12.揺らぐ自信と揺れる心…4日目①
「ですから……私が教えていただきたいのは、こういったものではなくて」
見事なカーテシーを披露した後、リリアージュは言葉を飲み込んだ。
「でも、今日は立ち振る舞いを見てほしい、そう言ったのは君だよ。カーテシーはその基本だと思うけど……」
わざとらしく眉を寄せながら、少し頬を膨らませたアランは彼女を見つめた。
「あの……私が言ったのはそういったものではなく、その……もっと……」
「もっと、何?」
「もっと、その……女性らしいというか」
珍しく言葉を詰まらせ、リリアージュは視線を揺らす。
「リリア嬢、もう少し具体的に言ってくれないと、私も……」
「だから、その……アラン様だって、きっと……」
「私? 私が何?」
「ですから……」
まっすぐにアランを見上げ唇を噛み締めていたリリアージュは、一度大きく息を吸い口を開いた。
「私が知りたいのは……殿方から見て魅力的な振る舞いなんです」
次第にリリアージュの顔が赤く染まり、対照的にアランの目からは光が消えた。
「それは……どういう意味?」
リリアージュはまだ俯いたまま、彼の顔に張り付いた微笑みにも気付いていない。
「以前、ガブリエル様が仰ったんです。君の振る舞いは素晴らしい。だが、女性としての華がないと……」
「華、ねぇ……」
握られたアランの指先が、かすかに震えた。
「ええ。どんなに綺麗なカーテシーを披露しても、心が動かない、と」
「……随分と言ってくれるじゃないか」
「えっ……」
顔を上げたリリアージュの前にいたのは、完璧な微笑みのアラン。
「……で? アイツは、どうしろって言ったの」
「あの……もっと男性から見て、魅力的かどうかと考えなければと」
「それが、あのカトリーヌ・ダストン男爵令嬢ってわけ?」
その名を口にしたアランは一瞬で顔を歪め、頷くリリアージュを見つめた。
カトリーヌ・ダストン。
それは、リリアージュがあの日聞いた、甘ったるい声を持つ令嬢。
「……ねぇ、リリア嬢。仮に、本当に男が彼女のような振る舞いを良しとするとして、君は……どうするの?」
「どうするって……」
「だって、知りたいんだよね?」
「ですから、参考に……」
「無理だよ。だって、私はあんな女には落ちない」
勝ち誇ったように、アランは唇の端をゆっくりと上げた。
「でも、ガブリエル様は……」
「そうだね……だけど、それが君にとって何の意味があるの?」
ドレスを握りしめたまま、リリアージュはアランを見据えた。
「……私は、ガブリエル様の婚約者です。彼を支え一緒にこの国を背負っていく、それが使命と……」
「でも、肝心のガブリエルはどう? 人目も憚らず愛人を連れ回し、あげく君にまで目撃されている」
「それは……」
「しかも、愛妾にしようだなんて、まことしやかに噂されているんだから……本当頭が痛くなる話だ」
盛大にため息をつき、アランは天を仰いだ。
「正直、ガブリエルには前から軽率なところもあった。だけど、それは成長すればよくなるものだと、思っていたんだけどね」
「それは……」
「まさか、君と婚約したことの意味もわからないほど、馬鹿な弟だったとは……」
「申し訳ございません。私が……私が、もっと……」
「もしかして、自分が至らなかった……なんて、また言おうとしてる?」
「でも……」
「でも、じゃない。そのせいで、君はあんな女の真似なんかしようと……」
居た堪れず目を伏せたリリアージュは、静かに唇を噛み締めた。
「ごめん、リリア嬢。君に怒っているわけじゃないんだ」
「はい……」
「いい? もし君が謝らなければいけないことがあるとしたら……それは、もっと早く私やルーベンスに頼らなかったことだよ」
「アラン様……」




