22.アランの答え
「そうですね……」
アランはゆっくりと周囲を見渡し、静かに口を開いた。
「リリア嬢は、非常に努力家です。妃教育と称して必要以上の教養を課せられたようですが……それすらも、しっかり自分のものにされています」
アランが恐れず冷ややかな視線を父に送ると、王は黙ってそれを受け入れた。
「それに加え、ダンスは正確で誰よりも美しく、教えるはずの私が彼女とのダンスでは、素直に心が躍った……」
微かに緩んだ頬を落ち着かせるように、静かに息を吐いたアラン。
「ですが、彼女は決して『完璧令嬢』なんかではありません」
「ほら、見ろ! さすが兄上は、よくわかっていらっしゃる」
勝ち誇ったようにリリアージュを見下ろすガブリエルの視線に紛れ、カトリーヌも意地悪く唇を歪め彼女を見つめた。
「ねぇ、リリアージュ様って……」
「もしかして……本当は……」
集まった貴族達は堰を切ったように好き勝手に囁き、不躾な視線がリリアージュに注がれた。
それまで毅然と前を向いていたリリアージュだが、好奇の目の多さに思わず俯きかけた——その時だった。
「皆さま、勘違いしないでいただきたい」
その喧騒を打ち破る、涼やかで凛とした声。
リリアージュの前へ歩み出たアランは、彼女をそっと背に隠し、周囲の人々を見据えた。
「彼女がこれまで努力を続け身につけたものは、すべて完璧としか言いようがないものです……それは、皆さまもお分かりでしょう」
アランが不敵な笑みを浮かべたまま周囲に視線を投げると、貴族達はバツが悪そうに黙り込んだ。
「ですが、この国を背負う人間としてどんなに完璧だったとしても、彼女だって普通の令嬢。楽しい時は笑い、悲しいことがあれば涙を流す……」
その言葉に、リリアージュの瞳からついに涙が溢れた。
意思とは無関係に頬を伝うそれは、音もなく床へと零れ落ちていく。
「もし目の前で婚約者が自分を裏切れば、深く傷付くのは当たり前。そんなこともわからない男が、リリア嬢の婚約者? 笑わせないでくれ」
アランの鋭い眼差しに、ガブリエルは反論もできないまま、ただじっと兄を見つめるしかできなかった。
「……アランよ、すまない。そのくらいにしてくれないか」
人々の視線が声のする方へ、一気に集まった。
それまで一切口を出さなかった王が、目頭を抑え深くため息を吐く。
そして、ゆっくりと周囲を見渡してから、リリアージュを見据え小さく頷いた。
「国王陛下、お騒がせしてしまい申し訳ございません」
だが、彼女は驚く様子も見せることなく、静かに歩み出て深く頭を下げた。
「いや……謝るのはこちらの方だ。息子達がこのような場でそなたを巻き込むなど……あってはならん」
「お気遣い、痛み入ります」
リリアージュは再び静かに礼をした後、まっすぐ王に向き直った。
「陛下、私との約束は覚えておいででしょうか」
「あぁ……」
「リリア嬢。約束って一体……」
アランは目を見開いたまま、じっとリリアージュを見つめた。
「陛下……ではお約束通り、ガブリエル様との婚約破棄をお願い申し上げます」




