡された。
「陛下、昨夜は突然の申し出にも関わらず迅速にご対応いただき恐れ入ります」
「……かまわん。こちらの不義をあれだけ聞かされたら、断る理由もなかろう」
「陛下の寛大なお心ゆえに、ご子息方はとても素直にお育ちになったんでしょうね……」
「嫌味か……」
「滅相もない。人間、素直なのが一番です」
唇に笑みを浮かべ、ルーベンスは王をじっと見据えた。
「申し訳ございません、話が逸れました。実は、これをお渡しするために来たんです」
「……手紙?」
「ええ、リリアージュから預かって参りました。今回の陛下のご配慮について、妹からどうしてもお伝えしたいことがあると……」
ルーベンスは白い封筒を内ポケットから取り出すと、そっと手を伸ばした。
王の側近であるダミアンが静かに彼の元へ歩み寄り、その封筒は王へと運ばれた。
「……中身は?」
「陛下に宛てた手紙の内容を、私が知るはずがございません」
「……後で読んでおく」
「ありがとうございます。では、リリアにはそのように伝えておきます……それでは」
淡々と頭を下げ、すぐに背を向けたルーベンス。
王はあからさまに大きなため息を吐き出し、振り返らない彼を見送った——。
「リリア、もうここではっきりしてはどうだ? 答えは、出ているんだろう」
「……そうですね、お兄様」
明らかな焦りを見せた王を一瞥し、リリアージュは静かに前へ歩み出た。
「婚約破棄について、陛下には前もって手紙で申し出ておりました」
広間の空気が、ザワリと揺れた。
「ですが……すぐにお認めいただくことは叶いませんでした。そこで、私は不躾ながら陛下にある賭けをご提案いたしました」
「賭け……?」
二人の王子は、うわ言のように小さく呟いた。
「ガブリエル様の婚約者として、私は相応しいかどうか——ご子息達に判断を委ねてほしいと」
リリアージュは呆然とする二人の王子に向かい、穏やかな笑みを浮かべた。
「まずは、アラン様。この一週間、私は貴方と過ごして……ようやく本当の自分に向き合うことができました」
「リリア嬢……」
「……私はアラン様が仰るように、完璧ではない。悲しければ涙を流す、普通の人間です」
ほんの一瞬だけ目を閉じてから、リリアージュは深く息を吸い込んだ。
「そして、ガブリエル様……」
「……なんだよ」
「貴方はいつも私に婚約者として完璧でいろ、そう仰っていましたね」
「あぁ……」
「その言葉を信じ、努力を重ねて参りましたが……どうやら貴方が仰る通り、私はいつまで経っても完璧にはなれないようです」
そう言ってリリアージュは完璧な微笑みで、ガブリエルを見つめた。
「ハリボテの令嬢など、ガブリエル様には必要ございません……どうぞ遠慮なく、お切り捨ててくださいませ」




