21.波乱の晩餐会②
「赤は、ガブリエル様の瞳のお色……エスコートしていただくなら、そのお色以外はありえませんわね」
そう言って穏やかに目を細めるだけのリリアージュに、カトリーヌは唇を噛みしめるしかできなかった。
「リリア、今日はエスコートできなくて悪かったな……だが、このカトリーヌを見れば、それも納得できるだろう?」
「……納得、ですか」
「ああ……大切なこの場で私の横にいるべきは、お前ではない。完璧なカトリーヌだということだよ」
カトリーヌの体を引き寄せ、ガブリエルはリリアージュを見下ろす。
だが、彼女は臆することなく静かに笑って見せた。
「ガブリエル殿下がそうお決めになったのなら、私に異論はございません。どうぞ、お好きになさってくださいませ」
「なっ、なんだその態度は!」
一瞬にして、会場が静まり返った。
周囲の不躾な視線は、次第に微かなざわめきに変わっていった。
「……ったく。特別講義か何か知らんが、お前は何も学んでないな」
「ガブリエル、やめるんだ。話があるなら後で聞く」
「後で? 人に聞かれたら困るようなことでもおありですか? アラン先生」
「ガブリエル……」
嫌味たらしい笑い声が上がったその時、リリアージュの瞳の色が変わった。
「ガブリエル様……訂正していただけますか」
「なっ、なんだいきなり」
「アラン様はこの一週間、一貫して紳士的に振る舞っていらっしゃいました。ですので、そのような発言はお控えください」
「なんだと……この私に、口ごたえするつもりか!」
大きく足を踏み鳴らし、ガブリエルはリリアージュを睨みつけた。
「口ごたえではございません。婚約者が間違ったことをすれば、きちんと正す。それは当然のことではないでしょうか?」
「うるさい! そもそもお前は『完璧令嬢』なんて言われて、その気になっていただけだ。結局、何もわかっちゃいない……」
その言葉を静かに受け止め、リリアージュはガブリエルを見つめたままゆっくりと口を開いた。
「……つまり、ガブリエル様にとって、私は完璧な令嬢ではない、そういうことでしょうか?」
「あぁ……そうだよ。完璧令嬢? 冗談じゃない。お前なんて完璧どころか、中身のない『ハリボテ令嬢』だよ!」
顔を歪め高笑いする二人を前にしても、リリアージュの目に悲しみの色など、まるでなかった。
それどころか、彼女は完璧な微笑みを浮かべながら穏やかに彼らを見つめていた。
「ガブリエル様の仰りたいことは、よくわかりました……」
わずかに唇を噛みしめたリリアージュ。
その瞬間、ガブリエルが安堵に目を細めたのを、彼女は見逃さなかった。
「……では、アラン様にもお伺いしてよろしいでしょうか?」
リリアージュがスッと手を差し出すと、アランは迷いのない足取りで一歩一歩彼女に近付いていく。
「一体どんなことでしょう……私に答えられることなら、なんなりと」
穏やかに微笑む彼に、リリアージュは小さく頷いた。
「この一週間、私をご指導くださり本当にありがとうございました……その上で、貴方様にお伺いいたします」
「……なんでしょうか」
「アラン様にとって、私は完璧な令嬢と言えるでしょうか?」




