17.差し出されたその手…6日目①
「リリア嬢、大丈夫? 今日は無理しなくても……」
「お気遣いありがとうございます。でも……」
リリアージュは静かに顔を上げ、真正面からアランを見据えた。
「やると言ったことは最後までやり抜く、これは我がハインツベル家の家訓ですから」
その瞳に宿る輝きに、アランも自然と頬を緩ませた。
「そうか……なら今日もよろしく、リリア嬢」
「はい。あの、アラン様……」
「ん?」
「少しお聞きしてもよろしいでしょうか」
「もちろんだよ。何?」
「昨日、帰り際に……」
ふいにアランと視線が重なったのは、ほんの数秒。
それだけで、リリアージュの胸には花が咲いたような安らぎが広がった。
「あっ、いえ……なんでもございません」
思わず目を伏せた彼女の頬が、ゆっくりと赤く染まっていく。
「あぁ……うん」
そう言って、アランもその隙間を埋めるように、紅茶に口をつけた。
優雅だ。
絵画のようなその美しさは何も変わらないのに、今の彼は穏やかな光に包まれているような優しさがあった。
「アラン様……あの課題のこと、なんですが」
「課題?」
「あら、先生はお忘れですか」
小さく笑い声を漏らし、リリアージュはアランを見上げた。
「もちろん、覚えているよ……『完璧な令嬢』とはどんな令嬢なのか」
「えぇ。その答えを自分で探してほしいと……」
「それで、答えは見つかったのかな?」
その問いかけに、リリアージュはアランを見つめ力強く頷いた。
「そうか……」
持っていたカップをそっとテーブルに置き、アランはリリアージュをまっすぐ見つめた。
「先生……そう言ってもらえるようなこと、何もできなかったな」
「そんなこと……アラン様がいなければ、自分と向き合うことはありませんでしたわ」
「リリア嬢……」
「この一週間、私のために貴重なお時間を割いていただき、本当にありがとうございました」
深々と頭を下げたリリアージュに、アランは小さく首を振る。
「気にしないで。王子なんて、案外仕事は少ないものだ」
「……私には優秀な兄がいることを、お忘れですか」
「なんだ……優秀な部下を持つと、見栄も張れやしないな」
大げさに手を広げたアランは、わざとらしく肩をすくめ笑って見せた。
今、アランの目の前にいるのは、親友の妹。
そして、弟の婚約者。
手を伸ばせば彼女に届くのに、その距離はひどく遠い。
「リリア嬢……」
「はい」
「私はこの一週間で、君に何かを教えられたなんて、思っていない。だけどね……」
アランは一度目を閉じ静かに息をつくと、リリアージュを見つめ微笑んだ。
「君を大切に想う人間が、ここにもいる……そのことを、どうしても知って欲しかったんだ」
「……アラン様」
彼は小さく息をついた後、おもむろに姿勢を正した。
「さぁ、私の教師生活もあと少し……リリア嬢、君が出した答えを、私に教えてくれないかな」
その言葉に、リリアージュはじっとアランを見つめ、指先を強く握り込んだ。
「……その前に、アラン様に一つお願いがございます」
「お願い?」
「はい……明日の晩餐会、私をエスコートしていただけないでしょうか」




