13.揺らぐ自信と揺れる心…4日目②
ハインツベル家にとって、リリアージュは待望の女の子だった。
結婚して早々、公爵夫妻の間には後継ぎとなる兄ルーベンスが生まれたが、それ以降なかなか子宝には恵まれなかった。
そんな中、コウノトリが運んできた無垢な女の子。
両親はもちろん、使用人達や兄であるルーベンスから有り余る程の愛を注がれ、彼女はまっすぐに成長していった。
「君が誰よりも聡明なのは、きっとお父上の影響だろう。そして、いるだけで人を笑顔にする華やかさは、公爵夫人そのもの……それに」
アランはゆっくりとした足取りで彼女に近付くと、俯くリリアージュの顔を覗き込んだ。
「こうやって、一人で何でも抱え込んでしまうところは、ルーベンスの悪い癖にそっくりだ」
「アラン様……」
「しかもタチが悪いのは、二人とも優秀過ぎることだ。大概のことは一人でなんとかしてしまえる……」
力なく微笑んだアランは、姿勢を正しリリアージュを見つめた。
「それを……あいつは……」
明らかな怒気を含んだアランの声色に、リリアージュは恐る恐る顔を上げた。
「アラン様……」
リリアージュの視線に気付いたアランは、目を閉じ大きく一度深呼吸すると、ゆっくりと彼女を見据えた。
「リリア嬢、いい?」
まるで深い海のように色濃く染まったアランの瞳に、リリアージュは静かに息を呑んだ。
「君はもっと、自分自身を信じてあげるべきだよ」
「でも……」
「七年、ルーベンスが言っていただろう? それだけの年月は、君の中にちゃんと存在している」
「私の……中に……」
「あぁ、あの見事なカーテシー、誰もができると思ってる?」
リリアージュは胸に手を当て、静かに瞼を閉じた。
父と共に国王陛下に謁見し、婚約者であるガブリエルに初めて会ったあの日。
そこから、リリアージュの日々は様変わりした。
「今まで一度も弱音を吐いたこと、ないよね? ルーベンスが言っていた」
「えっ」
「ずっと心配していたよ。どう声をかけたらいいんだ? なんて、あの大きな体で頭を抱えて」
「お兄様……」
「でも、その強さがあったからこそ……君だけの魅力があるんじゃないかな」
穏やかに微笑んでいたアランは、表情を一変。
「……むやみに体に触れたり、閨事を想像させるような誘惑なんかいらない。今のままで、君は十分魅力的なんだよ」
「それは……」
「もしかして、自分ではわからない? なら私が教えてあげるよ」
アランはぐっとリリアージュとの距離をつめ、耳元に顔を寄せる。
「この艶やかな髪が揺れるだけで、男は釘付けになる。ほら、その顔だって……」
リリアージュが思わず後ずさるも、アランの勢いは止まらない。
「それなのに、君がそういう男の言いなりになる必要がどこに? こっちから捨ててやればいい」
「アッ、アラン様!」
平然とそう言い切り、アランは満面の笑みを見せた。
リリアージュは慌てて周りを見回すも、アンナはもちろん、城の護衛騎士ですらも真顔でそっぽを向いていた。
「私の言いたいこと、分かってくれた?」
リリアージュは黙ったままアランを見つめた後、ふいに呟いた。
「もしかして……アラン様もそう思ってくださっているのですか?」
アランはそれには何も答えず、優しい笑みを浮かべるだけ。
リリアージュはそんな彼から、視線を逸らすことができなかった。




